二重ローン 救済に各党は知恵絞れ

毎日新聞 2011年06月15日

二重ローン 救済に各党は知恵絞れ

未曽有の津波被害をもたらした東日本大震災で家や車、工場などを流された個人や企業の再建をどう手助けできるのか--。

金融庁などによると、金融機関の企業向け債権残高は、岩手、宮城、福島の被災3県沿岸部で、中小企業向けが1兆4300億円、大企業向けが1800億円、住宅ローン債権の残高は7560億円に上る。被災者が住宅や工場の再建に必要な資金を借りれば、旧ローンに加えて新たなローンを抱え込むことになる。

多くの人が、建物だけでなく土地も失い、職や事業も失って、どう生活を再建するか途方にくれているのが現状だろう。高齢者も多い。

法的に整理し、大量の破産者が生まれれば、地元の金融機関も打撃を受け、マイナスの連鎖が広がる。被災地の金融機関からは「貸し出しの金利分を国が肩代わりするなどして、中小企業の再建に向けた新たな貸し出しをしやすくしてほしい」との要望も出ていた。

今は緊急時である。そのことを踏まえ、政府・民主党だけでなく、野党の自民党や公明党も相次いで「二重ローン」問題の救済策をまとめたのは当然の動きと言える。

各党がまとめた救済策は、事業者向けと個人向けに分かれている。

事業者向けでは、被災企業に対する金融機関の債権を買い取る点は共通するが、既存の仕組みを利用する民主党に対し、自公両党は新たな公的機構の設立を打ち出した。また、個人向けでは、住宅ローンの免除をした金融機関への税負担を軽減する点などは共通するが、免除の義務づけなどで考え方が違う。

与野党で、調整のため実務者協議の動きもある。被災地の窮状を見ると、一刻も早い対応が必要だ。党利党略を超えて救済策を練り上げ、予算措置を急いでもらいたい。

「二重ローン」救済は、阪神大震災の時も議論があったが、損失負担や公平性の観点で意見がまとまらず、対策は見送られた。

だが、地域のコミュニティーが根こそぎ奪われた今回の被害の大きさをみれば、国民の理解は得られるのではないか。阪神大震災をきっかけに、被災者生活再建支援法が作られるなど、大きな自然災害を受けて新たな法整備が進んできた歴史もある。

もちろん、公的資金が投入されるのだから、一定の規律やバランスは必要だ。再生可能性の見極めも欠かせないだろう。だが、最終的に被災地の復興につながる対策にしなければ意味がない。やはり、ローンを抱える多くの被災者が免除を含めて一定の恩恵を受けられるのが望ましい。それが実質的に保証される解決の仕組みを工夫してもらいたい。

読売新聞 2011年06月17日

二重ローン 再建へ希望持てる救済策急げ

従来の借金返済に加えて、自宅や事業の再建で新たな負債を背負う「二重ローン」問題が、東日本大震災の被災者に重くのしかかっている。

大津波で自宅や店舗を流され、残ったのは多額の借金だけ――。こうした苦境に立たされた人々が、先行きへの希望を失えば、地域の復興も軌道には乗るまい。

民主、自民、公明の3党は、二重ローン問題に関する協議を開始した。近く編成する第2次補正予算に間に合うよう、早急に対応策をまとめてもらいたい。

被災地の宮城、岩手、福島の3県の沿岸部では、企業や個人の民間金融機関からの借入総額が2・8兆円にのぼっている。

震災による失業者は3県で10万人を超えるほか、工場や店舗、農地などが被災し、収入の途絶えた自営業者も多数いる。

阪神大震災の際も、二重ローン対策は検討されたが、他の災害の被災者との公平性を欠くといった理由で見送られた。

今回は甚大な被害が広範囲に及んでおり、債務を巡る紛争は膨大な件数となろう。二重ローンの救済を円滑に進める枠組みを作らないと、手続きの遅れが復興の支障となる懸念がある。

焦点は、どのように支援の手をさしのべるかだ。

救済法案の策定に向けた与野党協議では、被災した中小企業などの借金を、公的機関やファンドが買い取り、被災企業の返済負担を軽減する方向で一致している。

既存の借金の利払いを、政府などが肩代わりする方針でも合意した。妥当な方策であろう。

個人向けの住宅ローンでは、金融機関が返済を免除することで、借り手の自己破産を防ぐ「個人向け私的整理」の導入を検討している。金融機関の税負担を軽減することで実施を促す案もある。

うまく運用すれば、被災者の生活を安定させられるだろう。

債権買い取りの方法などで与野党の主張に違いはあるが、重要なのは、債務の整理を促進し、被災地での事業再興に弾みをつけることである。小異にこだわらず折り合ってほしい。

二重ローン問題への対応では、債権放棄などで金融機関も負担を強いられる。国会で審議中の金融機能強化法改正案は、公的資金による損失穴埋めを容易にする内容で、二重ローン対策の側面支援になる。早期成立を図るべきだ。

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