朝日新聞 2011年06月15日
原発と民意 決めよう、自分たちで
原発再開の是非を問うイタリアの国民投票で、反対派が9割を超えた。
ドイツの2022年までの段階的閉鎖、スイスの34年までの廃炉に続き、欧州でまた「脱原発」の猛烈な民意が政治を突き動かした。
福島の重大事故のあと、原発への厳しい世論が広がる。
では、日本はどうか。
4月の福井や佐賀、6月の青森など、原発立地県での知事選が相次いだが、原発の存廃そのものを問う展開には見えなかった。「脱原発」票は行き先を探しあぐねているようだった。
欧州との、この落差はいったいどうしたことか。
日本でも、菅直人首相が浜岡原発の停止を求めた。ただ、津波対策を終えるまでの時限措置で、原発全体を視野に入れた方針転換ではない。
国会の動きも理解しがたい。どの政党も太陽光や風力など自然エネルギーの普及に賛成なのに、自然エネルギーによる電気を電力会社が高く買い取る制度を導入する法案は、いまだに審議入りもできていない。
これが、原発推進を国策としてきた日本政治の現状なのだ。
振り返れば、官僚ら「原子力村」の仲間で政策をつくり、安全神話と補助金で地元住民の合意を取りつけてきた。民主、自民の2大政党とも推進派で、有権者が原発問題と向きあう機会が少なかったのも事実だ。
だが、いまや安全神話を信じる人は見あたらない。事故の被害は立地補助金が行き渡る自治体の範囲をはるかに超え、子や孫の世代にまで及びそうな現実も思い知らされている。
もう黙っていられない。私たちの将来を決める選択なのだから「お上任せ」「政治しだい」でいいはずがない。国民がみずからエネルギーを選び、結果の責任も引き受けていこう。
こんな民意が一気に集まり、うねり、各地で散発的に始まった「脱原発デモ」を全国一斉実施にまで拡大させている。
かつてない規模で広がる「脱原発」の民意を、政党はどうくみ取れるのか。始まったばかりの超党派の国会議員による勉強会に注目する。
だが何より大事なのは、やっと声をあげ始めた私たち有権者がもっと議論を重ね、もっと発言していくことだ。
国民投票は容易ではないが、原発の住民投票なら、新潟県巻町(現新潟市)などですでに経験がある。停止中の原発の再稼働を問う住民投票を周辺市町村も含めてやるのも一案だろう。
自分で将来を決めるために。
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毎日新聞 2011年06月19日
論調観測 脱原発というイタリアの選択 分かれた受けとめ方
外国の重要な政治的選択をどう受けとめればいいのか。難しい問題がいくつも横たわっている。その国の内情を知ることが必要だし、選択に至る過程や背景が見逃せない。日本との共通点と相違点も冷静に考えたい。
欧州で脱原発の流れが生まれている。ドイツが原子力発電所を全廃することを閣議決定したのに続き、イタリアが国民投票で原発の再開をしないと決めた。圧倒的多数の票は、福島の事故の衝撃がいかに大きかったかをうかがわせた。
イタリアの選択については、いくつかの背景がある。福島の事故が誇張されて伝わっているという声があるし、ドイツやイタリアは電力が不足すれば、原発大国のフランスなどから輸入できるという面もある。国民投票は、不祥事続きのベルルスコーニ政権への審判の意味合いが強かったし、欧州でも原発を推進している国は少なくない。
しかし、福島の事故を受け、原発をどうするかという課題に対する、市民の率直な意思表示だという側面もあるだろう。
各紙は15、16日の社説で、この問題を取り上げた。
毎日は、脱原発が進めば、電力コストがかさみ、国民負担が増えやすいのを覚悟して、イタリアなどが「安全」を選んだと解説する一方、米国や中国、インドなど、原発推進の姿勢を変えていない国も多いことを指摘した。この世界の分かれ道に際して、事故を起こした日本としては「将来の原発政策を腰を据えて考えたい」と呼びかけた。
東京は、イタリアの決定には地震多発国という事情も作用したのではないかと問いかけ、「その深層にはイタリア国民の自然への畏怖(いふ)があったと思いたい」と結論づけた。
朝日は、日本では民主、自民の2大政党とも推進派で、有権者が原発問題と向き合う機会が少なかったとし、国民がもっと議論を重ねて、発言することが大切だと訴えた。
これに対して、日経はイタリアも日本もエネルギー供給の未来図を描けていないとし、総合的に考える必要性を説いた。
読売は、イタリア経済の低迷を描き出し、今回の決定が欧州経済への打撃になり、影響は日本にも及んでくると解説した。
原発推進の立場をはっきりと打ち出しているのは産経だ。脱原発の流れを食いとめるのは日本の責務だと主張した。
原発の安全性をどう考えるのか。エネルギーの確保やコストの上昇をどうするのか。私たちもさらに議論を深めていく。【論説委員・重里徹也】
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読売新聞 2011年06月16日
イタリアの選択 欧州の原発依存は変わらない
スイスやドイツに続いて、イタリアが「脱原発」の継続を選択した。
欧州ではその一方で、原発大国フランスや英国のほか、フィンランド、スウェーデン、チェコ、ポーランドなど北欧、東欧諸国が原子力発電を推進している。
原発を放棄できる背景には、近隣国の原発による電力を、送電網を通じて輸入できるという欧州ならではの事情がある。実態として欧州の原発依存は変わらない。
イタリアの国民投票で原発の再導入を目指す政府の方針が、94%の反対で拒否された。ベルルスコーニ首相は「結果を受け入れる」と、原発との決別を約束した。
ドイツに比べてイタリアは、風力や太陽光など再生可能エネルギーの開発・普及が遅れている。代替エネルギー開発をどう進めていくのか、イタリア政府は早急に明らかにする責任があろう。
2008年に発足した現在のベルルスコーニ政権が原発再開を目指したのは、電力供給体制の脆弱さを痛感したからだった。
イタリアは1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故後、国民投票で原発廃止の道を選び、90年には主要国で唯一、稼働原発のない国となっていた。
だが、電力需要の15%を輸入に頼るうえ、総発電量の8割以上を占める火力発電の燃料の高騰で、産業用電気料金はフランスの約2倍になった。隣接諸国と結ぶ送電線の事故で大停電も経験した。
イタリアでは過去10年間、先進国では例外的に、1人当たりの国内総生産(GDP)も労働生産性も低下した。財政赤字は膨らみ、経済は低迷している。将来、ユーロ圏経済の波乱要因になりかねないと指摘されている。
このため、原発4基を新設し、2020年までに稼働させる方針を掲げたのだが、福島第一原発の事故という逆風にさらされた。
原発再開を起点にしたベルルスコーニ政権の成長戦略は抜本的な変更を迫られている。もし、イタリアが過去10年の負の遺産を解消していくことができなければ、景気回復の足かせとなる。欧州経済への打撃も大きい。
その影響は、欧州を重要な輸出市場とする日本にも、当然、及んでこよう。
日本は震災からの復興に向け、自国のエネルギー戦略を再構築するとともに、欧州諸国のエネルギー政策も注視する必要がある。
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