池田小事件10年 日頃の備えが子どもを守る

朝日新聞 2011年06月14日

司法改革10年 次代担う層どう育てる

「身近で頼りがいのある司法」を掲げて司法制度改革審議会が意見書を公表して10年になる。裁判員裁判をはじめ、意見書を踏まえて導入された施策はおおむね順調に推移してきた。政治、行政、司法と続いた一連の改革のうち、最も実を上げているといえよう。

そんななか、法律家の養成問題が厚い壁に直面している。

一度の試験の点数を競う旧司法試験の弊害を踏まえ、教育の過程を重視する法科大学院制度が始まり、新司法試験の合格者も年2千人と10年前から倍増した。だが苦労して大学院を出ても合格するとは限らない、弁護士になっても就職事情は厳しいという現実があり、リスクを嫌い志望者は減少傾向にある。

司法を担う層がしっかりしなくて困るのは、利用する普通の人だ。法科大学院を中核とする養成の理念は堅持しつつ、定員の見直しや乱立した大学院の改編、法曹の道に進まなかった卒業生の処遇など、踏み込んだ対策に取り組む必要がある。

法曹関係者だけでなく、経済界、労働界、消費者問題の専門家らが入った政府の検討会が先月発足した。利害や思惑を超え充実した議論を期待したい。

その際、何より大切なのは市民・利用者の視点である。

例えば、弁護士が増えると競争が激化し食べていけない、人権活動もおろそかになるとして法曹人口の抑制を唱える声が根強くある。ずいぶん身勝手な主張と言わざるを得ない。

数の増加は質の低下を招くとの指摘も聞かれる。事実なら手当てが必要だが、そこでも法律家に求められる質とは何かという問題意識をもつ必要がある。

相談者の来訪を待ち、裁判所向けの書面をつくる。昔ながらの弁護士像を前提にするだけでは展望は開けない。

世の中には、権利を主張できぬまま福祉や医療サービスの外に置かれ、だまされても警察に相談することすらかなわない、そんな人も少なくない。企業、役所、NPOなど法的素養が求められる場はいろいろある。

たしかに改革審が想定したほどの出番はまだ見えないかもしれない。だが、市民との距離を縮めて真のニーズを掘り起こす努力もそこそこに、縮小安定の世界に逃げ込んでしまっては、法の下でだれもが平等・対等に生きる社会は実現しない。

司法試験のあり方や合格後の修習についても、同様に旧来の発想や基準にとらわれずに再検討することが必要だろう。

人材をどう育て鍛えるか。次の10年の成否がかかっている。

読売新聞 2011年06月09日

池田小事件10年 日頃の備えが子どもを守る

大阪教育大付属池田小学校の児童殺傷事件から8日で10年がたった。

包丁を持った男が学校に押し入り、当時1、2年生の児童8人を殺害、教師ら15人に重軽傷を負わせた衝撃的な事件だった。

襲われた教室の児童たちは高校生になった。いまだに心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ生徒もいる。心の傷を癒やす、息の長いケアが必要だ。

この事件が社会に突きつけたのは、学校の安全をいかにして守るか、という問いである。

国が導入した施策の一つに、防犯監視システムの整備がある。防犯カメラやセンサー、インターホンなどのいずれかを配置している学校は3年前の調査で、全国の7割近くに上る。

ただし、機器を取り付ければ不審者の侵入を防げるというものではあるまい。毎年、学校施設への侵入事件は1500件を超す。

池田小事件の2年後には、京都府宇治市の小学校に包丁を持った男が侵入し、児童2人にけがをさせた。防犯カメラもセンサーもあったが、カメラは常時監視しているわけではなく、センサーも「うるさいから」と、切っていた。

教職員らの監視の緩みが、防犯上の“死角”を作る。大切なのは、子どもを守るという日頃の意識や万一への備えであろう。

事件当時、池田小にいたある教師は、転任先で安全性を高めるための提案をし、受け入れられた。サンダル履きの教師を、不審者に迅速な対応ができないとして、運動靴に履き替えさせた。

教室が1階にあると、不審者に侵入されやすいため、上の階に移動させたという。

通学路の安全確保も欠かせない。事件後、人通りのない危険な場所を記した安全マップ作りや、住民たちで登下校時の子どもを見守る地域が増えた。

その地図や取り組みも、現状に合わなくなってはいないか。常に再点検が求められよう。

池田小は昨年、世界保健機関(WHO)から、「インターナショナル・セーフ・スクール」に認証された。国際的に「安全な学校」とのお墨付きを得た。

特に評価されたのは、全学年を対象とした「安全科」の授業だ。不審者への対応訓練のほか、水難事故を想定し、着衣のままプールに入る。火災訓練では発煙装置を使い、床をはって避難する。

犯罪や自然災害から身を守るすべを、子ども自身に学ばせることも重要である。

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