原発事故報告 安全策の見直しは国際公約だ

朝日新聞 2011年06月09日

原発事故報告 集中立地の弱点認める

一言でいえば、反省文の全面展開だ。政府が国際原子力機関(IAEA)に提出した福島第一原発事故の報告書である。

暫定版の位置づけだが、事故発生以来、批判され不備を認めたことの大半を盛り込んだ。

目を引くのは、複数炉立地の弱点に触れたくだりだ。「一つの原子炉の事故の進展が隣接する原子炉の緊急時対応に影響を及ぼした」。個々の炉の独立性を高める対策などが必要としているが、集中立地そのものの危うさを認めたともいえる。

むすびでは「安全確保を含めた現実のコストを明らかにする中で、原子力発電のあり方についても国民的な議論を行っていく必要がある」とも書く。

原子力平和利用の旗を掲げるIAEAに出す文書としては、一歩踏み込んでいる。

不十分な点も多い。

原発で何が起こったか。その経過は詳述されている。だが、政府や東京電力のどこの部署がどんな理由でどう判断したか、関係部署の間でどんな指示や情報のやりとりがあったか――その全容はまだ見えない。

政府組織の改革案は示されたが、「原子力村」の閉鎖性を破る決め手には欠く。

そこで、最終報告書づくりに向けて期待されるのが、「失敗学」の提唱者、畑村洋太郎さんを委員長とする事故調査・検証委員会だ。この事故調の弱みも強みも、委員に原子力工学の専門家がいないことにある。

関係者からの聴き取りを重ねて事故の真相に迫るとき、それは弱みになる。聴きだした話の矛盾点を見いだす能力は欠かせないからだ。委員の下に、中立で強力な専門家集団を置くことも一案だろう。

念を押したいのは、畑村さんの「責任追及は目的としない」という方針を、取り違えてはならないということだ。

方針の趣旨は、再発防止の鍵を得るには、当事者が刑罰や制裁を恐れずに洗いざらい真実を語る環境をつくる必要があるということだろう。これこそが失敗学の核心であり、事故調の役割を言い当てている。

それが、責任の所在をぼやかすことにつながっては、結果として事故の全体像も見失う。

一方で強みもまた、委員の顔ぶれに原子力村の色合いがないことだ。科学技術史の専門家もいる。地震学者もいる。原子力村のしがらみなしに、この地震列島に原発が増え続けた内実にも切り込めるのではないか。

過去も未来も視野に入れ、大構えで、日本の原子力そのものを検証してほしい。

毎日新聞 2011年06月08日

原発事故検証 国民に判断材料を示せ

国際原子力機関(IAEA)の会合に向け、日本政府がまとめた福島第1原発事故の報告書が公表された。事故の経緯を述べた上で28項目の「教訓」が列挙されている。

その多くが、専門家やメディアが指摘してきたものの、政府が公式に認めていなかった内容だ。

たとえば、今回のように炉心溶融に至るシビアアクシデント(過酷事故)を想定した対策は、電力会社の自主的取り組みに任されてきた。事故対策の指針は20年近く見直されず、訓練も不十分だった。

事故の確率的なリスク評価も多数実施していたのに活用してこなかった。事故後の放射線モニタリングも、情報提供も不十分だった。放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」も有効に使われなかった。

政府自身がこうした問題を自ら認め、対策強化をうたった点では、報告書は検証に向けた一歩とみていいだろう。ただ、分析が不十分な点もある。

たとえば、初動が遅れた原因は何か。そこからどういう教訓が引き出せるのか。情報提供の不備により国民はどれほど被ばくなどの不利益を被ったのか。

原子力安全・保安院の経済産業省からの独立は当然だが、原子力安全委員会などがどのように役割を果たしたのかも、今後の安全規制体制を考える上で重要だろう。

そもそも、今回の報告書はあくまで政府による暫定的なものだ。その内容は、独立した第三者機関である「事故調査・検証委員会」によって検証されるべきものである。

事故調の初会合では、菅直人首相が「政府がこういう方向でお願いするということは一切言わない。求められたものはすべて出す」と述べている。

事故調は、政府の報告書もひとつの材料とした上で、予断を持たず、完全に独立した検証を公開の場で進めることが大切だ。政府はこれに、100%協力すべきだ。

事故調の畑村洋太郎委員長が「原子力はエネルギー密度が非常に高く危険であり、安全とされてきたことは間違いだと思う」と述べたことにも注目したい。

事故調は、こうした原発の根本に立ち返る厳しい見方を持って、検証作業を進めてほしい。

今回の事故の検証は福島第1原発だけの問題ではない。日本の原発全体、ひいては世界の原発の安全にもかかわる。

日本はこれから、原発政策をどうしていくかの国民的な議論を進めなくてはならない。事故検証はその議論の土台ともなるものであり、事故調は公正な判断材料をしっかり示してほしい。

読売新聞 2011年06月08日

原発事故報告 安全策の見直しは国際公約だ

原子力発電所の安全確保策は、根本から見直さざるを得ない。

政府がまとめた福島第一原発事故の報告書が、そうした厳しい認識を示した。

今月20日からウィーンで開かれる国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会合で報告される。

今回の事故の教訓として、報告書は、政府の安全規制組織や法制度の再検討、事故対応や全原発の安全向上策など28項目を挙げ、政府の方針を述べている。

備えが不十分だったことは間違いない。この報告は国際公約とも言える。実現可能なものから、具体化を急ぐべきだ。

報告書は、安全規制の責任を明確にするため、原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、新組織を検討する、とした。

放射能汚染の情報公開の遅れなどが批判されたことから、情報提供の方法も改める、という。

原発の安全向上策でも、報告書の指摘は厳しい。

政府は事故後、国内の原発に対して、非常用電源の津波対策強化などを求めたが、報告書は、さらに一歩踏み込んで、原発の設計や構造にまで注文をつけた。

例えば一つの原発に複数の原子炉がある場合だ。福島第一原発では、電源や中央制御室を複数の炉で共用していたため、対応が複雑になった。共用部分からは汚染水が別の炉の建屋に漏れ出した。

これを防ぐには、炉ごとに事故対応ができ、他の炉に影響を及ぼさない対策が必要とした。

使用済み核燃料の保管場所も配置に改善を求めた。福島第一原発は30~40メートルの高所に保管プールがあり、冷却が難航したからだ。

安全確保へのハードルは大幅に引き上げられる。既存の原発の安全性を向上させるには、大規模な改修も避けられないだろう。

7日には政府の福島原発事故調査・検証委員会の初会合が開かれた。「失敗学」を提唱した畑村洋太郎東大名誉教授を委員長に、原子力の専門家ではない有識者10人で構成されている。

委員会は、IAEAへの報告書も検証し、首相や閣僚の対応まで踏み込んで事故を解明する。

政府、電力業界が「安全」としてきた日本の原発で深刻な事故が起き、収束に手間取っているのはなぜか。こうした疑問に答え、原発の安全性に対する信頼回復につながる多面的な調査が必要だ。

委員会の役割は重い。

手癖 - 2011/06/09 11:59
最近貴サイトを知りました。有益な比較多数、ありがとうございます。毎日と読売読んでいないので、なかなか面白いです^^これからも頑張ってください!
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