ドイツ「脱原発」 競争力揺るがす政策再転換

朝日新聞 2011年06月08日

ドイツの決断 脱原発への果敢な挑戦

ドイツ政府が「脱原発」の方針を閣議決定した。17基ある原子力発電所のうち8基をすぐに閉鎖、残り9基も2022年までに段階的に閉鎖する。

世界の主要国の一つであり、欧州経済を引っ張る国である。原発という巨大なリスクを、徐々に取り除いていこうという決断は重い。

もともと中道左派政権は02年に脱原発の旗を掲げていた。昨年秋、中道保守のメルケル政権は原発の運転期間の延長をいったん決めたが、今回の決定で元の路線に戻った。

福島第一原発の悲惨な事故が、ドイツの脱原発への動きを後押しした事実は、改めて重く受け止めなければならない。

朝日新聞の国際世論調査では、市民の8割以上が原発に反対し、7割近い人々が10年以内の原発閉鎖を望んでいた。

メルケル政権の決断は、この民意に沿ったものだ。右から左まで主要政党の足並みがそろったドイツは今後、政治や社会が一致結束して脱原発への歩みを早めることになろう。

風力や太陽光、バイオマスといった再生可能エネルギーの普及に力を入れる。家屋の断熱性の改善などの省エネを進める。これが対策の2本柱だ。

電力供給のうち原子力は23%を占めている。当面は天然ガスや石炭火力を増強しつつ、現在17%ある再生可能エネルギーによる発電の割合を20年までに35%に倍増させるという。

風力発電地帯の北部から人口の多い南部への送電線をどう増設するか。電力料金の値上がりをどう抑えるのか。課題は山積している。

この国の強みは、脱原発への助走段階で実績をあげていることだ。電力の買い取り制度や送電線開放によって風力や太陽光発電の産業化を進め、新たな雇用と成長を生み出している。

フランスやチェコなど周辺国と電力を融通しあう仕組みがあるが、その割合はごくわずかにすぎない。政府はエネルギー源を他国に依存しない方針だ。

メルケル首相は「未来への巨大なチャンスだ」と国民を鼓舞している。今後、脱原発への離陸に成功すれば、ドイツは21世紀の新しい文明と生活のモデルを示すことができよう。

事情が大きく異なるとはいえ、ドイツの果敢な挑戦から日本は目を離してはなるまい。

社会全体で熟議が積み重ねられてきたドイツに比べて、日本では、原発は国策だからという理由で政界も学界も思考停止に陥っていた。その呪縛をまず断ち切ることから始めよう。

読売新聞 2011年06月07日

ドイツ「脱原発」 競争力揺るがす政策再転換

ドイツの産業競争力を奪いかねない重大な政策転換である。

ドイツ政府は6日、既存の原子力発電所17基を2022年までに全廃することを決めた。1980年以前に建設された古い原発など現在運転停止中の8基をそのまま停止し、残りは稼働期間32年をメドに順次停止するという。

中道左派連立政権が2002年に法制化した「脱原発」政策への回帰である。

メルケル首相率いる現在の中道右派連立政権は昨秋、従来の脱原発政策を転換し、原発の稼働期間を平均12年延長する方針をいったん決めた。風力など自然エネルギーでは必要な電力を賄えない、との判断からだった。

それをわずか半年余りで再度転換したのは、東京電力福島第一原発の事故がドイツ国民に与えた衝撃の大きさを物語るものだろう。事故後のドイツ地方選で、原発早期廃止を訴える環境政党が大躍進し、連立与党は敗北を重ねた。

原子力は、ドイツの発電量の2割強を供給する重要なエネルギー源である。脱原発で生まれる不足分は、当面は火力発電所の増設などで、将来的には自然エネルギーの拡充で埋めるという。

だが、その道程には不確定要素が多い。

増強をもくろむ風力発電はバルト海沿岸など北部に集中し、南部への送電網の建設に多額の投資が必要だ。自然エネルギーの高コスト体質に拍車をかけかねない。

自然エネルギー特有の供給の不安定さもつきまとう。

ドイツ産業界が競争力の喪失を懸念する所以(ゆえん)である。ドイツは欧州経済の牽引(けんいん)車だけに、欧州全体の景気も左右されよう。

ドイツが脱原発へと(かじ)を切れるのは、陸続きの周辺諸国から電力を輸入できるからだ。現に今、電力の8割を原発に依存するフランスや旧ソ連型の原発が稼働するチェコから輸入している。

原発廃棄は決めても、原子力に由来する電力に頼る構図は変わらない。自国の原発技術の売り込みも続けるという。ご都合主義の側面も否めない。

世界の趨勢(すうせい)を見れば、中国やインドなど多くの国が、増大する自国のエネルギー需要の供給源を原発に求めている。

島国の日本も、ドイツとは事情が異なる。電力を隣国から買うことはできない。産業競争力を維持するうえで、安全性を高めて原発を活用していくことが、当面の現実的な選択である。

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