大相撲改革 親方株問題に取り組め

朝日新聞 2011年06月05日

大相撲改革 親方株問題に取り組め

これで一件落着とは、とてもいかない。

八百長にまみれた大相撲が、7月の名古屋場所で通常の姿で開かれることになった。八百長防止策を打ち出して無料公開した5月の夏場所が大過なく終わり、日本相撲協会から報告を受けた文部科学省が3場所ぶりの通常開催を認めた。

だが、角界に一息ついている時間はない。

今回の報告で文科省が協会に強く求めたのが、組織改革に取り組む工程表の提出だった。野球賭博、八百長疑惑と度重なった不祥事の根っこに、相撲文化や伝統という言葉の上にあぐらをかいて改革を進めてこなかった協会や、閉鎖的な角界の構造があったためだ。

なかでも巨額で売買され、いわば個人資産として扱われている年寄名跡(みょうせき)の改革は避けて通れない。親方株とも呼ばれる年寄名跡は、現役引退後に協会に残るために取得を義務づけたものだ。一代年寄を除いて105株と数が限られるうえ、一度手にすれば、引退後の収入や身分を保証してくれるものとして売買の対象となってきた。

1970年代には1千万円程度だったが、80年代に億単位に跳ね上がり、借金をして買う例もあったという。96年には故二子山親方(元大関貴ノ花)が名跡取得の取引に絡んで国税当局から購入資金の申告漏れを指摘され、約3億円で売買されていたことがわかった。

指導者としての能力や、協会に貢献できる人材であるかどうかは二の次で、後進を指導する立場がまずはカネ次第というのでは世間から理解されない。まして協会は、新公益法人への移行を掲げている。

しかし、角界は年寄名跡を聖域のように扱ってきた。

96年の申告漏れ問題をきっかけに、当時の境川理事長(元横綱佐田の山)は年寄名跡の売買禁止、協会管理を打ち出したが、親方たちの反発にあって頓挫した。今度の工程表にも同様の改革案は盛り込まれたが、本格的な議論をせず、名古屋場所開催を取り付けるために体裁を整えたにすぎない。

既得権益を守ろうとする親方たちの話し合いでは前に進まない。年寄名跡は、外部有識者による「ガバナンスの整備に関する独立委員会」の答申でも、改革の最重要点にあげられた。外部の人にも、積極的に議論に加わってもらうべきだ。

問われているのは、大相撲を将来にどう残していくかという話だ。株の問題を土俵に上げ、正面から取り組んでほしい。

毎日新聞 2011年06月06日

名古屋場所 仕切り直しの土俵に

日本相撲協会は大相撲名古屋場所(7月10日初日、愛知県体育館)を通常開催することを決めた。NHKも1月場所以来半年ぶりにテレビ、ラジオの生中継を再開する。

2月の八百長事件発覚以降、協会は3月の春場所(大阪)を中止、5月の夏場所(東京・両国)は無料公開の「技量審査場所」とし、実質的に2場所連続で本場所開催を見送った。その間、放駒理事長は八百長事件の「全容解明」「関係者の処分」「再発防止策の策定」を本場所再開の条件とし、外部の有識者らによる委員会を設置。その最終答申を受けて協会としての対応をまとめた。

過去に八百長相撲はなかったのか。八百長に手を染めたのは今回の25人の処分者だけだったのか。また、監察委員の増員など小手先の「再発防止策」で八百長相撲を根絶やしにできるのかなど、不備な点をいくつも残した決着ではあるが、これ以上時間を費やして調査を進めても大きな成果が上がるとは思えない。

協会が今後も八百長根絶に向け、力士らの研修を徹底するなど、誠実に再発防止に努めることを期待し、本場所の再開を歓迎したい。

生中継の再開を決めたNHKの松本正之会長は2日の会見で、東日本大震災の被災地を含め全国の視聴者から大相撲中継の再開を求める声が寄せられたことを明らかにした。今も不便な避難所暮らしを強いられている被災地の人たちにとって大相撲中継が、失った日常を少しでも取り戻す一助になることを願いたい。

本場所の再開は決まったが、協会には課題が山積している。協会が目指す新たな公益法人格の取得には組織改革が欠かせない。外部有識者による「ガバナンス(組織の統治)の整備に関する独立委員会」が2月に答申した改革案をもとに協会が作成した工程表にそって、着実に作業を進めてもらいたい。

名古屋場所は「記録」の上で注目される場所となる。ベテラン大関・魁皇は元横綱・千代の富士が持つ通算1045勝に「あと1勝」と迫っており、横綱・白鵬は前人未到の8連覇に挑む。大記録がかかった分、これまで以上に厳しい目が土俵に注がれることを力士をはじめ協会関係者は覚悟しなければなるまい。

昨年の名古屋場所は野球賭博事件の直撃を受け、テレビ中継がなく、天皇賜杯の授与もない異例の場所だった。今回の名古屋場所は八百長事件から再起を図る場所となった。皮肉な巡り合わせだが、大相撲の再開を心待ちにしていたファンは少なくない。八百長の発覚以降、寂しい思いをしていた相撲ファンへの罪ほろぼしの意味でも緊張感と気力にあふれた土俵上の熱戦を期待したい。

読売新聞 2011年06月06日

名古屋場所開催 大相撲再生への第一歩にせよ

日本相撲協会は、7月10日が初日の名古屋場所を予定通り開催することを決めた。

八百長問題で春場所と夏場所は中止に追い込まれた。1月の初場所以来の本場所開催である。待ちわびたファンの期待を裏切らない充実した土俵を見せてほしい。

相撲協会の放駒理事長は、八百長の全容解明、関与した力士の処分、再発防止の徹底を「3点セット」として本場所再開の条件に挙げてきた。

弁護士らによる特別調査委員会が、八百長を認めた力士や親方の証言を基に、計25人の関与を認定した。相撲協会はこの25人に引退勧告などの処分を下した。

夏場所に代わり、興行色を排して無料公開した5月の技量審査場所では、再発防止に取り組んだ。力士の不審な動きをチェックするため、支度部屋に監視役の親方を配置した。力士が国技館に携帯電話を持ち込むことも禁じた。

技量審査場所では、八百長が疑われる取組は一番もなかったという。相撲協会の取り組みが奏功したとすれば、今後も継続させていくべきだ。

相撲協会を監督する文部科学省は本場所開催に理解を示した。NHKも中継の再開を決めた。

名古屋場所の開催決定は、大方のファンに受け入れられるのではないだろうか。

ただ、これでウミを出し切ったと見るのは早計だろう。

「処分された力士が考案して始めたものではない」。特別調査委の最終報告書は、過去にも八百長が存在していた可能性をこう指摘している。だが、それを特定する証拠の発見にまでは至らなかった、ということだ。

幾度となく八百長疑惑が取りざたされながら、有効な防止策を講じなかったとして、「歴代理事らの責任は重い」とも断じた。

相撲協会はこうした批判を重く受け止め、再発防止に不断の努力を重ねていかねばならない。

八百長問題以外でも、旧弊を一掃する角界全体の改革が、今後の大きな課題である。

特に問題視されているのは、親方として協会に残るために必要な年寄名跡(親方株)の存在だ。高額で売買される実態が、あまりに不透明だからだ。

相撲協会は、年寄名跡のあり方などについて、今秋ごろに改善策をまとめるという。

どこまで大なたを振るうのか、大相撲再生を目指す協会の覚悟が問われている。

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