社会保障改革 どんな政局であろうと

朝日新聞 2011年06月04日

税と社会保障 改革のバトンをつなげ

税と社会保障の一体改革を議論してきた政府の「集中検討会議」が改革案をまとめた。今月下旬に、政府・与党で正式決定するという。

サービスの充実と削減を組み合わせたうえ、現行制度に開いた財源の穴を埋めるため、消費税率を2015年度までに10%に引き上げるとした。

急速な少子高齢化のなか、首相が誰であれ、痛みを伴う改革は避けられない。今回、負担増から逃げない案が出てきたことは評価したい。

改革案の中身は、どれ一つとっても容易なものはない。

約400万人のパート労働者を、正社員と同じ年金・健康保険に入れるとなれば、負担が増える企業から激しい抵抗が予想される。

年金の給付引き下げ、医療の窓口負担引き上げなど、高齢者を対象とした改革への政治的リスクも高い。

なにより消費増税だ。

消費税は導入の時も、5%への増税時も、いくつもの内閣が断念を余儀なくされ、長い時間がかかった。今回は4年で5%幅を上げるのだ。

消費税の使途を社会保障に限定することへの懸念も広がっている。いまは消費税収の約44%が実質的に地方の自由な財源となっている。増税後に国と地方でどう配分するのか、はっきりしない。社会保障の現場を実際に運営する地方自治体とは、丁寧な話し合いが必要だ。

政府には「15年度までに国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の赤字を半減する」という目標がある。今回、改革が予定通り進めば達成できる見通しを示した。

ただ、ここには震災復興の費用が織り込まれていない。しかも、5%幅の税収増だけでは「20年度までにPBの黒字化」という次の目標には届かず、赤字国債で将来世代にツケを回す構造は解消できない。

実現が担保されない「たたき台」に近い改革案だが、意義は小さくない。

与野党協議のために、目玉政策だった子ども手当の満額支給を封印し、消費増税の必要性と向き合った。野党時代は「無駄を省けば財源は出る」と主張した民主党だが、政権党として現実を直視した結果だろう。社会保障は長期的に安定した運用が必要だ。政争の具にせず、与野党で決めるのが望ましい。

菅直人首相の辞任表明をめぐり大荒れの政界だが、政府・与党が一体となって最終案をまとめ、改革のバトンをつないでいって欲しい。

毎日新聞 2011年06月04日

社会保障改革 どんな政局であろうと

政治がこのようなありさまだからこそ確認しておきたい。わが国は先進諸国の中で最も高齢化が進んでいるが、国民負担は最低レベルだ。ほころびは出ているが国民皆年金・皆保険も実現している。負担は少ないのにどうしてなのかといえば、膨大な借金をしているからだ。それを払うのは子や孫たちである。

内閣不信任案で国会が騒然とする中、政府の税と社会保障改革案が公表された。消費税率を15年度までに10%に引き上げ、子育て・医療・介護・年金に使途を限るという内容だ。予算総則で消費税収入(国分)は基礎年金などの高齢者3経費に充てることになっているが、現時点で約10兆円足りず、毎年借金でしのいでいる。消費税増を避けることができないのはそのためだ。今後も高齢化による自然増で毎年1兆円ずつ経費がかさむことを考えれば、10%でもまったく足りない。

崩壊の危機が叫ばれている急性期医療の充実や高額療養費の拡充、低所得者対策などにも予算が必要だ。より抜本的には「支える側」の強化である。現状は少子化で人口が減っているが、若年人口が増え税収も増えていけば高齢化に伴う財政問題は改善される。改革案では子ども・子育て支援を最優先課題に位置づけ、保育所の待機児童の解消、幼保一体化の実現、放課後児童クラブの拡充などを列挙した。これまで子育て支援への公費支出があまりに少なかったことを思えば当然であろう。

ただし、こうした給付充実策を実現するにはさらに計3・8兆円が必要だ。そのため高所得者の基礎年金減額、医療費の窓口負担に定額の上乗せ、平均入院期間の短縮などの給付抑制策が盛り込まれた。社会保障費支出全体の5割を占める年金では支給開始年齢の引き上げ、専業主婦の年金や在職老齢年金の見直し、パートなど短時間労働者への厚生年金の適用拡大、厚生年金と共済年金の一元化なども検討課題に挙げられた。負担増となる人や業界からの反発も予想されるが、持続可能な社会保障制度を今のうちに作っておかなければ取り返しがつかなくなる。

この改革案は自公政権下で検討されてきたものを下敷きにしている。どんな政局であろうと、野党側が協議に乗らないのは筋が通らない。一方、民主党にとってはマニフェストの重要な部分の修正・棚上げを意味する。政府内や党内からは異論も聞かれるが、政権与党の責任において実現に向け最善を尽くすべきだ。

これから高齢化の坂道はまだまだ続く。改革案は現時点で実現可能性のあるメニューをそろえたのであり、一里塚に過ぎないことを忘れてはならない。

読売新聞 2011年06月05日

社会保障と税 一体改革に向け一歩前進した

消費税率を引き上げる与野党協議のたたき台とすべきだろう。

菅首相を議長とする、政府・与党の「社会保障改革に関する集中検討会議」が改革案をとりまとめた。

財政赤字が拡大し、超少子高齢社会の福祉財源の確保が急務になっている。

改革案は、消費税を社会保障目的税とし、「2015年度までに2度に分けて、10%まで引き上げる」との方針を明確にした。消費税率を5%引き上げる工程表を示した意義は大きい。

なぜ、10%が必要か。検討会議の説明はこうだ。

子育て支援、医療・介護、年金の各制度を充実強化するために約3・8兆円を要する。一方で、医療や福祉サービスの給付を抑え、1・2兆円近い公費を減らす。

差し引きで約2・7兆円が要る。さらに基礎年金に税金を投入する費用などを捻出するために、消費税率の5%引き上げが必要と結論づけた。

自民党はすでに、昨年の参院選の公約に「消費税率10%」を先んじて掲げている。今回の改革案によって、民主、自民両党は財源面で一致したことになる。

中長期的にはより高い消費税率が不可欠になる、との認識や、社会保障予算を独立会計とする方針も共通している。

さらに年金改革では、民主党がこだわってきた所得比例年金の創設を事実上棚上げし、自民、公明両党が主張する現行年金制度の手直しを優先した。

大筋で、与野党協議の基盤が見えつつあると言えよう。

ただし改革案は、子ども手当は現行通りとするなど、民主党の政権公約(マニフェスト)に関わる部分に手をつけていない。

また、低所得者の救済策などを手厚く盛り込む一方、制度の無駄に切り込む「効率化」については民主党内で賛否が割れている。

与野党間の具体的な協議につなげていくには、政府・与党内でさらに議論すべきだ。野党に対する譲歩も必要になるだろう。

求心力を失いつつある菅首相には、そのようなリーダーシップは望めないかもしれない。

しかし、社会保障と税の一体改革は、どのような政権になっても避けられない課題だ。

与野党の政策調整で、誰もが安心して暮らせる社会保障改革の実現を目指したい。

そのためにも、与野党が協力して取り組むことのできる「ポスト菅」政権が必要である。

朝日新聞 2011年06月01日

社会保障改革 首相は使命を果たせ

社会保障と税の一体改革を議論している政府の集中検討会議が大詰めを迎えている。2日には、社会保障改革案の全体像と費用推計が出る予定だ。

ところが、菅直人首相の言動を見ると、まともな内容に仕上がるかどうか、心配になる。

5月23日の会議では、首相はリーダーシップを見せていた。(1)子育て支援サービスの増強と「幼保一体化」(2)パート労働者の厚生年金・健康保険への加入拡大(3)医療・介護、保育などの自己負担の合計に上限を設定することを「安心3本柱」とし、検討を求めた。「総理指示」は明快で具体的だった。

「次回は、効率化3本柱とも言える効率化・重点化の優先課題も提示したい」と約束した首相は、G8サミット出席のため欧州に旅立った。

これまで会議では、すべての患者の窓口負担に少額を上乗せして、重病患者の負担軽減に回すことや、年金の支給開始年齢の引き上げなど、様々な効率化・重点化策が議論されてきた。

首相は、その中から優先課題を選んで3本柱にまとめ、帰国後の会議で示す。それを受けて、2日に改革の全体像をまとめる段取りだった。

ところが、30日、首相から効率化の指示はなかった。代わりに示された「支え合い3本柱」は「世代内・世代間の公平な支え合い」などあいまいで、具体策への言及もない。

確かに今は、野党が与党内の造反を誘いながら、内閣不信任案の提出を探っている状況だ。高齢者や患者の負担増など、痛みを伴う不人気政策を口に出すタイミングではないと判断したのかもしれない。

しかし、これは社会保障と税の一体改革なのだ。

30日の会議では、内閣府と財務省が、税率を2~3%幅ずつ引き上げるといった消費増税の道筋を示している。それなのに、社会保障改革の姿があいまいでは、必要な費用試算も説得力を持ちえないし、負担増への理解も広がるまい。

思い出すのは、昨年末の年金をめぐる騒動だ。物価が下落すれば年金も減らすルールがあるが、首相は据え置きの検討を指示。最終的に給付減を了承したが、痛みの伴う決断にちゅうちょする姿を印象づけた。

与謝野馨・経済財政相は、2日の最終案が出れば、厳しい話から首相が逃げたのではないかという「疑念は払拭(ふっしょく)される」と話した。

ぜひ、そうあって欲しい。給付と負担を正面から問うのが、首相の歴史的使命だろう。

望月 浩 - 2011/06/05 08:38
被災地の皆様のそれぞれにご苦労を余儀なくなれている情状において、私は身体障害者になり就職をも決まらない事は事実です

国民がそれぞれ平等を党の方針に掲げながらマスコミより問いただす記事等拝見するにいたり不安は隠せません。
望月 浩 - 2011/06/05 08:38
被災地の皆様のそれぞれにご苦労を余儀なくなれている情状において、私は身体障害者になり就職をも決まらない事は事実です

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