内閣不信任案 混乱させればいいのか

朝日新聞 2011年06月02日

不信任案提出 無責任にもほどがある

ついに自民、公明、たちあがれ日本の3党が、菅内閣の不信任決議案を衆院に提出した。

いま、国会の使命は東日本大震災の復旧・復興に向けた予算や法律づくりだ。それなのに露骨な権力ゲームにふける国会議員たちに強い憤りを覚える。

内閣不信任案は、野党の政権攻撃の切り札だ。それを切るなら、もっとわかりやすい理由と明確な展望が要る。そのどちらもないではないか。

自民党の谷垣禎一総裁は、きのうの党首討論で、震災と原発事故への対応の不手際などを理由に挙げた。

確かに、原発事故の情報公開は遅れ、迷走を重ねている。だが、自民党がこれみよがしに攻め立てることへの違和感をぬぐえない。情報公開への消極姿勢も危機管理の甘さも、自民党政権でも指摘されてきたことだ。国策として原子力発電を進めたのも自民党だった。

だからこそ、各党が力を合わせて危機を乗り越えてほしい。それが国民の願いだろう。

谷垣氏は菅直人首相が辞めれば、「党派を超えて団結する道はいくらでもできる」という。

だが「菅おろし」に同調するのは、小沢一郎元代表ら民主党の「反菅」勢力だ。両者は、民主党マニフェストの撤回か、固守かで百八十度違う。首相を代える一点でのみの協調であり、その先の政権構想も描けまい。

「急流でも馬を乗り換えよ」と唱えるのなら、せめて乗り換える馬とともに、その行く先を明示しなければ無責任だ。

野党よりもっと、あぜんとさせられるのは、民主党内の動きだ。首相指名で菅氏に投じ、政権を誕生させた連帯責任を都合よく忘れたようだ。

首相に知恵と力を貸し、叱咤(しった)し、政治を前に進める。それが与党議員の責任だ。なぜ、被災地を回り、支援策を考え、首相に実現を迫る努力を、もっとしないのか。

野党が提出する不信任案への賛成は筋が通らない。内閣を倒そうとするのなら、まず離党してから行動すべきだ。賛成しても除名されないと考えているなら、非常識にもほどがある。

不信任にひた走る議員は、可決されても、この震災下では衆院解散・総選挙はできないと踏んでいるように見える。だとしたら、本来の解散権を縛られたような状況のもとで不信任を行使する政治手法に、姑息(こそく)とのそしりも免れない。

こんな不信任騒動をしなければ、政治は進化できないのか。政治全体が不信任を突きつけられる事態を憂う。

毎日新聞 2011年06月02日

不信任決議案提出 やはり大義は見えない

なお10万を超す避難者や、生活再建に取り組む人たちの目にこの攻防はどう映っているだろう。自民、公明など野党は1日、菅内閣に対する不信任決議案を提出した。

衆院本会議で2日に行われる採決では民主党議員の大量造反が見込まれ、党の分裂含みで状況は緊迫している。東日本大震災の復旧のさなか、自民党はあえて倒閣へ勝負に出た。だが、納得するに足る大義名分が掲げられたとは言い難い。

なぜ今、不信任決議案なのか。谷垣禎一自民党総裁が「おやめになってはいかがか」と退陣を促し、菅直人首相が「復興、原発事故収束の責任を果たしたい」と拒んだ党首討論の応酬を聞いても疑問は解消できなかった。

谷垣氏は政権発足以来の民主党の選挙での敗北、米軍普天間飛行場移設の停滞などを挙げ「人徳も力量もない」と首相の指導力を批判した。だが、大震災を経た国会のさなかで決議案を出すからには震災、原発事故対応で「なぜ首相ではだめなのか」、さらに「誰ならいいのか」を十分説明する責任があったはずだ。

被災者支援の遅れなどはもっともな指摘だったが「建設的な意見をいただいた」と首相に逆手に取られた。原発事故の初動対応に問題が生じているのも事実だ。しかし、首相が谷垣氏に反問したように、自民党の従来の原子力政策や安全対策も問われている。

もちろん、この状況を招いた責任は民主党を掌握できない首相にもある。首相は討論で「通年国会」も含め国会の会期を大幅に延長し、2次補正予算案など震災対応に取り組む方針をようやく表明した。今国会でどこまで政権を懸けて復興に取り組む決意があるのか、谷垣氏が真に問うべきはこの点だ。

内閣の命運を決する2日の採決で民主党議員の責任は野党以上に大きい。小沢一郎元代表の系列議員を中心に大量造反が予想されている。いろいろ理由はあろうが、本質は震災でいったん封印された内紛の蒸し返しである。不信任決議案への対応は政党人として極めて重い。野党の提案に同調するというのであれば最低限、離党の覚悟を固めるべきだ。

不信任決議案が可決されても否決されても、もはや相当の混乱は避けられまい。可決の場合、被災地の事情を考えれば首相による衆院解散は難しい。一方で首相を退陣に追い込んだ場合の新政権の展望が谷垣氏から示されたわけでもない。

否決されても民主党の分裂状況は政権の運営に大きな影響を与えることになろう。今、政治がなすべきことは何か。本会議場では議員一人一人が自問し採決にのぞんでほしい。

読売新聞 2011年06月02日

菅内閣不信任案 救国連立模索なら理解できる

菅首相の度重なる震災対応の不手際を踏まえれば、十分理解できる行動と言えよう。

自民、公明両党などが菅内閣不信任決議案を衆院に提出した。きょう採決される見通しだ。

今回の不信任案では、与党・民主党内で、執行部と対立する小沢一郎・元代表の支持グループなどから相当数の造反が確実視されている。極めて異例の事態だ。

国家の危機に際して、政治は本来、与野党の垣根を越えて、時の首相の下に結束し、その対応に協力するのが望ましい。

しかし、菅内閣の震災対応にはあまりに問題が多く、そうした空気にほど遠い。

菅内閣は、誤った「政治主導」で官僚を使いこなせず、被災者支援が後手に回った。特別立法の作業も遅れている。原発事故の対応でも、誤った情報が何度も発表されたり、閣内の意見が対立したりするなど、迷走が続く。

党首討論では、自民党の谷垣総裁が「国民の信頼を失った菅首相の下で、復興はできない」として首相退陣を求めた。公明党の山口代表も「政府の対応は遅すぎる」と足並みをそろえた。

菅首相は、退陣を拒否したうえ、通常国会の大幅な会期延長と第2次補正予算案の早期編成を表明した。これは場当たり的すぎる。

首相は当初、政権の不安定化を避ける思惑から、会期延長せず、第2次補正予算編成を夏に先送りする方針だった。だが、不信任案への民主党の同調者を減らそうと突然、方針転換したものだ。

必要な政策の遂行よりも、政権の延命を優先するような姿勢では国民の信頼は得られない。

今、最も重要なのは、震災復興などの課題に迅速かつ果敢に取り組める政治体制を作ることだ。

谷垣総裁は党首討論で、「菅首相が辞めれば、新しい体制を作れる」と述べ、首相退陣が与野党協調や「救国連立」政権作りを可能にすると指摘した。より具体的な道筋を示してもらいたい。

不信任案の可決には、民主党から80人前後の賛成が必要で、ハードルは高いが、仮に可決されれば、菅内閣は総辞職すべきだ。その結果、与野党が連携できれば、より早く復興が軌道に乗るだろう。

統一地方選を先送りし、一刻も早い復興を望む被災地の現状を考えれば、首相が衆院解散・総選挙を選択することは許されない。

朝日新聞 2011年05月31日

内閣不信任案 その前にやる事がある

自民・公明両党が早ければ週内にも、菅内閣の不信任決議案を出す構えだ。民主党からも賛同者が出ることを期待しての戦術だという。

こんな国会には、あきれるし、げんなりしてしまう。いまは、そんなことをしている場合でないことは明らかだ。

東日本大震災という危機に際して、国会がやるべきことは、はっきりしている。必要な予算や法律をつくり、臨機応変に対応していくことだ。

とりわけ、復興の枠組みを定める基本法案は速やかに成立させるべきだ。始まったばかりの与野党の修正協議を急いでほしい。被災地対応では、あらゆる場面で政治の決断が待ったなしなのだ。

日中韓サミットや主要国首脳会議で確認した「原発の安全性向上」を肉付けする施策も、国会を挙げて取り組むべきだ。

それに、今年度予算の財源を賄う赤字国債の発行を認める特例公債法案は、いまだに衆院すら通過していない。民主、自民、公明3党は4月末、民主党が子ども手当などを見直すことを条件に「真摯(しんし)に検討」することで合意したのに、前進がない。これでは、3党そろって怠慢のそしりは免れない。

朝日新聞の今月の世論調査では、震災復興に「国会は役割をきちんと果たしていると思うか」との問いに、68%が「そうは思わない」と答えていた。

この比率は、菅政権の震災復興や原発事故対応に対する不信や不満よりも大きい。国民は政権批判を強めているが、それ以上に「何も決められない国会」への評価が厳しいのだ。この事実を、すべての国会議員が重く受け止めるべきだ。

菅内閣は6月に政策の重大な節目を迎える。税と社会保障の一体改革案と、復興構想会議の第1次提言をとりまとめなければいけないのだ。とりわけ一体改革は、野党も与野党協議の前提として、政府案の早期提示を求めていたはずだ。

菅内閣に対するダメだしは、これらの結果を見極めてからでも遅くはあるまい。

菅直人首相も政権運営での反省すべき点は反省し、野党との接点を大胆に探らなければならない。ましてや、野党の追及を恐れて、国会の会期を延長せず、6月で閉会するなどということはあってはならない。

与党からの不信任案への同調を誘ったり、逆に造反予備軍を切り崩したり。そんな与野党の駆け引きに費やす政治的エネルギーがあるなら、政策を前に進めることに集中させるべきだ。

毎日新聞 2011年05月31日

内閣不信任案 混乱させればいいのか

自民党など野党が菅内閣に対する内閣不信任決議案を今週後半から来週にかけて提出する見通しが強まってきた。可決されればもちろん、否決されても民主党が分裂含みの状況になるのは確実で、政治は深刻な混乱に陥ることになる。

東日本大震災の発生以来、私たちは与野党が協力態勢を作って難局に臨むよう求めてきた。だが、現実にはますます、それとかけ離れた状態に向かっている。極めて残念だ。

無論、菅直人首相の責任は大きい。東京電力福島第1原発の事故は依然として収拾のめどが立たない。先の「海水注入中断」をめぐる混乱は東電だけでなく政府の対応にも重大な疑問を抱かせた。被災地での仮設住宅建設も立ち遅れている。

しかし今、内閣不信任案を出すべき時期なのか。最も疑問なのは自民党の谷垣禎一総裁らは「一日も早く退陣を」と主張するものの、代わって誰が首相に就き、どんな政権ができれば震災対応がうまくいくのか、まったく説明しないことだ。この非常時に「可決された後で考える」では、やはり無責任であろう。

不信任案は民主党の小沢一郎元代表を中心とするグループなど同党衆院議員八十数人が賛成すれば可決される。自民党はそれを期待する一方で、その後、小沢元代表のグループと連携する考えもないという。

結局、民主党の混乱を誘えばそれでいいというのだろうか。早く提出しないと「谷垣氏は決断力がない」と自民党内の批判が高まるという声も聞く。だとすれば一体、誰のために不信任案を出すのだろう。

小沢元代表のグループも同様に「ポスト菅」の展望を示さない。不満や批判より先に震災対応で具体的な知恵を出すのが与党議員の仕事のはずだ。それでも自ら与党として選んだ首相を国会の場で否定するというのなら離党するのが筋だろう。そこまでの覚悟があるのかどうかも、よく分からない。

仮に不信任案が可決された場合、今の被災地の状況を考えれば、菅首相が衆院解散・総選挙の道を選ぶのは難しいと思われる。だが、総辞職を選択したとしても新首相選びには相当な時間がかかり、政治空白は避けられないのではなかろうか。

否決された場合はどうか。野党は今度は参院で首相に対する問責決議案提出を目指すともいわれる。問責可決となれば自民党は審議拒否戦術に出るかもしれない。これもまた国会は何も決められない状況になる。

政局にかまけている場合ではない。今は国会あげて震災対応に専念すべきだと重ねて指摘しておく。首相も与野党も何が被災者のためになるのか、見つめ直してもらいたい。

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