朝日新聞 2011年05月31日
内閣不信任案 その前にやる事がある
自民・公明両党が早ければ週内にも、菅内閣の不信任決議案を出す構えだ。民主党からも賛同者が出ることを期待しての戦術だという。
こんな国会には、あきれるし、げんなりしてしまう。いまは、そんなことをしている場合でないことは明らかだ。
東日本大震災という危機に際して、国会がやるべきことは、はっきりしている。必要な予算や法律をつくり、臨機応変に対応していくことだ。
とりわけ、復興の枠組みを定める基本法案は速やかに成立させるべきだ。始まったばかりの与野党の修正協議を急いでほしい。被災地対応では、あらゆる場面で政治の決断が待ったなしなのだ。
日中韓サミットや主要国首脳会議で確認した「原発の安全性向上」を肉付けする施策も、国会を挙げて取り組むべきだ。
それに、今年度予算の財源を賄う赤字国債の発行を認める特例公債法案は、いまだに衆院すら通過していない。民主、自民、公明3党は4月末、民主党が子ども手当などを見直すことを条件に「真摯(しんし)に検討」することで合意したのに、前進がない。これでは、3党そろって怠慢のそしりは免れない。
朝日新聞の今月の世論調査では、震災復興に「国会は役割をきちんと果たしていると思うか」との問いに、68%が「そうは思わない」と答えていた。
この比率は、菅政権の震災復興や原発事故対応に対する不信や不満よりも大きい。国民は政権批判を強めているが、それ以上に「何も決められない国会」への評価が厳しいのだ。この事実を、すべての国会議員が重く受け止めるべきだ。
菅内閣は6月に政策の重大な節目を迎える。税と社会保障の一体改革案と、復興構想会議の第1次提言をとりまとめなければいけないのだ。とりわけ一体改革は、野党も与野党協議の前提として、政府案の早期提示を求めていたはずだ。
菅内閣に対するダメだしは、これらの結果を見極めてからでも遅くはあるまい。
菅直人首相も政権運営での反省すべき点は反省し、野党との接点を大胆に探らなければならない。ましてや、野党の追及を恐れて、国会の会期を延長せず、6月で閉会するなどということはあってはならない。
与党からの不信任案への同調を誘ったり、逆に造反予備軍を切り崩したり。そんな与野党の駆け引きに費やす政治的エネルギーがあるなら、政策を前に進めることに集中させるべきだ。
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毎日新聞 2011年05月31日
内閣不信任案 混乱させればいいのか
自民党など野党が菅内閣に対する内閣不信任決議案を今週後半から来週にかけて提出する見通しが強まってきた。可決されればもちろん、否決されても民主党が分裂含みの状況になるのは確実で、政治は深刻な混乱に陥ることになる。
東日本大震災の発生以来、私たちは与野党が協力態勢を作って難局に臨むよう求めてきた。だが、現実にはますます、それとかけ離れた状態に向かっている。極めて残念だ。
無論、菅直人首相の責任は大きい。東京電力福島第1原発の事故は依然として収拾のめどが立たない。先の「海水注入中断」をめぐる混乱は東電だけでなく政府の対応にも重大な疑問を抱かせた。被災地での仮設住宅建設も立ち遅れている。
しかし今、内閣不信任案を出すべき時期なのか。最も疑問なのは自民党の谷垣禎一総裁らは「一日も早く退陣を」と主張するものの、代わって誰が首相に就き、どんな政権ができれば震災対応がうまくいくのか、まったく説明しないことだ。この非常時に「可決された後で考える」では、やはり無責任であろう。
不信任案は民主党の小沢一郎元代表を中心とするグループなど同党衆院議員八十数人が賛成すれば可決される。自民党はそれを期待する一方で、その後、小沢元代表のグループと連携する考えもないという。
結局、民主党の混乱を誘えばそれでいいというのだろうか。早く提出しないと「谷垣氏は決断力がない」と自民党内の批判が高まるという声も聞く。だとすれば一体、誰のために不信任案を出すのだろう。
小沢元代表のグループも同様に「ポスト菅」の展望を示さない。不満や批判より先に震災対応で具体的な知恵を出すのが与党議員の仕事のはずだ。それでも自ら与党として選んだ首相を国会の場で否定するというのなら離党するのが筋だろう。そこまでの覚悟があるのかどうかも、よく分からない。
仮に不信任案が可決された場合、今の被災地の状況を考えれば、菅首相が衆院解散・総選挙の道を選ぶのは難しいと思われる。だが、総辞職を選択したとしても新首相選びには相当な時間がかかり、政治空白は避けられないのではなかろうか。
否決された場合はどうか。野党は今度は参院で首相に対する問責決議案提出を目指すともいわれる。問責可決となれば自民党は審議拒否戦術に出るかもしれない。これもまた国会は何も決められない状況になる。
政局にかまけている場合ではない。今は国会あげて震災対応に専念すべきだと重ねて指摘しておく。首相も与野党も何が被災者のためになるのか、見つめ直してもらいたい。
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