日EU貿易交渉 復興を開国の出発点に

朝日新聞 2011年05月30日

日欧EPA 攻めの姿勢で協議急げ

日本と欧州連合(EU)が、経済連携協定(EPA)交渉に向けて事前協議を始めることで合意した。

日EUのEPAは日本側が積極的に働きかけてきた。背景にあるのが、貿易自由化で先を行く韓国の動きだ。韓EU間では7月に自由貿易協定が暫定発効する。EUは乗用車の輸入に10%、薄型テレビには14%の関税をかけているが、韓国からEUへの輸出は5年かけて関税がゼロになる。日本の経済界は危機感を強め、EUとの交渉を政府に求めてきた。

EU側は慎重だった。しかし東日本大震災を受け、EU側の一部の首脳から「EPAも日本復興への支援になるのでは」との声が出て、事前協議入りにこぎつけた。

このチャンスを生かさない手はない。EUは世界経済の4分の1を占める最大の経済圏だ。自動車などの主要産業で韓国勢に後れを取ると、日本経済への影響は小さくない。政府は攻めの姿勢で協議を急いでほしい。

当然のことながら、通商交渉は双方にメリットがなければ進まない。EU域内の製造業は日本製品の流入増を警戒しており、協議は難航も予想される。日本が実を取るには思い切った譲歩も必要だろう。

EUは日本が設けている基準・認証などの非関税障壁の撤廃、政府や鉄道・航空といった公益企業による調達分野での参入拡大を求めている。いずれも規制のあり方がからむ。

政府は4月、130項目余の規制・制度改革を閣議決定した。酒類の卸売業免許の要件や自動車整備工場の面積制限を緩和するなど、EU側の関心にこたえた項目もあるが、いかにも小粒だ。3月には規制仕分けを実施したが、大震災が起こったこともあり、議論は低調だ。

規制の緩和・撤廃は、低迷が続く日本経済に活力を取り戻すカギの一つでもある。EUとの協議に合わせて、検討作業を再開しなければならない。

日本の消費者がよい商品やサービスを安く手にできる規制緩和はどんどん進めたい。関係業界が打撃を受け、支援する必要がある場合は、規制とは切り離して対応すべきである。

EUは食品安全や医療機器、医薬品分野にも関心を示す。国民の生活や生命に直結するだけに、「安さ」だけでなく「安心・安全」の観点が必要だ。

ただ、規制緩和への反対論の真の狙いが業界の既得権維持だった例も多い。ここでも「消費者の利益」から是非を考えていきたい。

毎日新聞 2011年05月30日

日EU貿易交渉 復興を開国の出発点に

日本と欧州連合(EU)の首脳協議で、日EU間の貿易自由化交渉を開始するための準備作業に着手することが決まった。日本側が目指していた「交渉開始合意」には至らなかったが、一歩前進といえよう。

27カ国が加盟するEUは、経済規模で米国をしのぐ。日本の産業界にとって、輸出拡大の余地が大きい市場だ。そのEUがすでに韓国と結んだ自由貿易協定は7月に発効する。韓国製品への関税が原則撤廃となる中、日本製品への関税が残れば、競争上、不利になる。このため日本政府は、同様の協定をEUと早期に結ぶ必要があるとして、今首脳協議での交渉開始合意を強く望んでいた。

そうならなかった背景には、「与えるものに比べ得るものが少なすぎる」といったEU内の慎重論があるようだ。EUが日本と正式交渉に入るには加盟各国の同意を取り付けなければならない。準備作業を通して日本政府は、日本との自由貿易協定がEUにも大きな恩恵となることを具体的に示す必要がある。

事を難しくしているのは、双方が相手に求める自由化の質的な違いだ。日本の要求が主として関税の撤廃・削減なのに対し、EUの関心は日本における政府調達への参入拡大や製品認可の手続き簡素化など関税以外にある。日本の関税がすでに広く撤廃されているためでもあるが、非関税障壁は、関税のように「撤廃」の効果が見えにくく複雑だ。

EUはこれまでも非関税障壁について要望してきたが、改善の遅さに不満や不信感を抱いている。日本は、「開国」(市場開放)への本気度を行動で表すことが重要になる。

東日本大震災の被災地復興事業は、大いにそのチャンスとなる可能性がありそうだ。特例的に規制を大幅緩和するなどして、EUを含む海外からの製品やサービス、投資を積極的に受け入れたらどうだろう。国内にない技術や品質がもたらされれば、もちろん被災地のためにもなる。

EUとの自由化交渉は大事だが、他にも忘れてならない課題がある。米豪が推進する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加や崩壊の危機にある世界貿易機関(WTO)多国間交渉を妥結に向かわせることなどだ。EUとの交渉を精力的に進めつつ、それを他の目標の実現にもつなげられるよう総合的な通商戦略を構える必要がある。

どのような自由化交渉でも、新たな競争にさらされる側からは抵抗の声が上がる。困難を乗り越え合意にこぎつけるには、国民の幅広い支持が欠かせない。交渉相手の説得はもちろんだが、政府には何より国民に対し、開国のメリットを分かりやすく説明してもらいたい。

読売新聞 2011年05月30日

日EU経済連携 早期合意で出遅れ挽回せよ

日本と欧州連合(EU)の首脳協議は、懸案だった経済連携協定(EPA)の予備交渉を開始することで合意した。

EUは韓国とは早々に交渉を妥結させ、EU韓国協定が7月に発効する。一方、日本との交渉については、成果を得られるかどうかを見極めたいとして、慎重姿勢を続けてきた。

今回、日本がようやく予備交渉にこぎつけたのは、一歩前進である。早期合意を目指し、出遅れを挽回しなければならない。

EUは世界の国内総生産(GDP)の3割弱を占める巨大市場だ。日本が先進市場地域と初めて結ぶEPAになる。欧州への輸出を伸ばすことで、東日本大震災からの復興と、経済成長に弾みをつける契機とすべきだ。

交渉の焦点は、EUが域外からの輸入工業品に課している関税の見直しである。自動車10%、薄型テレビ14%などと高い。

EU韓国協定では、サムスン電子などの韓国製品に対し、これらの関税を段階的に引き下げ、5年以内に撤廃する予定だ。

欧州市場での韓国企業の競争力は高まり、輸出が拡大しそうだ。先行する韓国企業の攻勢に、ソニーなどの日本の産業界が警戒感を強めているのは当然だろう。

日本が不利にならないよう、韓国と同じ貿易条件をEUにのませるには、EU側の市場開放要求に譲歩することが避けられない。

EUはこれまでの折衝で非関税障壁の改善を求めた。例えば、日本では医薬品や食品添加物の承認に時間がかかることや政府調達分野へ参入しにくい問題である。

欧州製の工業品に関税はほとんどかかっていないため、非関税障壁に照準を当て、対日輸出増と日本での事業展開を狙っている。

政府は4月の行政刷新会議で、食品添加物の承認を迅速化させるなどの規制改革に取り組む方針を示した。

EUは、こうした日本の姿勢の変化に期待している。欧州から日本市場に参入しやすくなり、対日投資を呼び込むことができれば、復興を急ぐ日本経済にとってもメリットが大きい。

菅政権は「平成の開国」を掲げるが、米国、豪州などが交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)への参加決断を先送りした。

EUとの早期合意を実現し、貿易自由化に後ろ向きという誤ったイメージを払拭したい。

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