毎日新聞 2011年05月28日
G8と原発 安全対策を早く進めよ
今、世界で稼働中の原発は全部で430基を超える。数でいえば、世界一の原発大国が米国、第2位がフランス、日本は3番目に多い国だ。
中国やインド、ベトナム、トルコなど、導入を進めようとする新興国も数多い。
福島第1原発の事故がなければ、今回の主要8カ国首脳会議(G8サミット)では、原発の拡大が議論の対象になっていたかもしれない。
しかし、今なお収束の見通しが立たないフクシマの重大事故が世界に与えた衝撃は大きい。それぞれの国の原発政策に対する思惑が違うとはいえ、原発の安全が主要議題となり首脳宣言にも盛り込まれた。その意義を評価したい。
日本は事故の教訓を世界に伝え、国際的な原発の安全に貢献できるよう、事故を起こした当事者として覚悟を新たにすべきだ。
首脳宣言では、日本の事故から教訓を読み取ることの重要性を指摘。すべての原発保有国に安全点検をするよう促している。
これは原発推進の立場を維持するか、脱原発にかじを切るかの違いによらず、当然の対応策だ。ぜひ、迅速に進めてほしい。日本は各国の安全点検にとって重要な情報をしっかり提供しなくてはならない。
宣言は原発の安全確保に対する国際原子力機関(IAEA)の役割に多くを期待する内容ともなっている。原子力の安全に関するIAEAの各種条約の批准を各国に促し、条約の発展・強化も盛り込んだ。
IAEAは「核の番人」とも呼ばれ、これまで、主に核不拡散を監視する役割が注目されてきた。今後、原発の安全をどう確保していくか。日本はIAEAと連携し、安全指針作りなどに役割を果たしたい。
首脳宣言は、地震災害のリスクがある地域の原発に対する追加的な安全基準を設けることも求めた。
これは、日本の事故が地震国であるが故に起きたものとみなし、フランスなど地震がほとんどない国に配慮したものとも受け取れる。
しかし、宣言は地震以外の外的事象に対する安全基準にも注意を喚起している。
当然のことながら、噴火や航空機事故、テロ、地域紛争などから原発の安全をどう守るかも、地震と並んで国際的な課題である。欧州連合(EU)が域内の国に呼びかけている原発の安全審査では、竜巻や洪水などの自然災害や、航空機事故なども対象に含まれる見込みだ。
地震や津波への備えは当然だが、想定を超えるできごとが起きた場合の事故対策の強化も重要課題だ。6月のIAEAの閣僚級会合でさらに議論を深めたい。
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読売新聞 2011年05月27日
新エネルギー策 安全性高めて原発利用続けよ
仏ドービルで開幕した主要8か国(G8)首脳会議(サミット)で、菅首相が新たなエネルギー政策を表明した。
東日本大震災への支援に謝意を示したうえ、東京電力福島第一原子力発電所の事故から日本を再生させるメッセージを発信したのは妥当だろう。
首相は、政府が昨年決めたエネルギー基本計画を白紙に戻し、太陽光や風力など自然エネルギーの拡大を加速する方針を示した。
具体的には、「2020年代のできるだけ早い時期」に、総電力に占める自然エネルギーの割合を20%にする数値目標を掲げた。
日本の総電力のうち原子力は3割を占め、日本経済を支えている。一方、自然エネルギーの比率は約9%にとどまる。
原発事故の影響で、原発の新増設は難しくなった。自然エネルギーの利用拡大に活路を見いだす狙いは、ある程度理解できる。
しかし、20%の目標達成時期は基本計画よりも、唐突に10年程度前倒ししたものだ。実現に向けた具体的な方策は示していない。
そもそも自然エネルギーが普及しないのは、その質・量・コストに難があるからだ。風力や地熱開発は立地の厳しい制約もある。
首相は最も有望とされる太陽光について、技術開発を促進させ、太陽電池の発電コストを現在の3分の1にする“夢”を語った。日本中の1000万戸にパネルを設置する構想も明らかにした。
だが、技術革新が実現し、企業や家庭が利用しやすい送電網などを整備することが前提になる。過剰な期待は禁物だ。
資源小国の日本が経済力を維持し、復興に確かな道筋をつけるためには、やはり、原発の安全性を高めて活用していくことが現実的な選択である。
G8では、フランスが原発推進派で、米国も原子力を含むクリーンエネルギーを重視する。
ドイツは「脱原発」に動き出したが、欧州大陸の送電網を利用して、フランスなどからいつでも電力を購入できる。それができない島国の日本とは事情が違う。
世界各国は、二酸化炭素の排出量を減らす地球温暖化対策も迫られている。その点で原発はなお、有力なエネルギー源と言える。
日本は原発を利用しつつ、石油などの化石燃料や、自然エネルギーも組み合わせる最適なモデルを目指さねばならない。
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