原発事故調査委 「大失敗」の原因を究明せよ

毎日新聞 2011年05月26日

原発事故調設置 独立性確保し解明を

複数の原子炉が同時にメルトダウン(炉心溶融)した世界最悪レベルの原発事故はなぜ起きたのか。福島第1原発事故の原因究明をする第三者機関「事故調査・検証委員会」の設置が閣議で決まった。世界各国が注目する中での検証作業となる。

東京電力や行政機関のみならず、事故発生時の官邸など政治サイドの初動態勢も問われる。仙谷由人官房副長官は「首相も含めた閣僚の行動も聖域なく対象にし、なれ合いとの疑念を抱かれてはならない」と述べた。当然の認識だ。

関係者がヒアリングに応じなければ調査は進まない。枝野幸男官房長官は「政府関係者は閣議決定に従う義務がある。対応しなければ懲戒の対象になり得る」と説明した。

だが、独立性や強力な権限を法律で担保する仕組みが必要だったとの指摘もある。主要8カ国首脳会議を前に見切り発車した感は否めない。

調査に当たっては、目的と範囲を明確にすることが重要だ。

津波によって冷却機能が喪失したとしても、なぜ1、2、3号機の相次ぐメルトダウンにまで至ったのか。「人災」の要因も徹底的に洗い出し、さらに検証して事故防止につなげるのが最大の任務だ。

委員長には、「失敗学」を研究する畑村洋太郎東大名誉教授が就いた。畑村氏は、JR福知山線脱線事故の調査に携わった経験がある。

鉄道や航空機などの事故調査では、個人の責任追及が優先しすぎると、関係者が口をつぐみ、真相解明の妨げになる。また、大規模事故の多くは、複数のミスが重なり起きる。予断を持たずに調査し、複合的な要因を解きほぐすのが調査の基本だ。

福島第1原発の事故も同様だろう。畑村氏には、過去の事故調査の経験も生かしてもらいたい。

東電は「地震による主要機器の損傷はなかった」と分析しているが、本当に「想定外」の津波だけが原因なのか。原因のいかんによらず、重大事故が起きた際の危機対応に不備がなかったか。津波対策の軽視を含めて真相を明らかにしてほしい。

安全審査や規制の仕組みなど国側の体制上の問題点について、自民党政権下の原子力政策にまでさかのぼって検証することも求められる。

また、この検証は日本への信頼を回復する大切な機会だ。情報は公開し、国際社会と共有しなければならない。外国人の専門家にかかわってもらうことも検討すべきだろう。

事故直後の混乱の中で、政府内の会議録が残されていないことが表面化した。時間がたてばさらに記憶は薄れる。調査委は、年内に中間報告をまとめるとしているが、さらなるスピードアップを求めたい。

読売新聞 2011年05月25日

原発事故調査委 「大失敗」の原因を究明せよ

「安全」が強調されてきた日本の原子力発電所で、なぜ深刻な事故は起きたのか。しっかり解明しなければならない。

政府が、東京電力福島第一原発の「事故調査・検証委員会」設置を決めた。年内に中間報告をまとめるという。

委員長には、「失敗学」の提唱者として知られる畑村洋太郎・東大名誉教授を起用した。10人程度の委員を予定している。

畑村さんは、機械工学の専門家だ。成功体験よりも、むしろ失敗から学ぶことが物事の真の理解につながる、と説いてきた。様々な分野の事故を調査し、背景を含めて分析した「失敗知識データベース」を運営している。

原発の事故調査でも、培った手法を生かし、再発防止と安全性向上につなげてほしい。役立つ情報は、速やかに取りまとめ、他の原発で活用すべきだ。

福島第一原発では、1号機に続き、2、3号機でも、炉心溶融(メルトダウン)が起きた、との解析結果を東電が公表した。前例のない重大事故だ。

直接の原因は、津波による冷却機能喪失だろうが、炉心溶融の連鎖を阻止できなかった点まで「天災」のせいにはできまい。

冷却機能が失われた時の安全策に不備があった。最後の緊急手段として、原子炉の弁を開けて圧力を下げ、炉心溶融を防ぐ手順も定めてあったが、実施は遅れた。

こうした「人災」の要因を徹底的に究明すべきだ。政府と東電の事故後の対応や、過去の政府の原子力安全規制のあり方まで、幅広く検証する必要がある。

政府は、委員会に、菅首相をはじめ閣僚、官僚から聞き取り調査ができる強い権限を持たせた。調査過程も公開する。日本の原発の安全性に、国内外で不信が拡大している以上、当然だろう。

政府は、歴史的な重大事故への対応を決めるにあたって、議論の中身など後世の参考になる詳細な記録を必ずしも残していない。それが懸念される。

例えば、1号機では、原子炉を冷却する海水注入が中断し、事態悪化につながった、とも指摘されている。中断は首相官邸の指示とされるが、当時の詳細な記録がないため、事実関係は(やぶ)の中だ。

記憶頼りの証言が続けば調査は難航する。委員会の体制を早急に整え、資料やメモなどの「証拠」保全から始めねばならない。

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