普天間移設 首相は公約修正ひるむな

朝日新聞 2009年10月15日

普天間移設 これからが本当の交渉だ

沖縄県宜野湾市の米海兵隊普天間飛行場は住宅密集地にあり、「世界一危険な飛行場」とも言われる。これを06年の日米合意通り、県内の名護市辺野古へ移設するか、県外移設を目指すのか。鳩山政権が決断を迫られている。

衆院選のマニフェストで、民主党は「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と記し、自民党政権時代の辺野古移設を見直す方向を打ち出した。

ところが、鳩山由紀夫首相は先日「マニフェストが時間というファクターによって変化する可能性を否定はしない」と発言し、辺野古移設の容認もありうると受け止められた。

県外移設はだれしも望むことだ。だが、具体的な移設先のめどはない。11月のオバマ米大統領の訪日を前に、公約の修正も含めて現実的な選択肢を広げようと考えたのだろうか。

そうだとすれば、早くも腰砕けかといわれても仕方あるまい。

在日米軍の存在は、日本防衛のみならず、アジア太平洋の安全保障に重要な役割を果たしている。日米同盟を外交安保政策の基軸とする点で、民主党も前政権と変わらない。

だが、主権国家が領土内にかくも大規模な外国軍を駐留させることの重さを、首相にはいま一度考えてほしい。しかも沖縄には在日米軍基地の75%が集中し、県民の負担は計り知れない。

自民党政権時代は、現状の米軍駐留や基地施設の提供が半ば当然視されてきた。それを幅広い視野から見直しの俎上(そじょう)に載せてこそ、政権交代の意義があるのではないだろうか。

オバマ政権も発足後、イラク撤退や東欧へのミサイル防衛の配備中止といった政策転換をした。政権が代われば、個別の外交政策も変化しうる。

岡田克也外相は、旧政権時代の移設先検討の経過を検証するという。他に移設先はありえないのか、既存の施設との統合はできないのかなどを含め、新政権として改めて検討しなおすのは当然である。

最初の返還合意から13年もたつ。なのに何の進展もないことが県内移設の難しさを示している。普天間の危険は一日も早く除きたいが、拙速を避け、あらゆる可能性を追求すべきだ。

先の総選挙では、県内四つの小選挙区すべてで辺野古移設に反対する候補者が当選した。この世論を軽くみるわけにはいかない。

米国政府は現行計画の見直しに否定的だが、首相にはこうした民意を踏まえて、オバマ大統領と率直に話し合ってほしい。地球温暖化対策やアフガニスタン支援など広範な日米協力の文脈の中に位置づけ、同盟の信頼関係を保ちつつ打開策を見いだす努力をしなければならない。

本当の交渉はこれからである。

毎日新聞 2009年10月12日

普天間首相発言 腰がふらついてないか

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐる鳩山由紀夫首相の発言が波紋を呼んでいる。米政府が進める米軍再編にかかわる難しい外交テーマであるとともに、基地負担の軽減を求める沖縄県民の最大の関心事でもある。腰がふらついているような印象を与える首相発言は、外交交渉を複雑にし、国民を惑わすだけである。

民主党は、08年の「沖縄ビジョン」で普天間飛行場の県外・国外移設を主張したが、衆院選マニフェストでは「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と普天間に直接言及しなかった。3党連立合意も同じ表現である。

首相は7日、このマニフェストについて「時間というファクターによって変化する可能性は否定しない」と述べた。首相は9月末まで、「沖縄ビジョン」通りの県外移設を基本に検討する考えを示していた。発言は大きな方針転換である。日米合意のキャンプ・シュワブ沿岸部(沖縄県名護市)への移設計画を含めた県内移設を選択肢に加えたと受け取られたのは当然である。

首相発言は翌8日も続いた。前日の発言を釈明するなかで「前政権の下での(日米)合意をそのまま認めるという意味ではない」と述べたのである。ということは、沖縄県が主張する、日米合意案から沖合に移動する修正案や、民主党内にある米空軍嘉手納基地への統合案なら選択肢になるとの意味なのだろうか。真意は不明である。沖縄県など当事者にさらに混乱が広がっている。

この問題では、岡田克也外相は方向性に踏み込まず、北沢俊美防衛相は県外移設が困難との見解を示すなど実務を担当する閣僚の足並みはそろっていない。日米合意案に落ち着いた経緯などを検証しながら打開策を見いだそうというのが政権の基本スタンスである。

7日の首相発言が、マニフェストや自らの過去の発言を修正するものであるなら、それにふさわしい説明が不可欠である。政権内での協議や沖縄県などとの話し合いが前提となろう。一方、8日の釈明は、前日の発言が考え抜いた末の結論ではなかったのではないか、という疑念を抱かせることとなった。いずれにしても、腰の据わっていない発言は首相の「軽さ」を映し出す結果しか生まない。

今月20日にはゲーツ米国防長官、11月12日にはオバマ大統領が初来日する。インド洋での給油問題や米軍再編問題を避けて通るわけにはいくまい。そして、年末の来年度予算編成は、移設問題に結論を出すデッドラインである。政権内の検討は急がなければならない。鳩山首相のリーダーシップが問われる。

読売新聞 2009年10月15日

米普天間基地 県内移設容認へ転換せよ

日米同盟の信頼性を維持し、沖縄の基地負担を大幅に軽減する。そのため、鳩山首相は、米海兵隊普天間飛行場の県内移設を容認するよう政策転換すべきだ。

普天間飛行場の代替施設建設の環境影響評価準備書について沖縄県が、代替施設の沖合移動を要望する知事意見書を公表した。

「県外移設がベスト」としながらも、普天間飛行場の危険性の早期除去のため「県内移設」を受け入れる立場も改めて強調した。

県外移設の現実的な具体案がない以上、ベターな案の迅速な実現を求める、という沖縄県の意思表示だ。政府は、この意思を正面から受け止める必要がある。

鳩山首相は先週、衆院選の政権公約について「時間という要素によって変化する可能性は否定しない」と語り、県内移設を容認する可能性を示唆した。

だが、翌日には、在日米軍再編計画の見直しをうたった3党連立合意が「一番重い基本」と前言を翻すなど、発言がぶれている。

連立政権を組む社民党は現計画の見直しを強く主張する。政権運営上、社民党にも一定の配慮が必要なのだろう。しかし、政府の最高責任者としては、まず国益を重視すべきで、むしろ社民党を説得することが求められる。

普天間飛行場の返還は13年間も紆余(うよ)曲折を経てきた。返還を実現し、沖縄の負担軽減を現実のものにするには、交渉を白紙に戻すのでなく、日米が積み上げてきた合意を実行するのが最も近道だ。

北沢防衛相は「県外移設は困難」と認めている。沖縄県外に新たな基地を受け入れる自治体を探すのは容易でないうえ、普天間のヘリ輸送部隊は在沖縄海兵隊と近い場所にいる軍事的な必要性がある。防衛相の指摘はもっともだ。

来週はゲーツ国防長官、来月中旬にはオバマ大統領が来日する。日米両国には今、北朝鮮の核・ミサイル問題や国際テロ対策、中国の軍事大国化など、協力して取り組むべき課題が山積している。

日本側が提起しなければ、本来は懸案にならなかった普天間問題に、多大なエネルギーを割くことが生産的とは思えない。

普天間の県内移設は、沖縄県も米政府も支持している。日本政府だけが、民主党の衆院選前の主張に固執し、県外移設を主張するのは極めて奇妙な構図だ。

政府は、代替施設の位置に関する沖縄県と米側の主張の隔たりを埋め、移設を実現することにこそエネルギーを注ぐべきである。

産経新聞 2009年10月15日

普天間飛行場 首相は県内移設で決着を

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する日米合意の計画について、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事が滑走路の沖合移動を条件に県内移設を認める意見を示した。政府に対しては、早期に方針を決めることを求める見解を表明した。

沖合移動の是非は別にして、沖縄県が県内移設容認という現実路線に踏み込んだことは歓迎したい。知事の意見に対し、鳩山由紀夫首相や平野博文官房長官は「県民全体の総意をうかがう必要がある」と、県外移設をなお模索する構えを見せているが、日米合意を尊重した形で早期に決着させるしかない。

普天間飛行場が住民に及ぼしている危険も、早急に除去されなければならない。無責任に県外移設を追い求めても、日米同盟の根幹を損なうだけだ。

知事の意見は、防衛省が進める環境影響評価(アセスメント)準備書に対する意見書の中で示された。知事はサンゴ礁の消失をできるだけ食い止めることなどを挙げ、「可能な限り沖合へ移動」することを求めた。受け入れに伴う沖合移動の条件は、名護市長らも主張している。

防衛省側がまとめた準備書は、現行計画と滑走路の位置を変えた他の6案の計7案を比較したうえで、現行計画が航空機騒音や生態系への負荷が最も少なく、妥当であると結論付けた。

沖縄県や名護市は現行計画を100~200メートル規模で移動するよう主張してきた。日米合意の計画を大幅に修正することになり、環境アセスメントをやり直す必要性も生じかねない。

防衛省が「合理的な理由がない限り変更はできない」との立場をとってきたのも当然だ。準備書が沖合移動案に触れたのは、あくまでも沖縄県側の意見を十分踏まえる姿勢を示したものといえる。

この問題は、日米両政府が1996年に普天間飛行場の全面返還で合意して以降、沖縄県などが合意を覆すといった紆余(うよ)曲折を経て、3年前に再び政府間合意にこぎつけた。日本政府が対外的に約束したことは重い。現行計画は2014年の完成予定となっており、それに向けて来年度には本格着工する必要がある。

首相はこれ以上の遅れが日米関係に悪影響を与えると認識し、県外移設論の撤回を含めて速やかに決断を下すときだ。

産経新聞 2009年10月11日

普天間移設 首相は公約修正ひるむな

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐり、鳩山由紀夫首相がこれまで主張してきた「県外移設」の方針を見直し、日米両政府の合意に基づくキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)への移設を容認する姿勢を示し始めた。

社民党など連立与党内には日米合意案の容認に強い反発もあり、一気に方針転換を図るのは困難とみられる。だが、普天間問題の解決に向けて現実的な道を模索しようとする姿勢を評価したい。

この問題は日米同盟の根幹でもあり、損なってはならない。首相は公約の修正を躊躇(ちゅうちょ)することなく、合意案を軸とした決着への調整に断固たる決意をもって取り組んでほしい。

首相は7日、記者団に対し、「マニフェストで最初に申し上げたことは一つの約束で簡単に変えるべきではないと思っている」としながらも「時間というファクターによって変化する可能性は否定しない」と述べ、県外移設の方針を転換し、日米合意案を容認する可能性を示唆した。

翌8日には「そんなことは一言も申し上げていない」と、日米合意案を容認したという受け止め方を否定する一方、「さまざまな考え方、選択肢の中で国民、県民が理解できる着地点を探していきたい」として、沖縄県民の理解を得ながら日米合意案でまとめることに余地を残した。

首相は「日米で合意したという前提がまずある」と強調しており、現行計画の変更に難色を示す米政府の意向は無視できないとの見方を隠していない。米議会も現行計画を容認した。

実際に政権を担当して、日米合意の重みを感じ、「県外移設」がきわめて困難なことを認識したのだろう。普天間飛行場がもたらす住民の危険を、早急に除去する必要性もわかっていよう。

「対等な日米関係」を掲げる民主党は、それを具体化するために日米地位協定の改定問題などとともに普天間問題を取り上げたが、日米両政府が協議を重ねた末にまとまった合意を覆そうとする公約自体に無理があったといえる。

社民党は県外移設を譲らない構えだが、政権発足前の連立政権合意も、米軍再編や在日米軍基地のあり方について「見直しの方向で臨む」にとどめた。現実的な解決に向け、首相は与党内調整に指導力を発揮すべきだ。

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