子供と放射線 影響最小限に抑える手立てを

毎日新聞 2011年05月25日

校庭の放射線量 できるだけリスク減を

国が示した福島県内の幼稚園や小中学校の校庭の放射線量の上限値(年間20ミリシーベルト)に不安の声が広がっている。100ミリシーベルト未満の被ばくだと目に見える発がんリスクの増加はないとの見方も政府は示しているが、大人より放射線の影響を多く受ける子どもには配慮が必要だ。被ばく量をできるだけ減らすのは健康を守る大原則である。

国の基準値の根拠は国際放射線防護委員会が3月に出した「非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベルとして、1~20ミリシーベルト(年)の範囲で考えることも可能」という声明だ。当初から、長期的影響や内部被ばくが考慮されていないとの批判はあった。そもそも平常時の一般人の年間被ばく量限度は1ミリシーベルトだ。国が示した上限値は放射線管理区域の安全基準(5ミリシーベルト)と比べても4倍緩い。これまでに原発作業員で白血病などの労災認定を受けた人の最低基準も5ミリシーベルト(年)なのである。

日本医師会は「科学的根拠が不明確」「成長期の子どもたちの放射線感受性の高さを考慮するとより慎重であるべきだ」と国を批判した。85年にノーベル平和賞を受賞した米国の「社会的責任を果たすための医師団」も「このレベルの被ばくが子どもたちに安全と見なすことはまったくできない」との声明を出した。

郡山市では86小中学校、39幼稚園、13保育所すべての校庭の表土を取り除く作業をしている。文部科学省の調査で基準を超えたのは1校だけだったが、同市が再計測したところ14校が超えたためという。同省は地面から50センチと1メートルの地点で計測したが、市側は児童生徒の実際の行動に照らしてもっと地面に近い地点で計測したという。汚染土は校庭の隅に集めて凝固剤を注入しビニールシートで覆っている。東京電力と国に費用負担や汚染土の引き取りを要望したが、まだ返事はない。

一方、二本松市では校庭に穴を掘って汚染土を埋めている。地元自治体が手探りで対策を行っているのが実情だ。手つかずの自治体もまだ多い。高木義明文科相は国会で「あくまで上限値であり、放射線リスクを甘く見てはいけない」と答弁した。そうであるならば校庭の安全に万全を尽くすべきだ。20ミリシーベルトの妥当性も再度議論してはどうか。福島第1原発から出た放射性物質で汚染された土の引き取りや費用負担を東電に求めるのも理不尽とは言えまい。

どこまでやれば安全かの判断は難しいが、不安を払拭(ふっしょく)するために国がやるべきことはもっとあるはずだ。これまでに福島県内から約670人の児童生徒が県外に避難した。特に、国が基準値を示した4月19日以降の疎開が増えているという。

読売新聞 2011年05月23日

子供と放射線 影響最小限に抑える手立てを

福島県内の学校に子供を通わせる保護者たちの間で、原発事故により漏出した放射性物質に対する不安が消えない。

校庭の放射線量が国の示した基準を下回っていても、運動会などの屋外活動を自粛する学校は多い。今夏、学校のプール使用を中止するところもある。

放射線量を低減させるあらゆる手立てを講じ、学校の安全・安心を回復しなければならない。

文部科学省は先月中旬、1時間当たりの放射線量が3・8マイクロ・シーベルト以上あった場合、校庭の利用を制限するという基準を公表した。子供の年間の被曝(ひばく)限度を20ミリ・シーベルトと設定し、逆算したものだ。

「年間20ミリ・シーベルト」は、国際放射線防護委員会が示した原発事故収束時の一般人の被曝限度(年間1ミリ・シーベルト~20ミリ・シーベルト)を参考にしている。通常時の原発作業員の年間被曝量の目安でもある。

だが、子供は放射線への感受性が大人よりも高いとして、国の基準に不安を抱く学校関係者や保護者たちも少なくない。

放射線の専門家である内閣官房参与が、「年間20ミリ・シーベルト」の子供への適用は許し難いとして抗議の辞任をしたことも、不安を拭えぬ一因となっているようだ。

基準を決める際、政府内で安全性について、どのような議論があったのか、文科省は国民が納得できるよう説明を尽くすべきだ。その上で、子供の被曝量を確実に低減させる対策を実行していくことが大切である。

当面の措置として注目されているのが、校庭の表土の除去だ。文科省によると、表土を削って下層の土と入れ替えたり、穴にまとめて埋めたりすると、放射線量が低減する効果が確認された。

福島市など6市村が、計200以上の校庭の表土除去を実施するという。国が費用支援するなどして、自治体が円滑に作業に取りかかれるようにすべきだ。

放射線量を定期的に計測する学校の数を増やし、データを保護者に伝えることも不安の解消につながるだろう。児童・生徒の健康診断の際には、放射線の影響の継続的なチェックが欠かせない。

子供たちが放射性物質にさらされる可能性があるのは、学校にいる間だけではない。

帰宅後の屋外活動を控えれば、放射線の影響は抑えられるが、家に閉じこもってばかりではかえってストレスがたまるだろう。

専門家から意見を募り、家庭や地域での過ごし方についての指針作りを進めたい。

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