IMFトップ 「欧州指定席」見直す時

毎日新聞 2011年05月19日

IMFトップ 「欧州指定席」見直す時

国際通貨基金(IMF)のトップ、ストロスカーン専務理事が、ホテルの女性従業員に性的暴行を加えた疑いなどで逮捕された。保釈が認められず、ニューヨークの刑務所で拘束されている。来年行われるフランス大統領選挙で野党候補の最有力と目された大物政治家であり、債務危機に陥ったギリシャやアイルランドの救済枠組み作りで要の調整役を担ってきた人物だ。欧州のみならず、世界に衝撃が走った。

弁護士によれば本人は容疑を全面否認する構えで、事実関係も不明な点が多いが、辞任を求める声は強まる一方だ。過去に同様の暴行を受けたとする別の女性も名乗り出た。国際機関の長として任務を続行するうえで欠かせない信頼は、もはや回復し難いと見てよいだろう。

IMFはナンバー2である米国人のリプスキー筆頭副専務理事を代行とし、組織が平常通り機能していると強調する。しかし、同氏も8月末の退任が決まっている。欧州の信用不安はいまだ予断を許さない状態であり、事実上のトップ不在が長期化することは望ましくない。本人が自主的に辞任しないからといって事態を放置してよいはずがない。

後任をめぐっては、水面下の取引で固まってしまうことのないよう透明な選定を求めたい。

まずは、欧州出身者からトップを選ぶという慣行を見直す必要がある。第二次世界大戦後の復興を支援する目的で作られた国際金融機関のうち、世界銀行のトップは米国人、IMFは欧州出身者というのが不文律だったが、60年以上がたち、世界経済の姿も大きく変わった。慣行を自動的に継続する合理性を欠く。

欧州側は、ユーロ危機のさなかだからこそ、欧州連合と二人三脚で安定化にあたるIMFは欧州人が主導すべきだと主張しているようだ。しかし、自ら問題を生んでおいて、その問題が大変だから欧州人を、という理屈は都合がよすぎる。

アジアなど他の地域は、IMFの意思決定権が欧州に偏重しているため、支援条件など政策面でも欧州が優遇されていると訴えてきた。問題は、欧州や欧州同様に不文律を死守したい米国を除いた地域が、対抗する候補者を一致して絞り込めるか、という点である。単に「欧州出身者反対」と主張するだけでは、事態はいつまでも変わらないだろう。

世界経済の成長エンジンであり、存在感が強まるアジアだが、欧州と違って、利害の対立を超えられず、国際舞台で結束して動くといったことが不得意だった。域内唯一の先進国、日本の責任は重い。過去の分を補うくらいのつもりで、これから汗をかかねばならない。

読売新聞 2011年05月22日

IMF専務理事 欧州の「指定席」見直すべきだ

前代未聞のスキャンダルで国際通貨基金(IMF)のトップの座が空席になった。後任人事を急ぎ、失墜した信認を回復しなければならない。

ホテルで女性従業員に性的な暴行を加えたとして逮捕、起訴されたIMFのストロスカーン専務理事が辞任した。

専務理事は容疑を否認しているが、加盟各国の経済政策などを監視するIMFを指揮する状況にないのは明らかだ。辞任はやむを得まい。

フランス出身のストロスカーン氏は、仏財務相などを経て、2007年に専務理事に就任した。

08年秋のリーマン・ショック後の金融危機では、日米欧など主要20か国・地域(G20)の政策協調を主導する手腕を発揮した。

欧州の財政危機でも、欧州連合(EU)と連携して、ギリシャ、アイルランドなどの救済策をすばやくまとめた実績がある。

金融危機前には、IMF不要論もでていたが、ストロスカーン氏の行動力は、IMFの存在感を高めたと言えよう。

現在、世界の金融市場はひとまず安定を取り戻し、世界景気は持ち直している。だが、欧州の財政問題のほか、不安定な中東情勢や原油高騰などの懸案が山積する。東日本大震災が世界に及ぼす影響にも注意が必要だ。

IMFが世界経済の安定に果たす役割は、依然大きい。危機の再発防止へ、金融規制改革を促すとともに、世界の不均衡是正を図る必要がある。

こうした時期に、トップの長期不在による業務の停滞を招いてはならない。問題は、だれを後任に選任するかだ。

第2次世界大戦後に設立されたIMFと世界銀行のトップ人事には暗黙の了解がある。IMF専務理事は歴代、欧州人が務め、世銀総裁は米国人が独占してきた。

欧州では早くも、後任の専務理事候補として、ラガルド仏財務相らの名前が挙がっている。

だが、世界経済の勢力図は大きく変わった。金融危機後、中国、インド、ブラジルなどの新興国が台頭し、IMFへの出資比率も増加させて発言力を強めている。

設立から約65年が経過し、IMFトップを欧州の「指定席」にする必然性は薄れたのでないか。慣行にこだわらず、アジア、中南米などの候補も検討すべきだ。

最終的には、IMFへの最大出資国である米国の判断がカギを握りそうだ。透明性の高い選考がIMF改革の試金石となろう。

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