オバマ演説 「アラブの春」を豊かに

朝日新聞 2011年05月21日

オバマ中東政策 アラブの春を支えよう

「アラブの春」とよばれる民主化の風は、このまま吹き続けるのだろうか。

発端となったチュニジアに続いて、大国のエジプトでも強権体制が打倒された。だが、リビアでは政府軍の巻き返しで内戦となり、シリアでは市民のデモへの発砲が繰り返されている。

こうした危機感を背景に、オバマ米大統領は2年ぶりに中東政策について演説した。アラブ世界の「現状を維持することはできない」と指摘し、「言論・信教の自由に基づく改革や民主化を支援する」と宣言した。

リビアへの「人道介入」の必要性を訴え、シリアのアサド大統領には権力の移行を進めるか退陣するか選ぶよう迫った。友好国のバーレーンやイエメンにも民主化を求めた。

その一方で、独裁者を追放したエジプトには最大20億ドル(約1630億円)の財政支援を約束した。「民主化の果実」を実感できるようにしようという考えだろう。

地域の安定を求めるか。それとも民衆の運動を支持するか。

アラブの春への米国の対応は初め、あいまいな面があった。親米の独裁政権に頼っていたため、街頭に繰り出した民衆の声に耳を傾けるのが遅れたといえる。テロの封じ込めなど、複雑に絡んだ米国の利害が政変でどう影響されるのか、見極めかねていた面もあるのだろう。

テロについて、オバマ氏はオサマ・ビンラディン容疑者の殺害で、国際テロ組織アルカイダは「大きな打撃を受けた」と述べた。テロの危険は去ったわけではないが、対テロ戦に傾斜していた中東政策を、民主化支援に戻していく必要がある。

心配なのは、和平交渉の見通しが立たぬパレスチナ情勢だ。

イスラエル国境で、パレスチナ難民のデモとイスラエル軍の衝突が繰り返されている。パレスチナの主要組織ファタハとハマスの統一政権には、イスラエルが強く反発している。

オバマ氏は「永続的な和平が急務になっている」と述べ、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」の実現を求めた。領土画定の原則として、イスラエルによる占領が始まる以前の1967年の境界線を基本に交渉するよう提唱している。公平な提案と言えるだろう。イスラエルは占領地の入植を即時中止し、パレスチナ側はテロを完全に放棄する――。容易ではないが、これしか糸口はない。

アラブの春を民主化と和平に結実させるためには、米国の強力な指導力が必要だ。日本もふくめ各国が協力したい。

毎日新聞 2011年05月21日

オバマ演説 「アラブの春」を豊かに

ほぼ2年前(09年6月)、オバマ米大統領はエジプト・カイロでの演説で、米国とイスラム世界の「新たな始まり」をうたった。当時、オバマ氏を笑顔で迎えたムバラク大統領は失脚し、今は中東各地で反政府運動が盛り上がる。様変わりの中東を見据えた今回の演説で、オバマ大統領は中東が「歴史的な好機」を迎えていると強調し、民衆の意思に基づいた改革を支持することこそ米国の「最優先課題」と踏み込んだ。

米国の前向きな姿勢を歓迎したい。リビアのカダフィ大佐には退陣を迫り、シリアのアサド大統領には民主化推進か退場かと呼び掛けた点は明快である。オバマ政権はある種の迷いを吹っ切り、中東の変化は歴史の必然と腹をくくったのだろう。

ただ、ペルシャ湾岸諸国への対応には疑問が残る。反政府運動に揺れるバーレーンでは、友邦サウジアラビアの治安部隊が越境してデモ鎮圧などに当たってきた。たとえ同盟関係でも、隣国のこうした介入には違和感を禁じ得ない。だが、オバマ大統領は何ら異を唱えず、騒乱へのイランの関与を強調している。

湾岸の王国、首長国は産油国ぞろいだ。サウジをはじめ湾岸諸国で反政府運動が燃え盛れば、石油供給が不安定になるという心配は人ごとではない。しかし、イランのみ悪者にせず王国や首長国の旧態依然たる政治体制も問題にすべきだろう。湾岸諸国の民主化は避けて通れまい。

「アラブの春」の背景には若年層の高い失業率や物価高騰が挙げられる。政変を経たエジプト、チュニジアなどへ米国が経済支援を打ち出したのは有意義だ。支援は貧困層を助け、中東全体の安定にも寄与しよう。だが、カネやモノだけで民衆の怒りや不満を解消できると思うのは傲慢とのそしりを免れないことも、肝に銘じておくべきである。

オバマ大統領は、国際テロの黒幕ウサマ・ビンラディン容疑者殺害の意義を強調するとともに、イスラエルとパレスチナの国境は67年の第3次中東戦争以前の境界に基づくべきだと明言した。テロと戦う上でも意義深い発言である。同容疑者は米同時多発テロの動機についてパレスチナ問題を挙げていた。米国の有識者らがイラク安定のために、この問題に取り組むよう訴えた経緯もある。

中東の安定を図るには、物質的支援だけでなく、パレスチナ問題など諸懸案への取り組みが必要だ。イスラエルは大統領提言に沿ってパレスチナと交渉を重ねてほしい。「アラブの春」が独裁や封建制度からの解放を意味するなら、占領下のパレスチナ人も春風を待っていよう。「春」の実りを豊かにするために、米国は積極的に仲介してほしい。

読売新聞 2011年05月22日

オバマ中東演説 和平へ導く具体策がほしい

中東や北アフリカの民衆デモは、米国の中東政策も動かしたようだ。

オバマ米大統領は中東に関する約2年ぶりの演説で、イスラエルと将来のパレスチナ国家の国境を、第3次中東戦争(1967年6月)以前の境界線をもとに画定すべきだとの考えを示した。

イスラエルはアラブ諸国と戦ったこの戦争で占領地を一気に拡大し、東エルサレムやヨルダン川西岸などでユダヤ人入植者用の住宅地を建設し続けてきた。

イスラエルとパレスチナ間の中東和平交渉では、占領地の返還が核心の議題となっている。だが、そこには入植地が多数存在し、東エルサレムと西岸では、ユダヤ人居住者は計50万人に達する。

この占領地をイスラエルが全面返還するのは「非現実的」と、ブッシュ前米大統領は語っていた。オバマ大統領はこれに対し、全面返還を交渉の出発点とした。入植地をイスラエル領に編入するなら代償措置が必要との立場だ。

パレスチナ側の主張に大きく歩み寄ったものと言えよう。

問題は、これを機に、頓挫した中東和平交渉を再び軌道に乗せることができるかどうかだ。

イスラエルのネタニヤフ首相は演説の翌日、大統領との会談で、「67年の境界には戻れない」と、にべもなく拒否した。交渉の仲介役としての米国の立場を弱める結果になったとの批判もある。

交渉再開に一石を投じた以上、米国には和平プロセスを前進させる具体策を示す責任がある。

オバマ大統領が中東政策の(かじ)をきった背景には、過去5か月の中東情勢の変化がある。

チュニジアやエジプトで独裁者を追放した国民の民主化要求デモは、アラブ諸国に広がり、大きなうねりとなった。

アラブ諸国で、米国は各国の独裁者とイスラエルの後ろ盾と見られがちだった。それだけに、中東への影響力を保つには、民主化を求める側に立つ姿勢を明確し、イスラエルとも一定の距離をとる必要があると判断したのだろう。

大統領が演説で、チュニジアやエジプトへの財政支援を表明し、デモ隊に銃を向けたリビアやシリアの政権を厳しく非難したのも、その変化を訴えるためだった。

パレスチナ自治政府が、一方的に独立を宣言する動きを見せていただけに、それを阻止する狙いもあったに違いない。

米国がこの地域で信頼を取り戻すには、中東和平交渉を進展させていくことが肝要である。

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