震災後の景気 復興進展の実感を早く

朝日新聞 2011年05月20日

マイナス成長 変革力育む環境作りを

東日本大震災が日本経済に与えた痛手はやはり大きかった。今年1~3月期の国内総生産(GDP)は実質で年率3.7%減少し、踊り場に入った昨年10~12月期から2四半期連続のマイナスとなった。

本来なら日本経済は、米経済の持ち直しを受け、多極化する世界市場に向けて攻勢に出ていたはずだ。その出ばなを震災でくじかれた。

民間予測では4~6月期もマイナスという。阪神大震災の時には復興需要がスムーズに出てきたが、今回は主に二つの点で事情が異なる。

まず、東京電力の福島第一原発の事故だ。東電がカバーする首都圏を中心に電力供給の低下により、経済活動への制約が長引くことが避けられない。

さらに、組み立て型製造業で発達したサプライチェーンと呼ばれる高度に相互依存的な部品供給態勢が、深刻な打撃を被ったことだ。たとえば半導体工場で電子制御用のマイコンがつくれなくなると、それだけで多くの自動車会社の組み立て工場が止まる、という事態だ。

日本経済が、今後も最高の製品やサービスを世界の様々な市場のニーズと購買力に合わせて提供していくためには、どうしたらいいのか。震災は新たな課題を突きつけた。

日本が円高を克服して輸出を続けるには、一芸を究めるような高度な製品作りが切り札になる。だが、これは量産効果などを踏まえると製造場所が1カ所に絞られる傾向が強まる。

震災によるサプライチェーンの分断は、このリスクを顕在化させた。世界の顧客が部品や素材の日本への過度な依存を見直す可能性もある。客離れに至らぬよう、生産拠点の分散などの手を打っていきたい。

一方、成長戦略としてサービス産業の拡充に期待が集まっている。だが、震災が引き金となった二つの巨大サービス企業のつまずき、すなわち東電の原発事故と、みずほ銀行のシステム障害を考えると、日本の実力を総点検する必要がある。

独占や寡占に守られた大企業は、私たちが自覚する以上に制度疲労を起こしているのではないか。それが革新や創造の芽を摘んでいないか。とすれば、競争を通じて企業を鍛え直す環境作りが一段と重要になる。

与謝野馨経済財政相は「日本経済の反発力は十分に強い」と先行きに自信を見せた。だが、自然な反発力に期待するだけでなく、強みと弱みを洗い出し、新たな発想や工夫で未来を切り開く変革力も育みたい。

毎日新聞 2011年05月20日

震災後の景気 復興進展の実感を早く

大震災の影響は、予想通り、あるいは予想以上だったようだ。内閣府が今年1~3月期の国内総生産(GDP)速報を発表したが、企業の設備投資も個人消費も大きく落ち込んだ。実質GDPは、前期比3・7%減(年率)。4~6月期もマイナス成長の恐れがある。

震災や原発事故を受けて、企業、個人とも心理が冷え込んだ。被災地の企業のみならず、他の地域でも、被災地からの部品供給が滞り、減産を余儀なくされるケースも少なくなかった。自動車産業が代表例だ。停電も足かせとなった。

個人消費は、自粛ムードの広がりが痛手となった。内閣府発表の消費動向調査によると、4月の消費者心理は地震直後の3月以上に悪化している。消費意欲はあっても、新車のように、売るモノの生産が追いつかず、消費につなげられなかったケースもある。自粛ムードは後退しつつあるようだが、今後、くらしや雇用への不安が強まる可能性は警戒しなければならない。

ただ、悪いニュースばかりではないようだ。GDP統計は過去を確認するものだが、先行きを示す指標の中には、ほっとするものもある。設備投資の動向を占う指標である機械受注は、4~6月期の見通しが前期比10%増と高い伸びとなり、震災の影響がほとんど見受けられない。

一方、昨年来の円高を追い風に、海外企業の買収を積極化させる企業も目立ってきた。グローバル展開を強めているわけで、攻めの経営の例として評価したい。

今後の最大の課題は、被災地復興が順調に進むか、原発事故をできるだけ早く収束させられるか、ということだ。政府の責任は大きい。

日銀は今年度の経済成長率を0・6%と見通している。生産設備の回復に加え、復興関連の需要が年後半から徐々に成長を引っ張ると期待されているからである。

その実現の前提となるのが、復興事業の速やかな実施だ。ところが、今の政府の対応ぶりを見る限り、不安はぬぐい切れない。

中長期の計画で大きなビジョンを描くことも重要だが、できるところから事業をどんどん実行に移していくことも求められる。民間のアイデアや資金を積極活用したり、企業が主体となる復興事業を、税制上の優遇策や規制の柔軟運用などを通じて促したりすることも有効だろう。

いずれにせよ、復興に向け、お金や人が動き、国民がその成果を早く実感することが肝心だ。それが大幅に遅れるようであれば、消費者心理もますます悪化し、ひいては企業の倒産や失業の増加、景気停滞の長期化を招くことになりかねない。

読売新聞 2011年05月20日

GDPマイナス 震災不況の回避に全力挙げよ

震災のショックで、日本経済の成長に急ブレーキがかかっている。

今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は年率で3・7%減と、2四半期連続でマイナス成長となった。市場の予想は2%減程度だったが、実際はそれより大きかった。

景気は年明けから持ち直していたものの、結局、2期連続で消費はマイナスとなり、設備投資も6期ぶりに減少した。内需の二本柱の不振に加えて、輸出の低迷で頼みの外需も水面下に沈んだ。

景気の一時的な落ち込みはやむを得ないが、長引くと消費や雇用が一段と冷え込み、本格的な震災不況に陥る恐れがある。官民が全力を挙げ、景気の早期回復を図らなければならない。

震災で多くの工場が被災し、自動車や電機など幅広い業種で生産が停止した。直接の被害はなくても、部品が手に入らず、生産ラインを止めたケースも多い。

小売店では販売すべき商品が不足して、自動車の売り上げなどが急減した。

自粛ムードによる買い控えや、首都圏の計画停電に伴う商店などの営業時間短縮も、消費を冷え込ませる要因となった。

焦点は回復に転じる時期だが、生産活動の正常化は秋以降とされ、4~6月期も引き続きマイナス成長になるとの見方が多い。

企業は、生産体制の復旧に最大限努力してもらいたい。

夏の電力不足が減産を招く懸念も強い。自動車業界は、木曜と金曜の操業を電力需要の少ない土日に移行する方針を決めた。一定の効果が期待できそうだ。

産業界をあげて知恵を絞り、安定した生産と節電の両立に取り組んでほしい。

企業の3社に1社は、今年度の業績が減収減益になると予想している。企業の利益が減れば、いずれ賃金抑制や投資の手控えで、雇用環境は悪化しかねない。

岩手、宮城、福島の東北3県では早くも、震災による失業者が10万人を超えた。「震災倒産」も全国で100件を超え、さらに増える見込みだ。雇用対策の拡充が欠かせまい。

頼みの「復旧・復興需要」も、阪神大震災の時より立ち上がりのペースが遅れている。被災地では、がれきの8割ほどが未撤去で、道路や港の復旧作業も思うように進んでいないためだ。

復興事業を軌道に乗せ、景気浮揚を図るために、国と県、市町村は連携を強化すべきだ。

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