朝日新聞 2011年05月20日
発送電分離 安定供給のためにこそ
菅直人首相が、エネルギー政策を見直すなかで、発電と送電の事業者を切り離す「発送電分離」についても検討していく考えを明言した。
原発事故の早期収束や賠償問題など眼下の課題解決を優先させるのはもちろんだが、エネルギー政策の転換や普及には長い時間を要する。早く議論を始めるにこしたことはない。
首相の方針表明に賛意を示すとともに、言いっ放しに終わらせぬよう、政府を挙げた取り組みを期待する。
耳慣れない言葉だが、発送電分離は1990年代以降、すでに欧米各国で広く採り入れられている。
日本でも2000年代初頭に一度は検討された政策だ。
当時は、競争政策の一つとして議論された。電力各社は地域独占的な事業形態が認められ、基本的にあらゆるコストの回収が保証されている。これを改めて、発電と送電の事業会社を分けることで新規参入を促し、それをテコに経済を元気づけようという狙いだった。
しかし、実現には至らなかった。最大の理由は「電力の安定供給ができなくなる」と、電力業界が激しく抵抗したことだ。
だが、今回の震災と原発事故で、1カ所に集中して巨大な発電所をつくるやり方や地域独占による閉鎖的な経営形態は、いざという時の安定供給にとって大きな阻害要因になることがはっきりした。
むしろ、小規模でも多様な電源による発電事業者を消費地近くに多く分散配置した方が、結果的に安定供給に資するとの認識は、これまで以上に高まっている。かつては電気料金を下げる効果が期待された発送電分離が、いまや電力の安定確保のための具体策として、その意義が語られているのだ。
さまざまな自然エネルギーの活用を進めるためにも、分散型への転換が望ましいのは明らかである。
ただ、電力会社が地域独占の維持を主張してきた裏には、原子力発電という「国策」を、民間企業が肩代わりして進めるために必要なのだという理由づけがあったのも事実だ。
菅首相が本気で発送電分離を進めるのであれば、個々の電力会社に半強制的に担わせてきた原子力政策そのものを再検討して、国が責任を持つ部分と、民間事業者や市場経済に任せる部分との線引きを、きちんとやり直すことが欠かせない。
電気を使う側の私たちも、どんな形態が望ましいのかを真剣に考えるときだ。
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毎日新聞 2011年05月19日
自然エネルギー 電力改革の試金石だ
東日本大震災と東京電力の福島第1原子力発電所の事故を経て、エネルギーをめぐる状況は一変した。菅直人首相も18日の会見で、原子力行政とエネルギー基本計画の見直しについて改めて言及した。
高レベル核廃棄物の最終処分を含む核燃料サイクルから、発電と送電の分離といった電力会社の経営形態に関する問題まで、エネルギーをめぐる課題は多岐にわたる。もちろん、いずれも容易に解決できる問題ではない。
ただ、太陽光、風力、バイオ、地熱といった自然エネルギーをもっと活用し、将来的には原子力への依存度を下げていくべきで、この点については多くの人が支持している。
もちろん、原子力は重要な電源であり、それに代わる電力を自然エネルギーでまかなえるのかという問題はある。量とコストの両面から活用には限界があるという指摘もある。しかし、障害となっている要因はこれだけではない。
太陽光や風力は周波数や電圧が一定しない。電力網を安定的に運用するには、導入量に限界があるとされてきた。だが、日本の電力網は電力会社ごとに運営され、これが障害となってきた面も否定できない。
その運用を電力会社の壁を越えてより広域にすることにより、太陽光や風力による電力をより多く活用できるようになるという指摘はかねてなされてきた。
地域独占の電力会社は、安定供給という点では大きな役割を果たしてきた。しかし、電力需要は大きく伸びず、いずれピークを迎える。周波数や電圧といった電力の品質の安定をないがしろにしていいわけではないものの、電力網の運用のあり方は、もっと柔軟であっていい。
発電コストの上昇分を誰が負担するのかという問題も、阻害要因となってきた。利用者の負担増も必要だろうが、研究開発などの名目で原子力に傾斜していた資金配分を改め、自然エネルギーの普及に充てることも考えてもらいたい。
地熱発電については、国立公園内の開発規制や、温泉のお湯に影響しかねないことがネックとなっている。しかし、世界有数の火山国であり、この資源を活用しない手はない。規制や、温泉に支障が生じた際の補償措置などについての検討も必要だろう。
自然エネルギーの活用の障害となってきた要因はこれ以外にもある。そして、こうした問題は、自然エネルギーに限ったことではなく、他の日本のエネルギーをめぐる課題と共通したものが多い。
自然エネルギーの活用を第一歩として、電力改革に取り組んでもらいたい。
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