カダフィ大佐 逮捕状は当然だが…

毎日新聞 2011年05月18日

カダフィ大佐 逮捕状は当然だが…

当然の一歩とはいえ展望が開けたわけではなく、逆に泥沼へ踏み込むようにも思えるのがやりきれない。国際刑事裁判所(ICC)のモレノオカンポ主任検察官(アルゼンチン出身)が、リビアに40年以上君臨してきたカダフィ大佐ら3人の逮捕状を請求した。ICCが逮捕状を認めれば、カダフィ氏は隣国スーダンのバシル大統領同様、国際社会のお尋ね者になるわけだ。

容疑は「人道に対する罪」である。デモへの発砲やイスラム教礼拝の参加者への狙撃、刑務所での拷問などを挙げて、検察官はカダフィ氏と息子、義弟の「合議」の疑いを指摘した。カダフィ政権の市民弾圧は明白だ。逮捕状請求は当然である。

しかし、リビアはICCに加盟しておらず、たとえ逮捕状が出ても最高権力者の身柄拘束は難しい。やはり未加盟のスーダンでもバシル大統領が拘束される可能性は、まずない。逮捕状請求は形式的な手続きという印象が強く、混迷を深めるリビア情勢に打つ手がない国際社会の窮状を、むしろ際だたせるようだ。

3月19日、国連安保理決議を受けて北大西洋条約機構(NATО)加盟国などが軍事行動を始めてから2カ月。カダフィ政権が白旗を掲げる気配はなく、しかもNATO側の誤爆が市民の反発を呼んでいる現状には憂慮を禁じ得ない。今月初めには、カダフィ氏の息子と3人の孫が爆撃で死亡したと伝えられた。

今の軍事介入の限界に加え、空爆の正当性をめぐる問題も浮上したといえよう。このままではリビア情勢は袋小路にはまり込み、逃げ場のない市民の犠牲者だけが際限もなく増えていくのではないか。そんな不安が胸をよぎる。

打開の方法として、カダフィ政権との全面戦争に突き進む選択肢もないではない。リビア占領の可能性を排除した安保理決議を修正し、NATOを中心に大規模な軍事行動を起こすことだが、合意形成は容易ではあるまい。そもそもリビア介入に慎重だったオバマ米政権が、来年の大統領選を前に、イラクやアフガニスタンに続く「新たな戦争」を構えるとは考えにくいのだ。

欧米が武器援助や軍事訓練などを通じて反カダフィ勢力を強化するにしても、時間がかかる。現実的な選択肢はカダフィ政権との政治的接触ではないか。カダフィ氏はエジプトに使者を送ったり、「時間稼ぎ」の疑いも濃厚とはいえ停戦の用意も表明している。アラブ・アフリカ諸国とリビアの昔からのチャンネルも生かして、こう着状態を打開する努力が必要だろう。展望が開けぬまま「流血のための流血」が続くような状況は、一日も早く終わらせるべきである。

読売新聞 2011年05月19日

リビア軍事介入 長引く内戦をどう終わらせる

民衆の独裁政権に対するデモが内戦に転じた北アフリカのリビアに、米英仏を中心とする多国籍軍が軍事介入を始めて2か月になる。

命運が尽きるとみられたカダフィ氏は、政権の座に居座り、反体制派への攻撃をやめる気配はない。北大西洋条約機構(NATO)が指揮する多国籍軍の作戦の有効性が問われている。

作戦の当初の目的は、政権側の攻撃にさらされる市民を守ることだった。そのために、国連安全保障理事会は、地上軍の投入を除く「あらゆる措置」を認めた。

政権側の空軍基地や戦車に対する多国籍軍の空爆によって、反体制派の拠点都市ベンガジの陥落や市民の虐殺は回避できた。しかし、その後、政権側と反体制派の攻防は一進一退を続けている。

NATOに対しては、「兵力も装備も劣る反体制派をてこ入れしているに過ぎない」との批判さえある。このまま内戦が長引けば、死傷者は増え続ける。軍事介入の正当性も揺らぎかねない。

膠着(こうちゃく)した戦況を打開するため、地上軍を投入しようとするなら、新たな安保理決議が必要だ。だが、カダフィ政権転覆を目的とする本格的な軍事介入を、拒否権を持つ中露両国が認めるはずがない。

何より、アフガニスタンとイラクへの関与で余力の乏しい米国自身が消極的だ。オバマ米大統領は「カダフィ政権の転覆は目指してはいない」と言い続けてきた。

仏英両国は、リビアの体制変革に意欲的だが、米国抜きで作戦を遂行する力はない。

リビア介入に対する欧米諸国の姿勢に大きな温度差がある以上、軍事介入の強化による事態の打開は難しいだろう。

調停による内戦終結の道も残されてはいる。だが、軍事介入の人道目的の性格が薄れ、内戦の当事者の一方に肩入れする構図が日増しに色濃くなる現状では、その展望はなかなか開けそうにない。

国際刑事裁判所(ICC)の検察官が、「人道に対する罪」でカダフィ氏の逮捕状を請求したことも、どう影響するか。カダフィ氏が退路を断たれたと考え、一層の徹底抗戦に向かう懸念もある。

リビア内戦の長期化は、アラブ諸国に広がる民主化要求の動きにも水を差す。シリアのアサド政権は、反政府デモへの徹底的な弾圧を続けている。リビアへの軍事介入で行き詰まる米英仏は、手を出せないと見ているのだろう。

欧米諸国には、対リビア戦略の練り直しが急務である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/732/