原発工程表 見通しが甘くないか

朝日新聞 2011年05月18日

原発工程表 溶融炉心との闘い続く

福島第一原発事故の収束に向けた工程表は、作成1カ月で早くも遅れが心配されている。

東京電力が事故直後の炉の詳しいデータを取り出して公表した。これを見ると、1~3号機すべてで炉心溶融(メルトダウン)が考えられるなど、状況が極めて深刻だとわかる。

炉の中は見えないが、燃料は不定形の塊になり、一部は圧力容器の底から漏れて、格納容器に落ちているとみられる。

それにしても、ここまで2カ月もかかるとは、どういうことか。本来は発生直後に、大ざっぱであっても炉の状態を計算して割り出し、「最短時間で最良の措置」の選択に役立てるものだろう。

「データがそろわない」と、東電はこれまで詳しく計算しなかった。事故当事者として頼りないだけでなく、情報公開のあり方として問題がある。

外部の多くの専門家は「早い段階でメルトダウンが起きているはず」といっていた。なのに東電と原子力安全・保安院は「炉心の損傷」という言葉を使ってきた。小さな事故のイメージに誘導したのではないか。

厳しい想定をしていれば、建屋の爆発をおこした水素発生にもっと注意できたはずだ。汚染水による作業員の被曝(ひばく)も防げただろう。

今後は、作業の一層の難しさを覚悟しなければならない。炉心溶融を起こした1979年の米国スリーマイル島原発事故では、カメラで炉心を撮影するまでに約3年かかり、燃料を取り出せたのは事故後10年あまりが過ぎてからだ。

こうした状況から、東電が17日に出した工程表の改訂版も前進が少ない内容となった。

当初の工程表は、初めの3カ月間で1、3号機の炉心を水で満たす「冠水」などで安定的な冷却状態をつくるとしていた。

しかし1号機は格納容器からの水漏れが大きく、冠水を断念した。2号機は格納容器の一部である圧力抑制室が壊れているので、まずコンクリート詰めのような作業が要る。3号機の建屋内外には放射性のがれきが多く、作業を妨げている。

損傷が広く、激しい事故だけに、「6~9カ月で原子炉を落ち着かせる」という目標には相当な困難が予想される。

だが、避難住民は作業をかたずをのんで見守っている。工程表の進展は、ふるさとへ帰る時期の指標になるからだ。炉を落ち着かすことができれば、帰宅を検討できる。三つの溶融炉心を制御し、処理するという長く困難な闘いが続く。

毎日新聞 2011年05月18日

原発工程表 見通しが甘くないか

東京電力福島第1原発の大事故にどう対応していくか。政府の原子力災害対策本部が事故収束や被災者への総合的対応を工程表にまとめた。

事故収拾に向けた工程表は東電が1カ月前に公表している。原子炉の冷却や放射性物質の閉じこめ、監視に特化したもので、東電も今回、その改定版を公表している。

政府の工程表は、地域住民の避難や健康管理、土壌の除染・改良、雇用の確保、被災者への賠償まで含め、幅広い取り組みを示している。

放射性物質が健康に与える悪影響の軽減や、被災者への具体的な支援、ふるさとにいつ帰れるかといった見通しは、多くの人たちが知りたがってきた非常に重要な事項である。本来、もっと早く示すべき内容だった。今後は、住民の声に耳を傾けつつ、きめ細かい対策を迅速に進めてもらいたい。

首をかしげるのは、すべての前提となる原発そのものの工程表の見直しだ。東電は原子炉を100度未満に冷温停止させ、汚染水全体を減少させる目標の達成時期を、前回から変更していない。政府もこれを認めている。

東電は16日、地震直後に福島第1原発で何が起きたか、初期データの公表を始めた。ここからは、1~3号機で「メルトダウン(炉心溶融)」が起き、圧力容器が損傷している様子が改めて浮かび上がった。

核燃料が溶けて圧力容器の底に落下し、汚染水が格納容器に漏れ出しているとみられる。格納容器にも損傷があると考えられ、大量の汚染水が外部に漏れ出している。溶けた核燃料自体が格納容器に漏れている恐れもある。

こうした状況は、実は、初期データがなくても推測できたはずのことだ。東電の当初の工程表は、甘い現状認識に基づいていたもので、本来、徹底した見直しがいるはずだ。

圧力容器を格納容器ごと冠水させる作業の見送りは当然としても、本質的な安定冷却のために、どのように熱交換器を取り付け、水を循環させるのか。汚染水が土壌や地下水、海水などに漏れ出さないよう、いかに迅速に遮蔽(しゃへい)していくか。

原子炉の状況をもっと正確に把握した上で、具体的な対策を立て、それを国民に説明する必要がある。もし、住民を早くふるさとに帰すことを強調するあまり、楽観的な見通しに立っているとしたら、逆効果だ。

現場の環境改善や熟練した作業員の確保が重要な課題であることはこれまでも指摘してきた。東電は今回、作業員の環境改善を工程表に盛り込み、政府も健康管理について具体的な強化策を示した。ぜひ、着実に進めてもらいたい。

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