社会保障と税の一体改革を議論している政府の「集中検討会議」で厚生労働省がまとめた社会保障改革案が示された。これを「たたき台」にして、6月の税制論議につなげるという。
今回の厚労省案は、拍子抜けするほど簡素で抽象的だ。
「世代間公平の企図」といった理念に続き、「保育サービスの量を拡大・多様化して待機児童を解消する」とか「低年金・無年金に対応する最低保障機能を強化する」といった自民党や公明党も異論のなさそうな記述が並ぶ。子ども手当や高齢者医療など対立の火種は外した。費用の試算は含まれていない。
医療・介護で「効率化・重点化」や「高齢世代と現役世代の公平な負担」に言及しているが、具体策はない。月末までに、費用とセットで中身の議論を詰める必要がある。
それにしても、自公政権時代から何度、似たような会議が立ち上がり、同じような議論が繰り返されてきたことか。
サッカーの試合でいえば、ゴール前でパスが回されてばかり、ともいえる。具体的な制度設計を固め、消費増税などの財源確保に向けてシュートを打てない時間が長すぎる。
ボールがピッチから蹴り出され時間を浪費したこともある。
パート労働者が厚生年金に加入しやすいようにする。公務員らの共済年金と会社員の厚生年金を統合して「官民格差」を解消する。そんな手立てが、今回の厚労省案に盛られている。
これは自公政権下で法案化された内容だ。2007年、国会に提出されたが、国民年金も含めた一元化にこだわる民主党が反対、審議未了のまま、09年の衆院解散で廃案となっている。
成立していれば、年金統合は昨年度、パートの加入拡大は今年9月に実現していたはずだ。
今回、ボールがピッチの中にようやく戻ってきたといえる。民主党が野党時代から主張してきた「抜本改革」を検討課題として先送りし、現行制度の改善を図るのは現実的な選択だ。
会議を仕切る与謝野馨・経済財政相は、税制論議へ正確なラストパスを送って欲しい。
特に与党には、今の世代が使ったサービスを将来世代にツケ回しするのは恥ずかしいことだと認識し、高齢化のピークに備え必要な負担増を直視する姿勢を求めたい。そうしなければ、パスは通らない。
震災の復興費用が加わり、シュートの難度は上がっている。しかし、残された試合時間は長くない。いま、政治の決定力が問われている。
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