復興基本法案 一日も早く決着を図れ

朝日新聞 2011年05月15日

復興基本法案 「現場感覚」で歩み寄れ

菅内閣が、東日本大震災からの復興の理念や実行体制を定める基本法案を国会に提出した。

震災から2カ月余り。阪神大震災の時の基本法に比べ、1カ月遅い提出だ。その結果、復興に臨む体制作りも遅れる。政治のもたつきが歯がゆい。

直接の理由は、全閣僚が参加する「復興対策本部」を設ける基本法案に対し、与野党幹部が加わる「復興実施本部」案を亀井静香国民新党代表が提唱し、野党側に打診したことだ。結局野党側は応じず、対策本部を設ける案に戻った。

与野党幹部で方針を決め、内閣が従う亀井構想では、首相や閣僚の責任が不明確になる。元々無理があったと言わざるを得ない。菅直人首相は、亀井氏の誘いに乗るべきではなかった。

こんな話が出てくるのは、震災を経てなお、与野党が十分に力をあわせられないからだ。貴重な時間を空費した責任は、与野党双方にある。

基本法案の審議を、出直しの一歩としなければならない。各党とも、基本法の必要性や、復興を担う組織を設けることには異論はなかろう。必要があれば与野党で修正を加え、早く成立させるべきだ。

対立点のひとつは、組織のあり方だ。閣僚の合議体である本部か、各省庁と並ぶ復興庁・復興院か。そこは方針の立案や各省との調整にあたるのか、事業の実施まで担うのか。

だが、それは深刻な違いだろうか。省庁の縦割りを排そうと各省をまたぐ組織を設けたけれど、組織の中に縦割りが生まれた――。霞が関ではしばしばそんな話を耳にする。どんな組織にしても、それだけで縦割りがなくなるわけではない。

かぎは、復興に携わる一人ひとりが被災者の立場に立ち、「縄張りや省益にこだわっている場合ではない」と思えるかどうかにある。そのために大切なのは「現場感覚」ではないか。

基本法案は、対策本部のもとに現地対策本部を置くと定めている。これを充実させ大胆に権限を委ねる。自治体と連携し、現地で即決できるようにする。本部長となる副大臣、政務官や職員はしばらく交代させず、被災地で腰を据える。後手に回りがちな状況を改めるには、そんな姿勢が必要だろう。

衆院に復興や原発問題を審議する特別委員会が設置される。ここでも現場感覚が問われる。委員は被災地に泊まり込み、会議も現地で開くくらいのことをしていい。被災者の思いを肌で感じれば、足の引っ張り合いどころではなくなるだろう。

毎日新聞 2011年05月14日

復興基本法案 一日も早く決着を図れ

震災発生からすでに2カ月以上がたち、遅きに失した。復興行政にあたる政府の体制を定める復興基本法案、閣僚を増員するための法案がやっと閣議決定された。

与野党の駆け引きで国会への提出がずるずると延ばされたことは政治の怠慢である。法案の行方は不透明だ。今年度予算の特例公債法案や肝心の復興構想の中身など他の重要テーマの議論に進むためにも、与野党は早急に歩み寄らねばならない。

復興基本法案は全閣僚による「復興対策本部」を復興行政の要とし、有識者による復興構想会議も正式に法律で位置づけた。一方で内閣法改正案は現在17人が上限の閣僚数を最大3人増員できることが柱だ。菅直人首相は復興担当相や原発担当相を念頭に置いているとみられる。

提出が遅れたのは政府の出足が鈍かったうえ、与野党の代表者が参加する「復興実施本部」の設置構想が頓挫する混乱が重なったためだ。あてもなく調整に時間を費やした与党と、参加に応じなかった自公両党の双方に責任があろう。

自民党は復興組織について「復興院」のような本格組織の設置を求めていた。だが、必要なのは機動的対応だ。「器」づくりにエネルギーを過剰に割くことは得策でない。

基本法案は「復興庁」設置の法整備について1年以内に検討するよう付則で定めている。復興構想会議も含めた企画立案機能の拡充や、現地に置く対策本部の一層の強化などで野党も接点を探るべきだ。

閣僚増員も震災に即応した時限措置である限り、早期に実施すべきだ。その中身と役割、目的を首相は国会ではっきり説明する責任がある。

政府・与党には国会閉会後の内閣改造を待って増員を実施する意見もあるようだが、論外だ。緊急対応に不可欠ならば、法改正後ただちに増員人事を断行するのが当然だろう。

内容が一部重なる政治主導確立法案などの取り下げはやむを得まい。ただ、国家戦略室の「局」への格上げ構想などをこのままお蔵入りさせてしまうことは許されない。

自民、公明両党が「復興実施本部」構想に乗らなかったのは、参加すれば事実上の「大連立」となり菅内閣の延命につながる警戒からだ。自民党は復興構想会議側が打診したヒアリングへの出席も拒否したというが、「首相への不信」が責任の共有を回避するための言い訳となるようでは困る。

首相も野党に協力を呼びかける以上、政権が目指す方向をより具体的に語る必要がある。与野党が信頼関係を取り戻すためにも、国会を早期に閉じて政権の延命を図るようなことへの疑念は早急に払拭(ふっしょく)しなければならない。

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