メルトダウン 収束への楽観論は禁物

朝日新聞 2011年05月14日

メルトダウン 原発安定の道、多重で

福島第一原発の事故炉を封じ込める道筋が大きく揺らいだ。

1号機で、炉の燃料棒が溶けて下に落ちるメルトダウンが起こっていたらしいと、東京電力が認めた。圧力容器からも、その外の格納容器からも、大量の水が漏れているようだ。

このままでは、格納容器を燃料上部まで水で満たす冠水方式を進められない。

東電は4月中旬に出した工程表で、冠水方式をとれば3カ月ほどで炉を安定して冷却できると説明していた。

目算は大きく狂った。原発の深刻な事態が収束するまで「6~9カ月」という見通しにも、黄信号がともった。

なによりも、まず1号機を抑え、次に別の炉を、という期待をしぼませたことは大きい。

メルトダウンがわかったのは作業員が原子炉建屋に入り、水位計を調整して水面の高さをわかるようにしたからだ。

炉の中でおきていることを、信頼度の乏しいデータから推し量るしかないのが、原発事故の恐ろしさだ。

事故炉の封じ込めは、姿の見えない敵を相手に闘う難作業の連続だ。自動カメラやロボットで近づいたら、予想と違う状況だったということもありうる。

現行の工程表は、炉を冷やして止める手だての柱を、冠水方式にしている。

事態収拾にあたる技術者は他の方策も考えていたが具体化は遅れ、冠水方式に期待した作戦を進めていた。そのため、今回のように見直しを迫られたとたん、周辺地域はもちろん、国内外にも大きな落胆と不信を芽生えさせてしまう。

新しい工程表では、いくつかの有力シナリオを併記してほしい。今の方法が頓挫したら、直ちに次善の手を打てる構えで臨むべきだ。最悪の場合もこんな手がある、ということまで率直に語るべきではないか。

どんな方法をとるにしても、圧力容器の底にたまった燃料はこれから何年も冷やし続けなくてはならない。

気になるのは、冷やすために注いだ水が汚染してふえる一方だということだ。汚染水が施設外に漏れ出さないようにためる場所をふやす必要がある。たまった水を浄化しながら、循環させて冷却に使うといった方法も急いだ方がよいだろう。

そして、メルトダウンした燃料という新たな厄介ものを最後にどう処理するか、という重荷も背負い込んだ。

当面の目標にする冷温停止の先にも、この大きく重たい課題が待ち受けている。

毎日新聞 2011年05月14日

メルトダウン 収束への楽観論は禁物

福島第1原発で炉心の核燃料はいったいどういう状態にあるのか。蓋(ふた)をあけて見ることができないだけに、専門家の間にもさまざまな見方があった。

東京電力は、1号機で「メルトダウン(炉心溶融)」が起きていたことを初めて認めた。燃料が溶けて崩れ落ち、圧力容器の底にたまっていると考えられる。これまで、東電は炉心燃料の55%が損傷しているとの見方を示してきたが、状況はより深刻だった。

しかも、圧力容器の底には穴があき、大量の水が漏れているとみられる。格納容器から汚染水が漏れている可能性も高い。溶けた燃料の一部が圧力容器から格納容器に漏れ出している恐れもある。

東電は先月、6~9カ月かけて原子炉を100度未満に「冷温停止」させる事故収拾の工程表を示している。しかし、その前提となる現状認識が甘かったといわざるをえない。

東電は、既に溶融した燃料の温度が下がっているので、より大きな支障はないとの見方を示している。しかし、水漏れ対策を含め、工程表の大幅な見直しは必至だろう。

東電が1号機の状態を楽観してきた背景には、不確実だった水位計のデータがある。補正前はもっと上まで水があることになっていた。しかし、事故直後から水位計の信頼性が疑われていたことを思えば、より深刻な状況を考えておくべきだったのではないか。

工程表では、格納容器を圧力容器ごと水漬けにする作業を、まず1、3号機で実施することになっていた。しかし、水漏れがわかった以上、この方法には意味がないだろう。

いずれにしても、水漬けだけでは冷温停止には不十分だ。熱交換器をつけた冷却系で水を循環させ、核燃料を安定して冷やす必要がある。

圧力容器や格納容器の損傷は、その作業の支障にもなりかねない。しかし、なんとか工夫し、安定冷却に向けた道筋を早くつけたい。

格納容器から漏れている汚染水の処理も急がねばならない。行方を突き止め、環境をこれ以上汚さないようにする作業を進めたい。

工程表の中で1号機は作業が一番進みつつある原子炉だった。事故発生からこれまでの状況を思えば、作業がほぼ手つかずの2、3号機も、1号機同様、圧力容器、格納容器ともに損傷しているとみたほうがいいだろう。

東電や政府は、まず、原子炉の実態を確かめるための手立てを尽くし、工程表の見直しに反映させるべきだ。確かめられない部分は、楽観的にみるのではなく、より厳しい状況を念頭におき対処していくことが肝心だ。

読売新聞 2011年05月17日

炉心溶融 漏水と放射能汚染対策を急げ

福島第一原子力発電所1号機で、原子炉内にある核燃料の大半が溶け落ちるメルトダウン(炉心溶融)が起きていた。

東京電力が、1号機の中央制御室に残っていた炉の温度や圧力のデータを回収、分析して溶融の経過を推定した。

核燃料の損傷は、3月11日の津波襲来から約4時間後に始まり、約15時間で原子炉圧力容器の底部にほとんどが落下したという。政府・東電はこれまで、溶融した核燃料は半分程度とみていた。

原子炉を冷却する電源や水が失われると、核燃料が過熱して炉心溶融は急速に進む。その場合の東電の緊急対応策に不備があったことは間違いない。

東電と、原発安全規制を担う政府は猛省する必要がある。

こうした緊急対応策は、1990年代から、日本を含め世界の原子力利用国が、原発の安全性向上を目指す中で整備してきた。

福島第一原発で実施された原子炉からの排気(ベント)作業もその一つだ。冷却機能喪失時に、炉の圧力を下げて破壊を防ぎ、炉内への注水を容易にして炉心溶融を回避する非常手段とされる。

福島第一原発でも、この作業を想定していたが、着手が遅れた。実施されたのは、炉心溶融が起きた後だった。

二度とこうした事態が起きないよう、他の原発でも万全の緊急対応策を講じておくべきだ。

1号機圧力容器の底部に落下した核燃料は、外部から注水を継続することで、冷却できている。当面は、大量の放射性物質が放出される危険性は小さい。

だが、圧力容器が損傷し、冷却用の水が漏れ出していることも先週、新たに判明した。

事故の収束に向け、政府・東電が先月まとめた工程表では、1号機の原子炉を水で満たして冷却する「冠水」を目指していた。それが不可能になった。

漏れた水は、原子炉を覆う建屋の地階に流入している。漏水が何か月も続けば、放射性物質で高濃度に汚染された水が外部にあふれ出る恐れもある。

1号機は爆発で建屋上部が壊れている。梅雨になり、そこから雨水が入ると、汚染水はさらに増える。今の注水方式に代わる新たな冷却方法を考えねばならない。

2、3号機も炉心溶融の可能性が指摘されている。漏水は1号機よりも多い。対応を急ぎたい。

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