生肉食中毒 まず原因の徹底究明を

朝日新聞 2011年05月07日

生肉食中毒 あいまい基準を改めよ

焼き肉チェーン店「焼肉酒家(さかや)えびす」で集団食中毒が起こり、富山、福井両県で4人の死者が出た。牛の生肉を用いたユッケが原因と見られている。

富山、福井両県警は強制捜査に入った。食肉処理施設から卸業者、焼き肉店へと流通していく過程のどこに問題があったのか、徹底して解明してほしい。

捜査とは別に浮き彫りになったのが、肉類を生食用に販売する際の国の衛生基準が有名無実となっていた実態である。

衛生基準は牛と馬の肉、肝臓(レバー)が対象で、内容はこうだ。病原性大腸菌のO(オー)111やO(オー)157を含む糞便(ふんべん)系大腸菌群などが陰性であること。流通の各段階で定められた加工・処理の方法に従うこと。卸業者や飲食店は設備や包丁などを生食専用とし、トリミングと呼ばれる表面処理を行うこと。販売する際は、生食用であることや処理場名などを示すこと。

ところが、厚生労働省によると、「生食用」と明示して出荷されているのは馬だけで、牛はここ数年、ほぼ皆無とみられている。卸業者や飲食店が衛生基準に従って処理すれば加熱用を生食用として差し支えないが、その実態は不明だ。

衛生基準が決められたのは1998年。その2年前にO157による食中毒が続発したことがきっかけだった。基準が出た後は「生食用」と表示された商品が流通していたという。しかし、基準に罰則がないこともあり、形骸化していったようだ。

関係者はこうした実態を知っていたはずで、業者も行政も風化を追認してきたと言われても仕方あるまい。

わが国には、魚を刺し身で食べる食文化がある。ユッケはもともと韓国料理だが、日本でも定着し、人気商品になっている。しかし、肉の生食をめぐるあいまいな実態は消費者には十分伝わっていなかった。お店のメニューに載っていれば、誰でも安心して食べるだろう。

まずは現行の衛生基準の原点に立ち返ることだ。厚労省は、卸業者や飲食店への緊急調査を都道府県に要請し、罰則付きの新たな基準を検討する。なぜ現行の衛生基準が守られなくなったのか、しっかり分析し、有効な仕組みを作ってほしい。衛生基準自体がない鶏肉を対象に加えることも検討課題だろう。

私たちも、改めて確認したい。菌への抵抗力に乏しい幼児や子ども、お年寄りは生肉を控える。食べたい人は、安全性をチェックしているかどうか、お店に尋ねる。最低限の自衛策として心がけたい。

毎日新聞 2011年05月07日

生肉食中毒 まず原因の徹底究明を

死者4人を出した焼き肉チェーン店の集団食中毒事件で、富山、福井両県警の合同捜査本部は業務上過失致死容疑でチェーン店を展開するフーズ・フォーラス社(金沢市)と東京都内の食肉卸売業者などを家宅捜索した。

食中毒の原因は、家畜や人の腸内にある病原性大腸菌O111とみられる。フーズ社による管理体制はどうだったのか。食肉卸売業者の加工方法に問題はなかったのか。流通過程における衛生管理はどうだったのか。再発防止に向け、徹底した原因究明が求められる。

事態を受け、厚生労働省は、生食用食肉の加工手順を定めた国の衛生基準を見直し、生肉を出している飲食店の規制強化に乗り出す。違反者には罰則を設ける方針だ。

現行の衛生基準は、生食牛レバーによる集団食中毒の発生を受け、98年に策定された。だが、罰則がないため、有名無実化している。

厚労省によると、少なくとも07年度以降、国内で生食用として出荷された牛肉はないという。にもかかわらず、ほとんどの焼き肉店はユッケや刺し身などの生肉をメニューとして提供している。なぜ、こうした実態が放置されていたのか。厚労省の食中毒統計によると、病原性大腸菌が原因の食中毒は05年度から昨年度まで計134件発生し、患者数は1578人に上る。こうした状況を見ても、レバーや牛肉などを生で食べることの危険性を消費者に周知徹底する啓発活動は十分だったのか疑問がぬぐえない。

今回死者が出たことで厚労省は重い腰を上げた格好だ。新たな規制強化策として、一歩踏み込んで、飲食店に対して生食用か加熱用かの商品表示を義務付けるべきだろう。

ずさんな衛生管理の結果、被害を受けるのは、いつも抵抗力の弱い子どもや高齢者だ。99年から05年まで病原性大腸菌による食中毒患者のうち、35%が9歳以下、死者の90%が70歳以上だった。もちろん、今回の死者に40代女性が含まれているように、成人でも注意が必要だ。

焼き肉業界では人気商品であるユッケなどはメニューから外せない事情もあり、加熱用を生食用として提供することが慣習化している。国の衛生基準に沿った安全対策として、肉の表面に付着した細菌をそぎ落とす作業を行っているとはいえ、完全除去は不可能という専門家の指摘もある。

「食の安全」に対する国民の意識は年々高まっている。消費者の信頼を取り戻すためには、業界自ら再発防止策を講ずる必要がある。同時に、複雑と言われる流通経路や加工過程に関する情報を開示して、透明性を高める努力も欠かせない。

読売新聞 2011年05月07日

ユッケ食中毒 形骸化した生肉規制の点検を

生の牛肉による食中毒が拡大している。

問題となっているのは焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」だ。

6日までに、富山、福井、神奈川各県の店舗で生肉のユッケを食べた客のうち4人が、腸管出血性大腸菌(オー)111に感染するなどして死亡した。

疑い例を含め100人近くが腹痛や下痢などの症状を訴え、うち20人以上が重症となっている。

警察は業務上過失致死容疑で強制捜査に乗り出した。

なぜ、これほど症状が重く、しかも被害者が複数の県にわたる食中毒が発生したのか。徹底した原因究明が必要である。

問題の牛肉は、東京都の食肉加工卸業者から焼き肉チェーン各店舗に納入された。

大腸菌が付着したのは牛肉の納入以前なのか、各店舗に納入された後なのか、各都県の衛生当局が菌の遺伝子型を分析するなど、慎重に調査している。

ユッケなど生肉料理について、厚生労働省は1998年に「生食用食肉の衛生基準」を局長通知で定めている。

O111と同様に食中毒を起こす大腸菌O157が、牛の生レバーに付着して食中毒を起こす事例が相次ぎ発生したためだ。

生食用食肉の専用設備を使い、衛生管理を徹底するなど、基準を満たした処理を行った肉だけが「生食用」として出荷できる。

ところが、生食用としてどういう肉を客に出すかは、それぞれの焼き肉店まかせになっているのが実情のようだ。問題の焼き肉チェーンに納入した業者は、保健所に対して「出荷する肉は加熱用だ」と説明しているという。

今回の事件で、生食用食肉の衛生基準が形骸化している現状が浮き彫りとなった。

現行の衛生基準には、法的強制力がなく、ほとんど守られていない。厚労省も、業界に対して強い姿勢で基準順守を求めることを怠ってきた。

厚労省は、今回の事件を受け、生食用食肉の基準を満たさない肉がユッケなどで提供されないように監視・指導を強めるとしている。生食用の衛生基準を食品衛生法に規定し、違反した場合の罰則も定める方針だ。

結果の重大さを見れば、こうした規制強化は当然である。

馬肉や鶏肉など生食されている他の肉でも、基準が守られているかどうか、不安に感じる人もいるだろう。安心して生肉料理を食べられるよう、総点検が必要だ。

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