ビンラディン テロの時代に決別せよ

朝日新聞 2011年05月03日

ビンラディン テロの時代に決別せよ

世紀のテロリストの最期は、あっけなかった。

国際テロ組織アルカイダの指導者であるオサマ・ビンラディン容疑者が殺害された。潜伏先のパキスタンで米軍部隊に射殺されたという。オバマ米大統領は「正義はなされた」と声明を出した。同時多発テロの現場だったニューヨークの世界貿易センター跡で、群衆が星条旗を掲げて歓喜の声をあげた。

2001年に起きた同時多発テロから今年は10年になる。ビンラディン容疑者は当時、アフガニスタンに滞在していたが、タリバーン政権は米ブッシュ政権の引き渡し要求を拒んだ。

これが米国の「対テロ戦争」の始まりとなった。タリバーン政権はあっけなく崩壊したが、ビンラディン容疑者は行方をくらました。大規模テロとその報復の戦いはイラクなど各地に広がり、無差別テロや空爆で民間人の犠牲が絶えなかった。

その引き金となった張本人の死亡確認である。遺族や、テロの不安にさらされていた人たちが喜ぶ気持ちは理解できる。

だが、これでイスラム過激派のテロが終息すると考えるのは早計だ。彼のメッセージはビデオやネットを通して広がった。各地の過激派にゆるいネットワークが作られている。これを断ち切らぬ限り、第2、第3のビンラディンが生まれる。今や貧困地域だけでなく欧州や米国にも、テロに共感する若者が育っているのは大きな問題だ。

ブッシュ前大統領はビンラディン容疑者の身柄を「生死を問わず」とらえると宣言し、オバマ氏も同調した。困難であったろうが、裁判にかけられなかったのはとても残念だ。

逮捕して公平な裁判を受けさせれば、数々のテロ事件の意図や背景が解明できただろう。独りよがりな論理や卑劣な手口を世界に公開すれば、テロの再発防止にもなったはずだ。

中東ではいま、長年の独裁体制を打ち破ろうとする民衆革命が起きている。この「アラブの春」の大波に、ビンラディン容疑者はメッセージを出せなかった。「反米」の大義をかざせないとき、過激な主張は民衆の支持を得られないのだろう。これは米国にとって、今後への大きな教訓ではないか。

オバマ大統領は「イスラム世界と戦争しているわけではない」と強調した。だが、言葉だけでは足りない。これまで対テロ戦が最優先だった外交を、見直す必要がある。イスラム世界に敬意を払い、民衆の共感を得ることで、テロの時代に決別しよう。

毎日新聞 2011年05月04日

ビンラディン テロ育てる土壌なくせ

国際テロの黒幕、ウサマ・ビンラディン容疑者がパキスタン領内で米軍に殺害された。日本人24人を含む約3000人が死亡した米同時多発テロ(01年9月11日)から10年、米政府と遺族の願いがようやく実った。あの恐るべきテロを振り返り、改めて犠牲者を悼みたい。

だが、何が終わったのだろう。ビンラディンという人間の人生は終わったが、容易に終わるまいと思えるのは、彼の思想と方法論の流れをくむテロ活動だ。オバマ米大統領が言うように「正義が行われた」のは確かだが、世界が直ちに安全になるとは限らない。同容疑者を異例の「水葬」にしたことも反発を買う恐れがある。当面、米国も世界も報復テロを警戒すべきである。

ビンラディン容疑者はイスラム原理主義の「アルカイダ」を率いていた。サウジアラビアの財閥の家に生まれた彼の資金力はテロ活動にも役立った。だが、今のアルカイダにとって同容疑者は象徴的存在であり、その思想に共鳴して各国に生まれた組織が自律的に活動している(フランチャイズ化)のが実情だろう。こうした組織の活動は続くはずだ。

同容疑者は米国と激しく対立する陰で、母国のサウジをはじめ中東の国々に厳しい目を向けていた。親米の独裁体制はイスラムの教えに照らして「腐敗」とも「背教」とも映るのだろう。そんなアラブ諸国の中でチュニジアとエジプトの大統領は失脚し、リビアやシリア、イエメンなどでも長期独裁体制が民衆運動によって揺さぶられている。

かつて若者たちを吸い寄せたビンラディン容疑者の思想は魅力を失い、民衆運動に取って代わられつつあるとの見方もある。そうであることを祈りたい。しかし、アラブの一国で民衆が政権を代えたとしても、米国を中心とする国際政治を変えるのは難しい。国際テロ組織が暗躍する素地は簡単にはなくなるまい。

9・11テロ後、米ブッシュ政権は「テロとの戦争」を掲げてアフガニスタンとイラクを攻撃した。この二つの国では、誤爆による死者も含めて、9・11テロの何十倍にも上る犠牲者が出ている。テロの土壌はなくなるどころか、強まる反米感情の中で肥え太った印象が強いのだ。

歴史に「もしも」は無意味とはいえ、01年10月からのアフガン攻撃で早々とビンラディン容疑者を拘束できていれば、03年からイラク戦争を始める必要性も薄れたのではないかという思いもよぎる。この10年で私たちが得たのは「軍事行動ではテロを根絶できない」という教訓ではないか。イスラムとの対話を掲げるオバマ政権が、中東の安定に寄与するよう願わずにはいられない。

読売新聞 2011年05月03日

ビンラーディン テロとの戦いは終わらない

米同時テロの首謀者とされるウサマ・ビンラーディンが米当局によって殺害された。

2001年9月11日の同時テロでは、日本人24人を含む約3000人が死亡した。米国は、ビンラーディンが率いる国際テロ組織アル・カーイダの犯行と断定し、総力を挙げて追跡してきた。

ビンラーディンはアフガニスタンとパキスタンの国境地帯に潜んでいると見られていたが、意外にも、隠れ家はパキスタンの首都イスラマバードの近郊にあった。

米国が主導する「テロとの戦い」にとって、首謀者の死は、大きな成果だ。オバマ大統領は「正義が成し遂げられた」と述べた。菅首相も「テロ対策の顕著な前進」を歓迎する談話を出した。

ただ、これでテロが終息するわけではない。殺害に反発して、むしろ報復テロの可能性は高まる恐れがある。

米国はじめ国際社会は、従前にも増して、テロへの警戒を怠ってはならない。日本が自衛隊駐屯地の警備態勢を強化するなどの措置を講じるのは当然だ。

ビンラーディン殺害は、10年近くにわたり行方を追い続けてきた米政権の執念が実ったものだ。大統領の発表に、ホワイトハウスの前に詰めかけた多数の市民が快哉(かいさい)を叫んだのも無理はない。

だが、大統領自身が認めた通り、テロとの戦いは今後も続く。

米国人を殺すことがイスラム教徒の義務だとするビンラーディンの考えを信奉するテロ組織は、北アフリカから東南アジアにまで広がっている。欧米諸国内にも、共鳴者が生まれている。

その死は「殉教」とみなされ、信奉者が増える懸念すらある。

イスラム世界には、「テロとの戦い」を掲げてアフガンやイラクに進攻した米国への、根強い反感がある。ビンラーディン殺害が反米感情をさらに助長させるようなことがあってはなるまい。

アフガンでは、ビンラーディンの影響力が強かった反政府勢力タリバンの動向が注目される。

米国は責任を持って、アフガンとイラクに安定をもたらす必要がある。それが米国への信頼を高めることになろう。

中東・北アフリカでは民主化運動が拡大している。退陣を迫られた強権的指導者の大半は米主導のテロ掃討作戦を支持してきた。

民主化運動の帰趨(きすう)と、ビンラーディン殺害が、今後の「テロとの戦い」にどう影響するのかも、国際社会は見極める必要がある。

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