税・社会保障改革 民主党の不一致が心配

毎日新聞 2011年04月29日

税・社会保障改革 民主党の不一致が心配

東日本大震災で中断していた税と社会保障の一体改革に向けた議論が再開した。菅直人首相を議長とする政府の集中検討会議は、当初の目標通り、6月中に改革案を取りまとめる方針だ。

被災地復興を優先し、一体改革は当面先送りでもよいのではないか、といった考えが一時、浮上していた。だが、復興財源が新たに必要になったことや、高齢者の住みやすい町づくりという視点が復興に不可欠であることを考えれば、一体改革の必要性は、むしろそれまで以上に高まったといえよう。議論を復興に関するものと連動させて進め、予定通り改革案をまとめてもらいたい。その意味で先送りされなかったのは、ひとまずよかった。

ただ、気がかりなこともある。震災復興にお金がかかる一方で大幅な増税は難しいから、と介護や医療の給付を削ることでつじつまを合わせる発想に流れはしないか。

社会保障制度は今回の被災地も含め長期にわたり影響を及ぼし続けるものだ。無駄な支出を削り、サービスの質を下げずにコストを抑える工夫は当然大事だが、制度設計より先に、「増税は復興財源に回ってしまうから給付抑制で対応しよう」とならないよう願う。

その増税だが、復興目的であっても反対だとする意見が与党内にも根強く、意見統一が簡単ではなさそうだ。菅首相を辞任に追い込もうとする政局がらみの思惑とも連動しているように見える。

ここで一つ確認しておきたい。国内総生産の2倍に相当する借金を抱え、年間40兆円超の国債を新たに発行しても、財政がなんとか回っているのは長期金利が異例の低さで安定しているお陰だということだ。その前提が崩れた途端、「これまで通り」が続かなくなるのは明らかである。そしてその前提が崩れる可能性がじりじりと高まっているのだ。

米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズが日本国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。今年1月に1段階格下げしたのに続くものだ。ねじれ国会のもとでの財政再建は困難、との見方から格下げとなったところに、大震災で巨額の追加借金が必要になったためである。幸い金利はまだ落ち着いているが、急騰が永遠にないと断言することは誰にもできない。

一体改革をまとめる期限までわずか2カ月。議論をする段階から改革の中身や工程表など具体的な決定をする段階に移らねばならない。野党との意見調整も不可欠だが、菅首相にはまず民主党内の合意形成に全力を挙げてほしい。市場が注目しているのはまさに政治の調整力だ。

読売新聞 2011年05月02日

社会保障改革 震災復興と連動して推進を

大震災が目前の危機なら、少子高齢化による社会保障の制度疲労は中長期的な危機だ。どちらにも、真正面から立ち向かわなければならない。

菅首相を議長とする「社会保障改革に関する集中検討会議」が、大震災で中断していた公式会合を再開した。

首相は、震災が発生する前に設定した予定を変えず、社会保障と税の一体改革案は6月中にとりまとめる、との方針を表明した。

「東日本大震災復興構想会議」も、やはり、6月中に復興プランを打ち出す。社会保障改革と震災復興を、同時並行の形で推し進めるということだ。首相が強い意欲を示したものと言えよう。

震災の影響は、社会保障改革に必要な財源確保の道筋作りにも及んでいる。被害額は政府推計で最大25兆円に上る。復興費用の捻出が最優先となる。

だからといって、復興にめどがつくまで社会保障の議論を先送りにはできない。安心できる社会を再構築する点で、両者は別物ではなく、むしろ共通している。一連の政策として取り組むべきだ。

復興費用の多くは国債で調達することになろうが、いずれ償還するための増税は避けられまい。

国民が広く薄く負担するべきものとすれば、消費税率の引き上げを中心に検討せざるを得ない。使途を復興目的に限定した別会計を設けることで、国民の理解を得る手法が考えられる。

社会保障改革においてもまた、福祉目的に特化して消費税率を引き上げ、広く薄く、負担を分かち合う以外に、高齢化で膨らむ巨額の費用をまかなうすべはない。

大きな危機を克服するための財政的手だては、選択肢が限られてくる。そうした観点で震災復興と社会保障改革を進めれば、両者の財源は十分に両立するだろう。

ただし、消費税率引き上げのタイミングについては、景気動向に目配りする必要がある。

被災地では、医療や介護、雇用などを、緊急に再生していかなければならない。

その過程で、医師や病院の計画的配置や、やりがいのある雇用の創出、多様な世代が生き生きと暮らす地域づくり――など、社会保障改革に求められる具体像が、おのずと浮き彫りになろう。

被災者の生活再建や被災地の復興から得る経験を反映させつつ、社会保障改革を進めるべきだ。

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