日中韓首脳会談 「共同体」の全体像示せ

朝日新聞 2009年10月11日

日中韓 「共同体」の模索が始まる

日中韓3国の首脳会議が北京できのう開かれ、「歴史を直視し、未来に向かう」と誓い合った。始まって10年になるこの会議は、日本の政権交代を受けて、相互信頼と対話の新たな段階に入ったと言えるのではないか。

鳩山由紀夫首相が掲げている「東アジア共同体」は、共通の長期的な目標として共有することになった。

鳩山政権のアジア外交は、歴史問題を抱えてまだぎこちない3国関係のベクトルを、共同体に象徴される未来の方へ向けることから取りかかろうとしている。

オバマ米大統領が唱えるような、多国間協調を大切にする世界の外交の流れにも沿ったものだと考えたい。

この勢いを今月下旬にタイで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議、来月のシンガポールでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議へとつなぐべきだ。

東アジア共同体構想の萌芽(ほうが)は、マレーシアのマハティール元首相が唱えた東アジアの経済統合にあった。以来20年近く、多様な構想が政府や民間で浮かんできたが、まだまだ同床異夢の段階を超えてはいない。

その間に、中国の台頭に伴って、経済的な相互依存が進んできた。様々な地域協力も動き出している。だが、体制の違いのほか、資源や領土問題などの課題も抱え、単純に欧州統合と並べてみることはできない。

何より大きな問題は、米国の存在をどう考えるかだ。鳩山政権内ですら、首相が「除外するつもりではない」と言えば、岡田克也外相は「米国まで含めることになっていない」と語るなど、いろいろな見解がある。

いずれにしても、米国と対立するような共同体はありえない。今度の首脳会議で鳩山首相は「日本は米国に依存しすぎていた」と述べた。自民党政権との違いを印象づけたいという狙いだろうが、ならばなおさら、その真意を内外に十分説明する必要があろう。

自民党政権も、将来的な東アジアの姿に向け、経済や防災、犯罪防止などの分野で地域協力を進めてきた。これからもそうした協力の網を重層的に、厚く築いていかねばならない。

とはいえ、目の前に北朝鮮の核という問題が立ちはだかっている。

金正日総書記と会談したばかりの温家宝中国首相からは、北朝鮮が日韓との関係改善を望んでいるようだという説明があった。だが、6者協議再開への道筋が見えたわけではない。

日中韓の首脳が未来のアジアの姿を念頭に置きつつ、地域の平和と安定に向けて率直に話し合えたのはいい。大切なのは、現実の難しさを乗り越える確かな方向性を共有することだ。時間はかかろうが、これが鳩山首相の言う「共同体」の原点ではないか。

毎日新聞 2009年10月11日

日中韓首脳会談 「共同体」の全体像示せ

日中韓首脳会談が中国・北京で開かれた。席上、鳩山由紀夫首相が持論の「東アジア共同体」構想を提起し、中国の温家宝首相、韓国の李明博(イミョンバク)大統領から好意的な反応を得たという。日本のアジア外交がやっと動き出した。

この数年間、自民党政権下で日本のアジア外交は影が薄かった。驚異的な経済成長によって大国の地位を確立した中国と、その中国に急接近する米国という二つの風圧にあおられて金縛り状態になっていた。袋小路から抜け出せたのは、政権交代の効果だろう。

しかし「東アジア共同体」は、鳩山首相の独創ではない。日中韓首脳会談という枠組み自体が、「東アジア共同体」構想の一部として生まれたのである。日中韓首脳会談の前身は、1997年にクアラルンプールで開かれた3カ国首脳非公式会合だ。東南アジア諸国連合(ASEAN)が非公式首脳会議を開いた時に、その場を借りて行ったので貸座敷外交と呼んだ。提唱者は当時の橋本龍太郎首相だった。まだ中国の影響力はそれほど大きくなく、吹き荒れるアジア通貨危機の対応で日本が指導力を発揮した。

ASEAN首脳と日中韓3首脳を合わせた枠組みは、10年前のマニラでのASEANプラス3首脳会議で「東アジア協力共同声明」につながった。そこから「東アジア共同体(EAC)」の論議が生まれ、豪州、ニュージーランド、インドを加えた現在の東アジアサミット(EAS)に発展した。その中で、昨年からASEANから独立して日中韓の3カ国首脳会談が動き出した。

「東アジア共同体」構想はすでに存在している。鳩山首相は、これまで小泉純一郎氏など歴代の首相が語ってきた「東アジア共同体」とどこが違うのか、その点をまだよく説明していない。

米国は東アジア共同体の論議に以前から入っていない。だが、米国がアジア市場から締め出されると警戒していることは間違いない。

首相は会談で「ややもすると米国に依存しすぎていた」と語ったという。わかりやすいが、日本が反米になったのではないかと神経をとがらせている米国のことも忘れてはならない。思わぬ反発を受けないよう、鳩山流共同体論の全体像を具体的に提示すべきだ。

中国からは北朝鮮が日朝協議の再開を望んでいるという情報が伝えられた。停滞していた日朝関係が動き出しそうだ。それを前に、日中韓の首脳が連携を示したことは、北朝鮮へのメッセージになった。鳩山首相は、軍事力より外交力がまさることを今後の実績で示してもらいたい。

読売新聞 2009年10月11日

日中韓首脳会談 アジア重視の前提は日米同盟

鳩山外交の本質はやはり「脱米入亜」だと受け取られないか。

北京で行われた日中韓首脳会談で、鳩山首相は「今までややもすると米国に依存し過ぎていた」と述べた上で、「日米同盟は重要だと考えながら、アジアをもっと重視する政策を作り上げたい」と表明した。

首相の意図は、自民党政権下の外交を「米国依存」と印象づけ、政権交代による外交姿勢の変化をアピールしよう、ということなのだろう。

首相は、先の訪米の際は日米同盟が基軸だと強調していた。

だが、北京での発言は「日米同盟は重要だと考えながら」と前提をつけてはいても、首相の目指す「東アジア共同体」構想は、外交の重心を米国からアジアに移すもの、と解釈されかねない。

日本外交の基本はあくまでも日米同盟基軸である。誤解を招かないよう、首相には繰り返し強調してもらいたい。

東アジア共同体構想について、首相は首脳会談で、日中韓3国が核となって推進することを呼びかけた。具体的には経済連携の強化や青少年交流、大学間交流の促進を提案した。

しかし、経済連携ひとつ取ってみても、日本の経済連携協定(EPA)交渉は停滞気味だ。

特に韓国とは交渉が中断してから5年近くが経過している。農産物自由化への日本の消極姿勢が一因と言われている。

対韓EPA交渉は、東アジアとの経済連携を進めるうえでの試金石である。首相は、交渉再開に向けた環境整備を外務、農水両省などに急がせるべきだ。

北朝鮮の核問題は、6か国協議の早期再開に向けて関係国で共同して取り組むことを確認した。

国連安全保障理事会の制裁決議による「圧力」を維持しながら、6か国協議による「対話」を通じて、北朝鮮を核放棄のプロセスに引き込むことが大切だ。

日本は、制裁決議の実効性を保つため、北朝鮮貨物検査法案を早期に成立させる必要がある。だが、政府内では、臨時国会に提出する法案を絞り込むため、貨物検査法案の提出を来年の通常国会に先送りする声が強まっている。

制裁決議の提案国である日本がそんな優柔不断な態度では、中国や韓国に対して、厳格な決議の履行を迫れるはずはなかろう。

首相は、貨物検査法案を臨時国会で成立させるよう、指導力を発揮すべきである。

産経新聞 2009年10月11日

日中韓首脳会議 米国抜きの共同体は危険

鳩山由紀夫首相と温家宝中国首相、李明博韓国大統領の日中韓首脳会議が北京で開かれ、北朝鮮の6カ国協議早期復帰と再開へ向けた協力で一致し、東アジア共同体構想の検討などを盛り込んだ共同声明を発表した。

鳩山首相は2日間に日韓、日中首脳会談もこなし、就任後初のアジア訪問外交を締めくくった。

北朝鮮の核・ミサイル廃棄や拉致問題の解決を促す日中韓の協力体制強化は当然であり、歓迎できる。だが、首相の東アジア共同体構想には米国や中国の位置づけなど懸念される点が多い。日米同盟関係を危険にさらさないように、首相は明確で首尾一貫した説明を果たす責務がある。

北朝鮮問題では温首相が先の訪朝結果を報告した。これを受けて米国が検討中の米朝協議や日朝、南北の2国間協議再開の展望も踏まえて、日中韓の連携を深めることを確認した。

ただ、北に軟化の兆しが見えるにせよ、協議復帰に条件を付ける可能性もある。6カ国協議再開の道は平坦(へいたん)ではない。各国は「無条件復帰するまで国連制裁を着実に進める」という方針を今後も堅持すべきであり、3首脳がこの点を強調しなかったのは残念だ。

さらに心配なのは東アジア共同体構想だ。首相は先月、ニューヨークでの日中首脳会談や国連総会演説で構想をぶち上げたが、この間に行われたオバマ米大統領との会談では構想の説明を避けた。このため米側では「日本がアジア諸国と協力を深めるのは賛成だが、米国を排除するような地域枠組みは有益といえない」(米高官)との苦言や警戒の声が出ている。

首相は「米国を除外するつもりはない」(首相就任会見)というが、岡田克也外相は「日中韓、東南アジア諸国連合、インド、豪、ニュージーランドで考えたい」と「米国抜き」を明言し、両者の説明はちぐはぐだ。日中韓首脳会議後の会見で、首相が「今まで米国に依存しすぎていた」と語ったことにも大きな違和感を受ける。

首相は欧州連合(EU)型の共同体を描いているとの見方もあるが、その場合には政治・社会体制も異なる中国をどう位置づけるかの説明をすべきだろう。

アジア外交で日本が指導力を発揮する前提となるのは同盟を通じた日米の連携と協力があってこそである。首相と外相はこのことを肝に銘じてもらいたい。

朝日新聞 2009年10月10日

日本と韓国 歴史を直視して、前へ

近隣外交の上々の滑り出しである。

鳩山由紀夫首相がアジアで最初の訪問先に韓国を選び、きのう李明博大統領とソウルで会談した。

「新政権はまっすぐに歴史を正しく見つめる勇気を持っている」。首相は会談や記者会見でそう語った。

李大統領は「真心と開かれた心で韓日関係を未来志向的に発展させる立場だと高く評価する」と応じ、日韓の協力強化をともに確認し合った。

鳩山首相が強調したのが、戦後50年にあたる1995年に出した「村山談話」だ。「談話を(日本の)政府・国民がたいへん重要だと理解することがまず非常に重要だ」とした。談話重視は当然のことだし、それを隣国で発したことを評価したい。

この談話で、日本はアジアで行った植民地支配や侵略への深い反省を表明した。社会党の村山富市首相の名を冠してはいるが、当時の連立政権には自民党も加わっていた。閣議決定を経た政府の公式見解だ。

なのに、自民党やその後の歴代政権の中には談話をうとましく思い、否定しようとする人々がいて、アジアの国々からの不信を招いてきた。米国もそうした動きに眉をひそめてきた。

戦後60年の05年には小泉純一郎首相も村山談話を踏襲する「小泉談話」を出した。だが、靖国神社参拝にこだわり近隣外交を台無しにしてしまった。

政権交代を果たした鳩山内閣として、そうした自民党流のアジア外交の曲折を抜本的に清算したい。そう意気込んでいるに違いない。

「靖国に参拝しない」と言うだけでは足りない。この地域の近現代の歴史をどう見るのか、戦後の日本は何を反省し、教訓としているのか。鳩山首相には常にそこを意識し、一貫した発信に心がけてもらいたい。

国家の指導者として歴史をかえりみることは、過去にとらわれた行動ではない。歴史を直視し、それを踏まえて節度と良識ある態度で臨む。それでこそ、隣国とのわだかまりを解き、互いに信頼を深めていくことができる。

それは、近隣諸国と手を携えて未来を切り開いていく土台であり、日本にとっての外交戦略でもあるのだ。

来年は日本が朝鮮半島を植民地として併合してから100年である。歴史を踏まえつつ、関係を前に進めよう。韓国にも同じ姿勢を期待したい。

そうした態度は、日本と韓国の間の懸案を解決するのに必要なだけではない。地球温暖化対策やアフガニスタンの民生支援といった国際舞台での日韓協力でも、北朝鮮の核放棄を進展させるためにも求められる。

きょう、北京で日中韓首脳会議が開かれる。下旬には東南アジアを舞台に一連の国際会議もある。歴史の直視はここでも大切な視点となる。

毎日新聞 2009年10月10日

日韓首脳会談 北の核で結束強めた

鳩山由紀夫首相のアジア外交がスタートした。皮切りは韓国の李明博(イミョンバク)大統領とのソウルでの会談である。新政権のアジア重視外交の展開には、まずは価値観を共有する隣国との強い協力関係が不可欠だ。その意味で両首脳が「揺るぎない連携」(首相同行筋)を確認したのは意義がある。

首相にとって今回の首脳会談のポイントは二つあった。北朝鮮の核問題への対処と、東アジア共同体構想への協力取り付けである。

北朝鮮の核問題は先の温家宝・中国首相の訪朝が事態を動かすきっかけになるかどうか注目されている。北朝鮮が4月に6カ国協議からの離脱を表明してから初めて金正日(キムジョンイル)総書記が6カ国協議への復帰を示唆する発言をしたからだ。

しかし、北朝鮮が米国との直接対話を最重視している姿勢に変わりはなく、6カ国協議への復帰の可能性を示唆したといっても、あくまで米朝対話の進展を前提条件としているようだ。6カ国協議をボイコットして以降、弾道ミサイル発射や核実験を強行しウラン濃縮活動の推進も表明している北朝鮮の行為は決して許されるものではない。

北朝鮮に求められているのは「すべての核兵器と核計画を放棄する」という05年9月の6カ国協議共同声明の履行である。鳩山首相が「北朝鮮の核放棄という意思が示されない限り経済協力は行うべきではない」という李大統領の主張に同意し、両首脳が北朝鮮の具体的行動を見守る必要性を確認したのは当然である。10日に北京で行われる日中韓の首脳会談で首相と大統領は日韓の立場を正しく伝える必要がある。

首相が提唱する東アジア共同体について大統領は会見で「時間はかかるかもしれないが友愛の精神で努力すれば不可能ではないと思う。他の国々で実現しているのに東アジアだけできないはずはない」と肯定的な考えを示した。

国家体制の違いや経済格差の大きさなどからアジアでの地域統合の実現は容易ではない。しかし、この地域にはすでに東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス日中韓やASEAN地域フォーラム(ARF)、東アジア首脳会議などの協力の枠組みが存在している。こうした既存の枠組みの中で具体的な協力を積み重ねていく先の共同体構想は長期的課題として取り組む価値はあるだろう。

これまで日本のアジア外交のさまたげになってきた要因に歴史認識問題がある。これに関し首相は大統領に「新政権はまっすぐに、歴史を正しく見つめる勇気をもっている」との考えを伝えた。アジア重視外交を進めるには必要な姿勢である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/72/