毎日新聞 2011年05月02日
東北新幹線全通 地域の鉄道の復旧も
東北新幹線が全区間で運行を再開した。東日本大震災による被害を修復し、段階的に運行区間を拡大してきたが、1カ月半遅れとなったものの、震災の翌日に全面開業した九州新幹線の分を含め、本州の北端の新青森から九州の南端の鹿児島中央まで、新幹線がつながった。
巨大地震による被害は鉄道へも広域に及んだ。架線を支える電柱の折損や線路のゆがみ、橋桁のずれなど東北新幹線の設備には数多くの損傷が生じた。余震が続く中で修復が続けられ、復旧予定を繰り上げる形で29日に運行を全面再開した。
阪神大震災の教訓が生かされたことが、短期間での修復につながったのは間違いないだろう。阪神大震災の際には、山陽新幹線の高架橋が倒壊し、復旧に多くの時間を要した。そのため、JR東日本は橋脚に鉄板を巻くなど、倒壊を防ぐための措置をとってきた。
その結果、高架橋のほか、橋りょう、トンネル、駅舎の崩落を防ぐことができた。
また、地震発生時に初期微動を感知し、本格的な揺れが始まる前に停止動作に入るシステムも有効に働いた。300キロ近いスピードがでていたものも含め運行中の列車はすべて安全に停車した。これも、新潟県中越地震による上越新幹線での脱線の経験が生かされた結果だ。
在来線でも、津波が到達する前に列車の乗客は避難できた。
福島第1原子力発電所の事故によって、日本の安心と安全に大きな傷がついた。しかし、その一方で、東北新幹線の列車が安全に停止し、早期に復旧を遂げたことは、世界にもアピールできる点だ。
東北新幹線の全面運転再開によって、人の移動がよりスムーズになり、被災者の支援や復旧・復興にも大きく貢献するはずだ。また、今回、新青森から鹿児島中央までが新幹線でつながったことは、出はなをくじかれた形となった九州新幹線にとっても、改めて全面開業をPRできる機会となるはずだ。
新幹線の復旧の一方で、次の課題となるのが被災した在来線の復旧だ。JR東日本の路線だけではない。より深刻なのは、かつて旧国鉄から切り離され、第三セクターで運営されている路線だ。収益基盤が弱く、流された線路や橋りょうなどを自前で復旧できるだけの体力はないからだ。
地域を走る鉄道の姿は、復旧・復興を象徴し、人々の心の支えにもなるだろう。
被災した地域の復興をどのように進めるのかが大きな課題だが、その中で鉄道をどう位置づけ、復旧を支援するのかについても、真剣に取り組んでもらいたい。
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読売新聞 2011年04月30日
東北新幹線復旧 余震警戒し安全運行に徹せよ
震災で被害を受けた東北新幹線が29日、1か月半ぶりに全線で運転を再開した。
首都圏と東北の主要都市を結ぶ大動脈の復活である。
ビジネスや観光で人の流れが元に戻り、経済復興が本格化するきっかけになると期待したい。
東北新幹線は、地震でレールや架線など1200か所が破損し全面運休した。震災前の3月5日にデビューした新車両「はやぶさ」は、1週間で出番を失った。
その後、懸命の復旧工事で運転を順次再開し、最後まで残っていた仙台と岩手県一ノ関の区間が29日につながった。
運行本数は震災前より1割程度少ない。一部の区間を減速して運転するため、最短で3時間10分だった東京―新青森間は、約4時間かかるという。
それでも、飛行機やバス、車などを乗り継いでいた被災地への「足」は格段に向上する。春の行楽シーズンを迎え、東北地方がにぎわう足がかりになろう。
阪神大震災では、山陽新幹線の完全復旧には3か月を要した。それに比べると、東北新幹線の復旧は早い。観光需要などが見込まれる大型連休までに何とか間に合わせようとしたためだ。
だが、東京―仙台間が開通した25日には、送電トラブルによる断続的な停電で、5時間近く運転を見合わせる事態を招き、27日にも停電などでダイヤが乱れた。
早期に運転を再開したのはいいが、点検や安全運行がおろそかになるようでは困る。
一方、被災者の暮らしを支えてきたローカル線の再建も忘れてはならない。
太平洋岸の在来線は津波に直撃され、線路や駅舎が流失するなど壊滅的な被害を受けた。青森から福島に至る4県で、JRの7路線、第3セクター鉄道などが今も一部不通となっており、復旧のメドは立っていない。
鉄道の災害復旧では、国と自治体が費用の半分を補助できるが、赤字経営が大半の3セク鉄道が自社の負担分を捻出するのは難しい。このままでは廃線に追い込まれる可能性さえある。
国は被災した3セク鉄道などを対象に、復旧費の補助率を引き上げる特例措置を講じるべきだろう。JRも被災路線を切り捨てることなく、地域の生活路線復活に全力を挙げる必要がある。
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