震災後の外交 今こそ軌道に乗せよう

毎日新聞 2011年04月26日

震災後の外交 今こそ軌道に乗せよう

東日本大震災から日本が復興再生するまでには長い時間がかかるだろう。だが立ち往生しているわけにはいかない。とりわけ国際社会とのかかわりは大切だ。日本が復旧に向け着実に歩む姿を世界にアピールするためにも、政府は今こそ外交に力を入れるべきである。それは、福島第1原発事故に直面する日本が原発の安全確保などで世界と問題意識を共有し、発災国として国際的な責任を果たすことにもつながる。

その皮切りになる松本剛明外相の外遊が、第1次補正予算案の審議日程とぶつかることから暗礁に乗り上げている。外相は29日からの大型連休中に米国でクリントン国務長官と会談したあと、ベルリンで核軍縮・不拡散外相会議、セネガルでアフリカ開発会議(TICAD)閣僚級会議に出席する準備を進めてきた。しかし予算案審議には全閣僚出席というルールがあるため、1次補正予算の早期成立を目指す民主党から待ったがかかっているという。

震災後に最大級の支援をしてくれた米国を外相が訪問して日米同盟の重要性を確認する意義は言うまでもない。核軍縮会議は岡田克也外相時代に日本のイニシアチブで始めたものだし、日本が音頭をとり進めてきたTICADの会議には、40カ国以上のアフリカの国が参加する。アフリカの貧しい国からの震災支援に感謝するだけでなく、中国の影響力が近年強まるアフリカで日本の存在感を維持し高めていくうえでも、日本の外相出席は必要である。

予算案審議への全閣僚出席ルールは政党間合意による慣例にすぎず、理事会が認めれば外相の外遊は可能になる。目先の国会日程を理由にすべてを中止することは、日本の国益を大きく損ないかねない。

大型連休後には大事な国際会議も目白押しだ。フランスで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議まで、あと1カ月しかない。その前には東京で、日中韓3カ国首脳会談が予定されている。いずれも、日本の事故を受けた原発の安全確保や規制ルールづくり、エネルギー資源問題が主要テーマになることは間違いない。震災直後と比べ、国際社会が日本に向ける目は厳しさを増している。原発震災後の危機管理能力を問われている菅直人政権に、そうした自覚と責任を果たす用意はあるのだろうか。

日本からの農産物の輸入制限や外国人・外国企業の撤退の動きといった過剰反応が起きたのも、日本が国際社会に正確な情報発信をしてこなかったことが理由のひとつだ。傷ついた日本のイメージを払拭(ふっしょく)し日本ブランドを立て直すためにも、国際舞台での「復興外交」(松本外相)は待ったなしの課題である。

読売新聞 2011年04月27日

閣僚の外遊 「外交重視」の国会慣例を作れ

国会審議の都合で、首相や閣僚が外国訪問を中止し、日本の影響力を弱めて国益を損ねる。そんな長年の悪弊を、もう断ち切る時である。

与野党が、大型連休中の松本外相の4か国訪問を容認することで一致した。外相の外遊は、第1次補正予算の審議と重なるため、見送り論が出ていたが、外相が不在の審議では外務副大臣らの代理答弁を認めることにした。

この合意を歓迎したい。

国会では、予算審議の基本的・総括的質疑に首相と全閣僚が出席する慣例がある。この慣例を墨守し、外交を二の次にすることの弊害に鈍感であってはなるまい。

野党の自民、公明両党は、与党時代に首相・閣僚の外遊が制約された苦い経験を踏まえ、今回、外相の外遊を後押しした。「大人の対応」と評価できよう。

今回の合意を機に、与野党は、外交を重視する新たな国会慣例の確立を目指してもらいたい。

松本外相は29日に出発し、米国でクリントン国務長官らと会談する。ドイツで核軍縮の外相会合、セネガルでアフリカ開発会議のフォローアップ会合に出席し、ベルギーでは欧州連合の貿易相と会談する予定だ。

いずれも、重要な外交案件である。加えて今回は、日本が東日本大震災の復興を成し遂げ、国際社会に積極的に関与していく姿勢をアピールする好機だ。

日本の農産・工業品は、放射能汚染を警戒する国から輸入規制されている。外遊の中止は、震災被害が今なお深刻という誤ったメッセージを海外に送り、新たな風評被害を誘発する恐れもあった。

外交の世界では、外相の訪問は、代理の副大臣と比べて、格段に重く扱われる。その機会の放棄は国益を確実に害するという認識を、与野党は共有する必要がある。

例えば、日本は2008年の横浜でのアフリカ開発会議で、5年間でアフリカ向け援助を倍増し、最大40億ドルの借款を供与すると表明した。だが、それだけでは「小切手外交」にもなりかねない。

その後、アフリカで毎年開かれている閣僚会合に日本の外相が出席し、きめ細かな対応をしてこそ、50か国超との信頼関係を築ける。日本の発言力も確保できる。

アフリカでは、中国が資源確保を目指し、猛烈な援助外交を展開している。日本が無策でいれば、影響力が低下するばかりだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/718/