朝日新聞 2011年04月22日
原発事故賠償 改革の妨げにするな
福島第一原発の事故に伴う損害賠償の枠組みについて、政府の原案が明らかになった。
東京電力が支払いの主体となる。官民で新設する「機構」を使って、足りない資金を国費で肩代わりし、東電の毎年の事業収益から返済させる。その間、東電の経営は政府の管理下に置かれる。
賠償金の総額が巨額になるのは間違いない。東電だけでは対応しきれない場合を想定し、被災者への支払いが滞ることのないよう準備を整えておくのは当然だろう。大量の電力債が流通している金融市場を混乱させない工夫も考える必要がある。
国費を投入する以上、東電の経営陣に、事態をここまで悪化させた責任を厳しく問うことは論をまたない。社員の処遇や資産売却などを含め、徹底的なリストラは不可欠だ。
それ以外にも課題は多い。株主は責任をとらなくていいのか。融資している銀行は無傷でいいのか。1基あたり1千億円以上ともいわれる廃炉の処理費用はどうするのか。
支払い責任は東電が担うといっても、今の仕組みであれば最終的には電力料金に転嫁され、利用者が負うことになる。福島の原発が首都圏の電力需要をまかなっていたことを考えると致し方ない面もあろうが、政府がきちんと説明するべきだ。ほかの電力会社も機構に入る場合、負担が全国の利用者に広がる可能性もある。
なにより、枠組みそのものが今後の電力行政改革の妨げにならないよう、注意が必要だ。
ふつうの企業ならつぶれてしかるべき事態にもかかわらず国が支援に乗り出すのは、東電に代わって管内に電力を供給できる企業がないためだ。電力業界は、強い政治力によって、地域独占を維持してきた。
今回の枠組みは、国の負担をできるだけ抑えるため、東電の存続を前提にしている。原発を推進してきた国の責任は不明確なままだ。国費投入に対する国民の批判を避けることばかり気にしていると、大きな課題を見失いかねない。
原発の一義的な維持管理の責任を、電力各社に委ねたままでいいのか。地域独占が緊急時の電力融通を妨げている面はないのか。新エネルギー開発をだれがどのように担うのか。
これらは、原発事故への対処や賠償責任とは別の角度から大いに見直していくべき問題であり、電力産業の姿を大きく変えうるものでもある。
福島原発が提起した問題の本質を見すえて議論を深めたい。
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毎日新聞 2011年04月19日
原発事故と学校 安全基準を一日も早く
校庭で元気いっぱい遊ぶ子供たちを見る。本来なら目を細める光景だが、つい不安がよぎる。「大丈夫か」。放出放射性物質の影響が心配される福島第1原発事故で、福島県内の学校などに通う児童生徒の保護者、先生らにはこんな思いもあるだろう。
地元自治体が国に対し、登校しても安心という安全基準の明示を求めてきたのは当然だろう。ところが、文部科学省などの対応が遅い。
こんなちぐはぐがあった。
今月13日、原子力安全委員会の委員がこの安全基準の検討状況を問われた際、年間の累積被ばく放射線量について「子供は成人の半分の10ミリシーベルト程度を目安に」と発言した。これに対して翌14日、文科相が国会で「基準は年に20ミリシーベルト」と答弁。安全委の委員も会見で「個人的な見解」と前言についてことわった。
年間20ミリシーベルトは政府が「計画的避難区域」に想定している基準だ。
10ミリシーベルトが基準になると、授業ができない学校や一時転校が必要な子供たちが増えるかもしれない。それに文科省側が慎重になったわけではないだろうが、震災・事故発生からとうに1カ月を超し、新学期も始まった今も学校の安全基準が定まらないのは心もとない。
文科省はその基準や目安、対応を定めるべく福島県と、放射線量が比較的高く出た52施設の調査をしているが、モニタリングの箇所など具体的な実施内容を公表すべきだろう。
放射線被ばくは外部だけではなく、摂取による内部被ばくも考慮しなければならない。校庭で遊んだり、運動したりする時、しばしば土ぼこりを吸い込んだりする。
また給食や水道水はどうか。そういうことも丹念に踏まえ、基準作りに生かさなければならない。モニタリングの箇所をもっと増やして精度を高めることが将来にわたって不可欠だろう。
安全基準は専門家の間でも見解が分かれるが、こうした状況の中で基準決定の先延ばしは許されない。
情報公開と説明は誤解や偏見を正すうえでも重要だ。
例えば、千葉県では、福島県から両親らと避難してきた小学生が、子供に「放射線がうつる」とからかわれたという情報が教育委員会に寄せられ、教委が市内の全小中学校に注意する異例の通知をした。
こうした誤解や心ない言動を引き起こさせないためにも、文科省が責任を持って主体的に判断した安全の基準を早急に示す必要がある。
こうしている間に福島県では屋外の体育などを控えている学校が少なくないという。判断がこれまで示せなかったことに起因するとしたら、国は子供たちに申し訳あるまい。
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読売新聞 2011年04月25日
原発の耐震性 安全強化への投資を惜しむな
東京電力福島第一原子力発電所が大津波で深刻な事故を起こしたことを受け、全国の原発で、安全性向上への取り組みが進められている。
原発を設計、建設した時の想定を上回る津波が襲来しても、福島第一原発のような事態にならないことを目指すという。早急に対策を終えねばならない。
これは、経済産業省が各電力会社に指示したものだ。
福島第一原発では地震直後に原子炉が停止した。ここまでは想定通りだが、大津波により核燃料の冷却に必要な非常用電源が使えなくなった。核燃料は過熱して一部が溶融し、原子炉内部の圧力が高まって放射性物質が外部に漏れ出す非常事態になった。
これを踏まえ、経産省は、緊急対策として、4月末までに、非常用電源が水に浸り使用不能にならないよう、設置場所を高台に移したり、予備の電源車を配備したりすることを求めている。
万が一、福島第一原発のような事態になっても、被害を最小限に抑えるため現場はどう即応すべきか、手順書を作り、訓練を実施しておくことも課している。
いずれも当面の対策だが、経産省は、各原発の対応を綿密かつ厳格に点検すべきだ。不備があれば運転を許可しないほど、厳しい姿勢で臨む必要がある。
今後の中長期的課題は多い。
一つは、どれほど大きな津波に備えるべきか、各原発の想定が現状のままであることだ。
津波に対する備えは、政府の原発耐震指針でも、重視されてきたとは言い難い。福島第一原発も、想定していた5・7メートルを、はるかに上回る15メートルの大津波が来た。
経産省は、今後の事故調査などで見直すというが、遅すぎる。中部電力は静岡県の浜岡原発に高さ15メートルの防波壁を設ける方針を明らかにしているが、これで十分安全か、さらなる検証も要る。
各原発で、放射性物質が放出される深刻な事故が発生した場合の被害想定も策定すべきだ。その想定に対応する避難体制、被害拡大防止策など、政府、事業者の防災対策も練り直したい。
従来の政府の防災対策は現実味を欠いていた。それが今回、対応が後手に回っている原因だ。
どの対策も巨費がかかる。関西電力は安全強化に700億円を投じる意向だが、政府も必要な財政措置を講じてもらいたい。
現実に事故が起きた場合の被害額を考えれば、安全への投資は決して惜しむべきではない。
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