計画的避難 安心できる場とケアを

毎日新聞 2011年04月13日

計画的避難 安心できる場とケアを

どのくらい危険なのか、避難すべきなのかどうか……。被災から1カ月過ぎてもよくわからない福島第1原発の近隣住民たちの不安はいかばかりだろう。

政府は半径20キロ圏外で放射線の累積線量が年間20ミリシーベルトに達する恐れのある5市町村(一部を除く)を「計画的避難区域」に指定し1カ月以内に住民に避難させると発表した。また、20~30キロ圏のうち計画的避難区域に指定されなかった地域を「緊急時避難準備区域」に指定、緊急の避難が難しい子どもや妊産婦、要介護者らにはこの地域への立ち入り自粛を求めるという。原発からの距離で一律に屋内退避指示を出していたのに比べ、放射線量や風向き、地形などを考慮した点は改善が認められる。ただ、現実はそう簡単ではない。

原発から半径20~30キロ圏内では「屋内退避指示」が出た当初、ほとんどが圏外の避難所へ移ったが、現在は自宅に戻った人が多いという。避難所で落ち着かない障害児や幼児がしかられ、ストレスで異常行動を見せるようになった。要介護のお年寄りの状態が悪くなった。持病の薬がなくて発作を起こした。家族もうつ状態になった。そうした理由でやむを得ず戻ってきたというのだ。

しかし、開いている商店はほとんどなく、外からの物流業者やボランティアも30キロ圏内に入る人は少なく、ガソリンや食べ物、薬の不足は深刻だ。「配給所に2時間ならんでジャガイモ3個もらえた」「役所の職員も疲れ切っているので悪くて頼めない」。そんな住民たちの声を聞いて、支援に入った医師は「診察時に食料を運んだ」という。「過食、視線の焦点が定まらないなど心配な症状を見せる子たちがいるが、親も余裕がなくて気づかない」。心理士は子どもの心の危機に現地からSOSを発する。

緊急時避難準備区域では保育所や幼稚園を休園にし、いざという時に圏外避難できる準備を住民に求めるというが、もともと避難所にいられないから自宅に戻ってきた人々なのだ。安心できる避難先がなければ、いくら立ち入り自粛を求められても動けないのは目に見えている。このままでは「計画的避難区域」に指定された5市町村でも、お年寄りや障害者らが最後に残されるだろう。

原発の放射性物質放出がいつ収まるのか、低レベル放射能が長期的にどのような影響をもたらすのか予測が難しく、地元自治体も混乱している中で、政府が住民の安全を守る措置に苦慮するのはわかる。ただ、避難指示によって住民が地域からいなくなれば、取り残される人はますます困窮する。まずは必要なケアや安心できる場所が必要だ。

読売新聞 2011年04月16日

原発「計画避難」 今後の見通し丁寧に説明せよ

東京電力福島第一原子力発電所の事故収束のめどが立たないなか、政府は新たに、放射性物質による汚染地域を対象とした「計画的避難」を実施する方針だ。

高濃度の放射性物質による汚染が、従来設けていた避難区域の外でも確認されたためだ。長期間とどまっていると、被曝(ひばく)量が国際安全基準の年間20ミリ・シーベルトを上回る恐れがあるという。

原発の北西部にある福島県飯舘村などが、この対象地域に挙がっている。原発から30キロ以上離れているが、原子炉損傷部から長期にわたり漏れた放射性物質などが風に乗って飛来したらしい。

政府は、これらの地域の住民を1か月間程度で地域外に避難させるという。国際原子力機関(IAEA)の勧告にも沿っている。円滑に進めてもらいたい。

汚染の影響で、どんな健康被害が生じるのか。どこへ避難し、どう生活を維持するのか。いつまで元の地域へ戻れないのか。

こうした住民の不安に対し、政府は将来の見通しを丁寧に説明すべきだ。汚染状況によっては、将来、土壌の除去などで安全に暮らすことも可能なはずである。

政府はこれまで、原発周辺の半径20キロを「避難指示」、半径20~30キロを「屋内退避」としてきた。原子炉の破壊による放射性物質の大量放出に備えた措置だ。

計画的避難の追加は、事故発生以来、放射性物質が相当量、放出されていることを示した。これ以上、汚染が深刻化しないよう、事態を収拾することが急務だ。

政府や東電は、避難地域から誰がどこに避難したか、状況の把握すらしていない。生活支援は、ほぼ自治体任せになっている。

計画的避難も合わせると、避難者は計10万人を超す見通しだ。手厚い生活支援が必要だ。東電の賠償の仮払金は、速やかに支払われるべきである。

福島からの避難者が旅館の宿泊を断られたり、差別的な言葉をかけられたりした例も伝えられている。あってはならないことだ。

旧ソ連で25年前に起きたチェルノブイリ原発事故では、生活の崩壊や社会不安が周辺住民の健康に悪影響を及ぼした要因の一つと、IAEAなどが指摘している。

十分な情報公開と、住民との対話を通じ、政府が信頼を得ることが重要だ、とも勧告している。

この教訓を生かしたい。

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