ノーベル平和賞 オバマ「変革」への大きな期待

朝日新聞 2009年10月10日

ノーベル平和賞 オバマ変革への深い共感

核のない世界をめざす。地球温暖化問題に真正面から取り組む。単独行動主義はやめ、国際協調と対話でさまざまな問題にあたる。彼の発した「チェンジ」のメッセージが、それほどまでに世界の人々の心を揺さぶったということだろう。

ノーベル賞委員会は今年の平和賞に米国のバラク・オバマ大統領を選んだ。就任から1年もたたない政治指導者に贈られるのは極めて異例のこと。授賞理由のなかで委員会は、オバマ氏が「大統領として国際政治において新たな機運を作り出した」と、核廃絶構想をとくに評価した。

世界が直面する気候変動に果敢に挑むなかで、「建設的な役割を果たしている」とも評した。

粘り強い交渉で中東和平合意や、北朝鮮の核危機の回避をもたらしたカーター元米大統領に、平和賞が贈られたのは02年だった。地球温暖化問題で国際世論を盛り上げたアル・ゴア元米副大統領には07年に授与した。

いずれにも、当時のブッシュ政権への批判がこもっていた。

オバマ大統領への授与は、グローバル化が進み、国際協力なしに対応できない地球規模の問題が深刻化する世界での、米国の新たな指導力に期待を示したものと言えるだろう。

確かに、オバマ大統領の登場で国際社会の様相は大きく変わった。

9月には国連安全保障理事会で議長をつとめ、「核のない世界」を目指す決議を採択する立役者となった。米ロ間では、戦略核兵器削減に関する新条約が年内に締結される見込みだ。核実験した北朝鮮、核開発疑惑のあるイランとの対話による打開もさぐっている。地球温暖化では国連の枠組みのなかで対応する姿勢を強調してきた。

難題ばかりだ。どこまで成果に結びつくかは未知数な部分が大きい。アフガニスタン戦争も出口がなかなか見えない。ノーベル平和賞を受賞したからと言って、国際社会の複雑な利害対立が解けるわけでもない。

だが、それも承知で委員会は、オバマ流の国際政治こそ、初の授賞から108年の間ずっと後押ししようとしてきたものだ、とたたえている。

むろんオバマ大統領が無謬(むびゅう)であるはずもない。それでも、希代の指導者による挑戦を頓挫させることは、世界の公益に大きなマイナスとなる。

オバマ大統領は来月12日に日本を訪れ、鳩山首相と会談する。日米同盟は今や、日本や極東の安全保障だけでなく、地球規模問題への対応で力を合わせていく同盟である。

とくに、核廃絶に向けた戦略は日米の緊密な協力が欠かせない。オバマ大統領という「世界の資産」を最大限生かしていくためにも、首脳会談を大事にしたい。

読売新聞 2009年10月10日

ノーベル平和賞 オバマ「変革」への大きな期待

意外性があるだけに強い印象を与える授賞発表だ。今後の行動に大きな期待がかかる。

2009年度のノーベル平和賞は、オバマ米大統領に決まった。

平和賞を選考するノルウェーのノーベル賞委員会は、授賞理由について、国際的な外交と人々の間の協力関係を強化するために大統領が示してきた「比類なき努力」をあげた。

とくに、「核兵器のない世界」を目指す大統領の構想とその働きに、「特別の重要性を認める」と称賛した。大統領の下、米国が、核廃絶や軍縮、気候変動や人権など、国際的な課題に建設的な役割を果たしている、としている。

オバマ大統領は、唯一の超大国である米国の対外イメージを大きく変えた。それが、今回のノーベル賞決定の背景にある。

一国主義的行動をとりがちだったブッシュ前政権とは対照的に、国際協調外交を前面に掲げ、「チェンジ(変化、変革)」は可能だと呼びかける真摯(しんし)な態度が、米国の好感度を高めた。

世界経済危機、核拡散、地球温暖化、感染症など、世界が共有する難問の解決には、各国の連携はもちろん、それを束ねるための強力な指導力が不可欠である。

オバマ大統領への授賞には、混迷する世界の(かじ)取りを、共感しうるビジョンを持つ強い米国に託したい思いもこもっていよう。

現職大統領へのノーベル平和賞としては、2000年の金大中・韓国大統領に次ぐ。故金大統領の場合、民主化や南北首脳会談開催などの実績が評価された。

米国の現職大統領としては、日露戦争終結を仲介したセオドア・ルーズベルト、国際連盟の生みの親だったウッドロー・ウィルソンに次ぐ90年ぶりの受賞となる。

就任9か月のオバマ大統領の場合、期待が先行しているきらいがある。今後、いかに実のある成果を上げるかが重要な課題だ。

米国が最重視するアフガニスタン情勢は混迷を深める一方だ。タリバンが攻勢を強めるなか、今後の対応については、一層の増派か戦略の転換か、政府部内でも見解が割れている。

北朝鮮やイランの核問題も、まだ解決への具体的な成果は上がっていない。核実験全面禁止条約(CTBT)の批准など米国が率先して実行すべき問題も残る。

受賞を機に、オバマ大統領には平和実現へのさらなる努力を期待したい。同時に、各国指導者も協力しなければならない。

産経新聞 2009年10月10日

オバマ氏平和賞 評価に見合う成果が課題

ノルウェーのノーベル賞委員会はオバマ米大統領に今年のノーベル平和賞を授与すると発表した。「国際政治における協調外交に並外れた努力を重ねた」ことが授賞理由だという。

現職米大統領で平和賞を受賞したのはセオドア・ルーズベルト(1906年)、ウィルソン(1919年)に続き3人目だ。

オバマ氏は、4月にプラハで核廃絶を呼びかける演説を行った。また先月の国連安保理では首脳級会合の議長を自ら務め、「核なき世界」をめざす決議を主導するなどの取り組みが評価された。

委員会によれば、オバマ氏が「国際政治に新たな雰囲気を創出し、国連などの国際機構の役割を重視した国際協調外交を中心的地位に戻した」とされ、気候変動問題への積極的姿勢についても触れている。

ルーズベルト大統領は日露戦争終結の和平調停に果たした功績を評価され、ウィルソン大統領は第一次大戦後の国際連盟を提唱した功績が知られている。

この両氏の功績に比べると、オバマ氏が掲げた核廃絶・不拡散政策はまだ実質的成果を挙げているとは言いがたい。また地球温暖化でも、具体的政策というよりも世界最大の温室効果ガス排出国となった中国を巻き込んだ環境問題への国際ムード作りの貢献が評価されたようだ。

それにしても政権発足後まだ10カ月もたっていない段階で、平和賞を贈った委員会の判断に問題はなかったのだろうか。

今回の選考では、事前にジンバブエ首相、アフガニスタンの女性人権活動家、南米で人質解放交渉に尽力した国会議員らに加えて、中国の人権活動家の胡佳氏らの名前が下馬評で挙がっていたが、いずれも政治的な難しさが指摘されていた。

一方で、オバマ氏は中東和平の推進を唱えながら、大きな進展はない。アフガニスタン・パキスタンのテロとの戦いをめぐってきわめて厳しい情勢に直面している。また核廃絶・不拡散も、北朝鮮やイランの核問題の局面打開はできていない。

オバマ政権をめぐるこうした現実を見ると、「オバマ氏ほど世界の注目を引き、人々によりよき未来への希望を与えた指導者はいない」という委員会の評価に見合う成果を挙げていくのは容易なことではないだろう。

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