検察改革 提言示した道筋生かせ

朝日新聞 2011年04月05日

検察改革 刑事司法の将来像探れ

大阪地検特捜部の不祥事を機に設けられた「検察の在り方検討会議」の提言がまとまった。

注目された取り調べ過程の録画については、14人の委員の意見が割れ、最大公約数の表現に落ち着いた。不当な誘導などを防ぐため運用と法整備の両面から可視化の範囲を広げるべきだとしたが、私たちがかねて唱えてきた「全過程の録画」にまでは踏み込まなかった。

捜査への支障を心配する声は警察部内にも強く、即時実施はたしかに簡単でない。だが実現すべき目標として、もっと明確に位置づけて欲しかった。

よほど大きな動機づけや外からの力が働かないと、捜査側と弁護側が対立したまま何も変わらない。それが日本の刑事司法の歴史だ。「あの機会を逃したのが悔やまれる」と振り返ることのないよう、国民一人ひとりが引き続き関心を持ち、監視の目を向ける必要がある。

その意味で重要なのは、提言に盛られた「新たな刑事司法制度の構築」である。無理な取り調べをしなくても供述を引き出し、客観的な証拠を集められる仕組みを早急に整備する。そのための検討を「直ちに」始めるよう、提言は求めている。

「可視化の見返りに、武器としてどんな捜査手法を導入すれば均衡がとれるか」といった発想にとどまってはならない。時代にかない、国民の法感情や正義感に沿う刑事司法をどう描くか。大きな視点から議論を深める必要がある。検討メンバーの人選と姿勢に注目したい。

拙速は慎むべきだが、「のど元過ぎれば」でうやむやにしたり先延ばししたりするようでは信頼回復はおぼつかない。期限を切って結論をまとめ、まず一歩を踏み出す。その結果を見定め、手直しすべき点があれば手直しする。そんな勇気と柔軟な発想が求められよう。

今回、検討会議は検事約1300人の意識調査を行った。驚いたのは、約4分の1が「実際の供述とは異なる特定の方向で調書の作成を指示されたことがある」と答えたことだ。

別の証拠との矛盾を指摘され調べ直した例なども含まれるというが、検察が危機的状況にあるのを物語る数字だ。大阪の事件を個人の資質や力量の問題として済ませるわけにはいかないことを裏付けてもいる。

人事、教育、組織などの見直しに着実に取り組み、「公益の代表者」という検察官の使命・役割を組織の隅々にまで浸透させなければならない。

国民の視線を常に意識することから、再生の道は始まる。

毎日新聞 2011年04月03日

検察改革 提言示した道筋生かせ

法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」の提言がまとまった。大阪地検特捜部の証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件を受けて学者やジャーナリストら第三者が議論してきた。

提言は、「公益の代表者」としての検察官の使命や役割を強調した。独善的な風土を生んだ人事・教育システムの改革、捜査・公判でのチェック体制の強化策も具体的に示した。もっともな内容であり、示された道筋を速やかに実行すべきだ。

だが、委員たちの異なる意見をすり合わせて最大公約数を出したため、提言は肝心の点で踏み込みが足りないようにも映る。

最も注目された取り調べの可視化(録音・録画)については、全過程の録音・録画を主張する意見も強かったが、「より一層、その範囲を拡大するべきである」と、運用面の対応を促すにとどまった。

特捜事件の一部可視化が既に始まり、法務省も今夏、一般の事件を含めた可視化について考え方を示す。だが、ご都合主義的な録音・録画では、やはり冤罪(えんざい)の可能性を生む。

提言は、特捜事件の可視化の1年後の検証と公表を求めた。検証結果も参考に、法制化の段階ではさらに突っ込んだ検討を望みたい。

また、提言は、人権保障への配慮が二の次になったり、無実の者を処罰することへの恐れを失っていないかを、検察官は絶えず省みることが大切だとした。その上で、検察官倫理規定の明文化と公表を求めた。

最近では、厚生労働省元局長の村木厚子さんの公判で、不正発覚後も裁判が続けられた。また、強盗殺人罪で服役した被告2人の再審判決を5月に控える「布川事件」で、検察側は被告に有利な証拠を長年開示しなかった。もちろん、こうしたケースで倫理規定は有効だろう。

だが、検察官が逮捕や起訴など身体拘束を伴う強大な権限を持つだけに、訓示的な規定だけで足りるだろうか。米国では、検察官が被告に有利な新証拠を見つけた時、速やかに開示しなければ責任を問われて法曹資格を失うこともある。倫理規定に反したら懲戒処分の対象とするよう今後、再検討すべきだ。

検討会議は、供述調書偏重の風潮に根源的な問題があるとし、そこに依存した捜査・公判から脱却するための方策を話し合う専門家による新たな会議の設置を求めた。

裁判員制度導入で、刑事司法の仕組みが大きく転換した。捜査への協力を前提に刑の減軽を認める司法取引など、外国で採用されている仕組みの是非についても議論は避けられないだろう。日本の実情に照らし、どのような制度が望ましいのか、しっかり検討してもらいたい。

読売新聞 2011年04月05日

検察改革提言 外部の声生かし具体化進めよ

外部からの厳しい意見を真摯(しんし)に受け止め、検察が自ら改革を実行することが肝要である。

大阪地検特捜部の一連の不祥事を受けて設置された有識者らの「検察の在り方検討会議」が提言をまとめ、江田法相に手渡した。組織の在り方から捜査手法まで全般的な見直しを法務・検察当局に迫る内容だ。

無実の村木厚子・厚生労働省元局長を逮捕、起訴した郵便不正事件と、担当の元主任検事が検察に不利な証拠を改ざんし、上司が隠蔽したとされる事件は、検察の構造的な欠陥をあらわにした。

特捜部は、中央省庁の幹部の立件という「成果」を狙うあまり、「法と証拠に基づき真相を解明する」という使命を忘れ、供述の誘導など強引な捜査を重ねた。地検幹部や高検、最高検も、問題点に気づかないまま決裁していた。

検討会議がまず、チェック機能の強化を求めたのは当然だ。

閉鎖的な体質を改めるため、外部から助言を受ける体制を作ったり、取り調べに関する苦情を受け付ける監察部門を新設したり、といった案が示された。

起訴の権限を特捜部以外の検察官に委ねる案も含まれている。特捜部では捜査から起訴まで同一の検察官が行うため、証拠の評価が甘くなりがちだからだ。

検察はこれらを参考に組織の抜本改革を急がねばならない。

検察に何より期待されるのは、容疑者や被告の権利は守りつつ、事件を解決し、真犯人を法の裁きにかける「捜査力」である。

密室での取り調べの録音・録画(可視化)は、冤罪(えんざい)を防ぐ有効な手だてだ。ただ、捜査現場には、容疑者とのやりとりをすべてガラス張りにすれば、真実を聞き出せなくなるという懸念がある。

どの程度の可視化なら捜査に支障が生じないのか。これから始める特捜事件の可視化の試行で、検察は様々なケースを試し、検証してもらいたい。

供述調書を過度に重視する捜査や裁判の在り方も見直さねばならない。取り調べで供述を得ることにこだわらずとも、有罪立証を可能にする、新たな捜査手法なども検討する必要があるだろう。

例えば海外には、罪を認めれば刑を軽減する司法取引の制度があるが、日本の社会で受け入れ可能かという問題もあろう。

検討会議は、可視化に関する法整備とともに、こうした制度改革を議論する場を設けるよう提言している。国民の声を聞きながら、幅広い改革論議を進めたい。

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