新政府税調 政治主導の改革を貫け

朝日新聞 2009年10月08日

新政府税調 政治主導の改革を貫け

「税」は国民の参加費であり、国の運営の礎となっている。税がゆがめば経済全体がきしみ、国民生活に響く。その税制をつくる仕組みを鳩山政権が刷新しようとしている。

新しい「政府税制調査会」がきょう始動する。藤井裕久財務相が会長に就き、菅直人・副総理兼国家戦略担当相や原口一博総務相、各省の副大臣ら政治家だけで構成する。

自公政権の政府税調は学者や経済人など各界から委員が選ばれた。税のあり方を首相に提言する諮問機関だったからだ。官僚主導の場でもあった。

その一方、毎年度の税制改正案を決める実権を握っていたのは自民党税制調査会だった。「インナー」と呼ばれる少数の有力議員の集団がそれを事実上仕切ってきた。

民主党は、この複雑で分かりにくい税制決定のあり方を「権力の二重構造」と批判してきた。だから鳩山政権が税制づくりの責任を担う組織を政府税調に一本化し、より透明にしようとするのはうなずける。

税制論議や決定にあたって政治主導を貫くうえでも、効果を発揮することが期待できる。

その半面、減税など有利な扱いを求める業界などから、税調関係者への陳情や要請が活発になる事態も予想される。各界の声を聞くのは当然だが、万が一にも個別業界への利益誘導などがあってはならない。

経済も大転換期にある日本の行方を考えつつ、広い視野から税制のあり方を考えてほしい。

新税調は、来年の通常国会に提出する税制改正案づくりに追われることになる。民主党が政権公約に掲げた子ども手当の財源となる所得税の配偶者控除と扶養控除の廃止、中小企業の法人税減税などが課題だ。

とりわけ大きなテーマは、ガソリン税などの暫定税率の廃止だろう。民主党が生活支援策の一つとして唱え続けてきた目玉政策である。実施すれば2.5兆円の減税となる。

だがそこには大きな問題もある。税収が減るだけでなく、ガソリン需要を刺激して温暖化ガスの排出増加につながるという懸念だ。

あくまで暫定税率を廃止するというのなら、民主党がやはり検討を公約してきた「地球温暖化対策税」を近い将来に導入することとセットで考えるのが、合理的な選択ではないか。

税は公的サービスの貴重な財源だ。ほころびが目立つ社会保障を充実させ、主要国で最悪の財政を立て直すにも、消費税の増税を軸とする税制の抜本改革が避けて通れない。

実施は世界同時不況の克服後だが、今からその議論に取りかかることこそ未来に向けて鳩山政権と新税調が負うべき重大な責務にほかならない。

毎日新聞 2009年10月09日

新政府税調 「真の主役」の出番です

新しい政権下で新しい税制調査会が活動を開始した。税に関する鳩山政権の方針を決める場である。政権が公約を果たせるかどうかは、この新組織の力にかかっている。約束通り既得権益を一掃し、公平で、決定過程が分かりやすく、納税者に納得のいく税制へと変える「真の主役」の活躍に期待したい。

既得権益に切り込めるかどうかの試金石となるのが、租税特別措置の見直しだ。住宅ローン減税や企業の研究開発を促進するための減税など、特定の政策目的のため特別に課税の例外を認めたものだ。

ところが、いったん特別扱いを始めると、なかなか元に戻せないという問題があった。いまだに300種以上の特別措置が残っている。中にはガソリン税などの暫定税率のように増税になっているものもあるが、大半は非課税や減税といった、政府の収入減になるものだ。

特定業界に配慮した優遇は「隠れ補助金」との批判が根強かったが、税制の実権を握っていた自民党税調のもとで維持されてきた。民主党政権は与党税調を廃止して政府税調に一本化し、メンバーも有識者主体から、会長の財務相以下、大臣、副大臣らで構成する政治家主体へと抜本的に改めた。政策の決定過程が国民からも見えるようにするという。政官財の癒着を絶つうえで不可欠な枠組みは整いつつある。自民党政権下でできなかったしがらみの根絶を、具体的な形で表してほしい。

やる以上は、聖域なしの姿勢で臨むことが肝心だ。民主党は政権公約で「効果の不明なもの、役割を終えた租特は廃止し、真に必要なものは『特別措置』から『恒久措置』へ切り替える」としている。だが個別の審査を始めると、利益団体や省庁内からさまざまな抵抗があるだろう。優先順位を付け、あえて困難な選択ができるかどうかが試されている。

租特は自民党政権による継ぎはぎ政策の象徴だった。新政府税調には、長期的な視点、一貫性のある理念で税制を見直してもらいたい。

景気低迷の影響で税収はただでさえ大幅に落ち込んでいる。一方、高齢化の進行に伴い増加が避けられない社会保障費の財源確保、つまり増税の必要性が高まっている。国と地方の借金は合計で09年度末に800兆円を超える見通しだ。

もはや口当たりのよい減税や控除のオンパレードにだまされる国民ではない。ただし新税を導入するにしても増税を選択するにしても、公平さが確保され、国民が納得することが大前提だ。単なる数字の足し算、引き算ではなく、税を通じてどのような社会を実現したいのか、大きな構想を聞かせてほしい。

読売新聞 2009年10月09日

新政府税調 減税先行では財政がもたない

鳩山内閣の「政府・与党一元化」を象徴する組織が動き出した。自公政権時代の与党税調と政府税調を一体化した新政府税制調査会が、来年度改正の議論を始めた。

鳩山首相の指示通り、財政赤字を拡大させずに予算を編成するには、裏付けとなる税収を十分に手当てする必要がある。早急に本格的な議論に入り、財源確保の道筋を示さなければならない。

新税調の初会合で首相は、来年度改正の主要項目に加え、法人税、環境税、酒税・たばこ税、納税者番号制度など7項目について審議するよう諮問した。

いずれも税制の根幹にかかわる大きな改革だが、焦点となるのは個人所得課税の見直しだ。特に「給付つき税額控除」の検討を求めた点が注目されよう。

給付つき税額控除は、納税額が少なく、減税(税額控除)の恩恵が十分に及ばない低所得者に現金を給付し、収入を補う制度だ。欧米では幅広く導入され、自公政権も前向きに検討していた。

うまく制度設計ができれば、格差是正に役立とう。だが、公平に給付するには個人の所得を正確に把握する仕組みが不可欠だ。このため、納税者番号制度の導入が前提となる。

現在の失業手当や生活保護と、どう役割を分担するかも課題だ。最大4兆円とされる財源確保も容易ではない。腰を据えた議論が必要だろう。

来年度改正では、ガソリン税などの暫定税率の廃止、特定産業への「隠れ補助金」とされる租税特別措置の見直し、中小企業の法人税の軽減などが議題となる。

新税調は「特定業界への優遇税制は排する」として、300項目の租税特別措置を大幅に減らし、1兆円超の財源を捻出(ねんしゅつ)する方針だ。一定の見直しは必要だが、税制上の支援が要る業界もある。個別に十分精査してほしい。

一方で、暫定税率の廃止により2・5兆円もの税収を手放すのは理解できない。危機的な国の財政事情を考えれば、廃止を撤回すべきである。

子ども手当の財源となる配偶者控除、扶養控除の廃止についても具体的に検討してほしい。増税を先送りし減税策を並べるのでは、ポピュリズムの典型だろう。

首相の諮問には消費税率の引き上げは含まれていないが、新税調の幹部は「税制抜本改革の具体策づくりの中で、当然議論することになる」としている。逃げずに真正面から取り組むべきだ。

産経新聞 2009年10月09日

新政府税調 消費税の議論も忘れるな

鳩山由紀夫政権下の新しい政府税制調査会がスタートした。新税調が政治主導による税制改正プロセスの一元化を目指す以上、国民にとり真に必要な整合性ある税体系を構築せねばならない。

これまでの政府税調の役割は有識者が理論的にあるべき税制を議論するだけで、具体的改正の権限は与党税調が握ってきた。とくに「インナー」と呼ばれる少数議員の力は強く、首相でさえ口出しできなかったほどだ。

このため、税制は政治的利害に左右され整合性と体系的議論を欠く傾向が強かった。民主党はこれを「二重権力構造」と批判し、2つの税調を廃止して発足させたのが新政府税調である。

会長は藤井裕久財務相が兼ね、委員は各省庁の副大臣で構成する。内部に学者などによる専門家委員会も置く。これらがうまく機能すれば、税制改正は迅速化され整合的議論も期待できる。

だが、問題は中身である。新税調は来年度改正の主なテーマとして揮発油税などの暫定税率廃止、再来年度以降では所得税の配偶者控除と扶養控除の廃止、給付付き税額控除の導入を挙げている。いずれも簡単ではない。

暫定税率廃止による税収減は2・5兆円に上る。租税特別措置の見直しなどではとても足りない。先進国で最悪の財政を考えると、税率を維持し、将来、一部を環境税に組み替えるべきだろう。

配偶者控除廃止も子ども手当の財源の一部を確保するためとはいえ、専業主婦家庭との公平性が問題になる。

給付付き税額控除はもっと一筋縄ではいくまい。所得控除より分かりやすい利点はあるが、問題は納税していない低所得者に現金が給付される点だ。この制度を実施している欧米の多くには日本のような生活保護制度がない。子ども手当を含めて無制限に併用するとモラルハザードを招こう。

それを防ぐには納税者番号制度だけでなく社会保障給付を含めた全体所得を一元的に把握し、一定の給付資格水準を設けねばならない。でないと米英で問題になっている不正受給も防げない。

整合的な税財政という観点からは消費税の議論が欠かせない。鳩山政権の新規政策の財源確保はいまだに不明確で、税収不足だけが拡大していく。「消費税率4年間据え置き」だけでは、とても新税調の責任は果たせまい。

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