分厚い教科書 学習意欲高める指導が必要だ

毎日新聞 2011年03月31日

教科書検定 3・11をどう教えるか

新学習指導要領で来春から使われる中学校教科書の検定結果が公表された。かつてないほどの「国難」の中で新しい教科書の登場である。

だが、これには東日本大震災について記述はない。予定通り震災前に検定手続きが行われたからだ。

だが、間に合わなかったからといって、12年度から生徒たちが開く教科書が「3・11」を反映していないままなのは不自然だ。いや、間違いとさえいえるかもしれない。

検定後であっても更新が適切な事情変化や誤りが出た場合、教科書会社側から「訂正申請」をして内容を修正することができる。例えば、00年11月に表面化した「旧石器発掘捏造(ねつぞう)事件」では、教科書会社側が急いで訂正申請をした。

では、大津波が襲った今回の大震災や未曽有の原子力発電所災害はどうするか。一般に地震や原発などエネルギーについては、理科や社会科で取り上げている。この大災害を盛り込むかどうか、文部科学省は「教科書会社側からの申請次第」という姿勢だが、教科書会社側は災害規模のあまりの大きさ、問題の長期化などから迷っているという。

もっと積極的に踏み込むべきではないか。本が分厚くなり、内容が「ゆとり」教育に比べ豊富・多様になったといっても、今回の大震災抜きでは次代の教科書となりえない。それも、単に震災発生の事実だけを記述に盛り込んだり、年表に追記するだけでは足りないはずだ。

これは、私たちの社会の仕組みや生き方も変えるほどの大異変事である。そういう視点がまず必要ではないか。エネルギー、政治と危機管理、国と自治体、物流、精神的ケアなどテーマは挙げれば限りなくあり、これらを事細かに教科書に網羅することはできない。

しかし、これまでとは異なる新しい方向や手法を社会全体が模索し、実現を図る時に来ているということ。その意識が「3・11」から学ぶ第一歩というべきかもしれない。

新学習指導要領は全教科で言語活動、つまり表現や相互理解の力を養うことを主眼としており、これは今の状況にかなっている。支援、復興、再構築に円滑なコミュニケーションは不可欠だ。また国際社会から相次ぐ善意の支援やその申し出を見ても、新しい人や国の結びつきを感じさせ、学習の動機付けともなろう。

95年の阪神大震災は、防災教育、設備耐震化の機運だけではなく、社会とのつながりを重視する体験学習や、ボランティアに対する関心、意欲を高めた。今回のあまりに悲痛で、なお継続する大災害を、次代を担う人材育成にどう生かすか。学校教育は踏み出さなければならない。

読売新聞 2011年03月31日

分厚い教科書 学習意欲高める指導が必要だ

分厚くなった教科書をどう使いこなすか。先生の腕の見せ所である。子どもたちの学習意欲を呼び起こし、学力向上につなげてもらいたい。

文部科学省が、来春から中学校で使う教科書の検定結果を公表した。「ゆとり教育」への反省から学ぶ内容を大幅に増やした新学習指導要領に沿ったものだ。

ページ数が増え、2000年度検定時の教科書と比べ平均で36%増、指導要領の範囲を超える「発展的記述」が認められた04年度検定時と比べても25%増である。

生徒が消化不良にならぬよう、教え方に工夫が欠かせない。

教科書を手にとると、例えば理科では、実験や観察の記述が豊富になった。結果をリポートにまとめ、発表することも促している。生徒に関心を持たせるため、科学が実生活で利用されている様々な実例も紹介している。

つまずきを防ぐ工夫は各教科で見られる。新たな単元に入る前にこれまでに学んだ関連内容を振り返るとか、小学校の算数の計算を練習してみるといった具合だ。こうした反復学習に1割以上のページを割いた教科書もある。

その一方で、習熟の早い生徒が挑戦する、難易度の高い応用問題も載っている。

「成績が下位の子も上位の子も、それぞれに力を伸ばせる内容を目指した」と教科書会社は話す。

教師に求められるのは、教科書の中身を教える中で、生徒一人ひとりの理解度を把握し、それに応じてきめ細かく指導することだ。それには研修を重ねて、指導法を磨く必要がある。

新学習指導要領で主要教科の授業時間は1割以上増える。しっかり身につけさせるには、家庭学習も活用すべきだ。多くの教科書が自習用の練習問題を掲載している。保護者も協力してほしい。

社会の教科書で、竹島や尖閣諸島など、我が国の領土に関する記述が充実したのも特徴だ。

韓国に占拠されている竹島については領有権を巡る争いが日韓間に存在するが、日本が有効に支配する尖閣諸島については中国との間で領有権問題は存在しない、というのが日本政府の立場だ。

この違いが反映されていない記述などは、検定意見で修正を求められた。

昨年、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が起き、国民に衝撃を与えたばかりだ。日本の立場を国際社会できちんと主張できるよう、領土に関する正しい知識を教えたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/698/