福島原発事故 全世界が注視する日本の対処

朝日新聞 2011年04月01日

福島原発危機 世界から力を借りて

福島第一原子力発電所の事故に対する国際社会の支援がいよいよ本格的に動き出した。主要国首脳会議(G8)の議長国であるフランスのサルコジ大統領も来日した。

海外でも第一原発からとみられる放射性物質が検出され始めた。現場では、原子炉の制御を回復する作業を大量の汚染水が阻み、海水にも高濃度の放射性物質が漏れ出ている。

日本はこの危機に対処できていないのではないか、という不信感も生まれている。支援の機運が高まるのは、各国に危機感があるからだ。

事故の対応は長期戦の様相にある。政府や東京電力が受け入れに踏み出したのは当然だ。諸外国の知恵を借り、その好意を成果に結びつけたい。

軸になるのは、原子力のノウハウを蓄積している米国の協力だ。専門家による助言に加え、放射能汚染に対応できる米軍の専門部隊も派遣される。

とりわけ期待したいのが、危険な現場にいる作業員の仕事を肩代わりする技術だ。米国からの機材には、原発内で遠隔操作できるロボットが含まれる。

欧州の原発大国フランスからは大量の防護服や防護マスク、測定器が届き、汚染水処理の専門家も来日した。英国やドイツからも専門家派遣などの申し入れが届いている。

国際原子力機関(IAEA)も、住民避難とのからみで第一原発周辺の放射性物質の詳しい調査を政府に促している。

国際社会が敏感に反応する背景には、1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故がある。

当時、事故炉から出た放射性物質が欧州の広い地域に飛び散って、「地球被曝(ひばく)」とさえいわれた。その経験から、原発災害には一国では立ち向かえない、という認識が培われてきたのである。

今回は、国際社会が連携して原発の一大事に臨む最初の例となろう。

大事なことは、国外の支援を国内の人材や機材、ノウハウとうまく組み合わせることだ。

炉を落ち着かせ、放射性物質の放出を抑えるには何が求められ、どの国の技術や人材が最適かを見極める。場合によっては「こんなところに力を貸して」と要望してもいい。

外務省や東京電力はばらばらに対応するのではなく、首相官邸が司令塔となって専門家の意見を聴きながら判断することが大切だ。

国際社会の不信を解消するために的確な情報を発信することにも積極的でありたい。

毎日新聞 2011年04月01日

広がる国際支援 原発対応と復興の力に

東日本大震災、福島第1原発事故に対する国際的な支援の輪が広がっている。震災対応の支援を申し出たのは、134カ国・地域、39国際機関に上る。原発対応では原子力大国の米仏両国が中心である。世界の支援に心から感謝したい。

フランスのサルコジ大統領が来日し、菅直人首相と会談した。同国は今年の主要8カ国(G8)、主要20カ国・地域(G20)首脳会議の議長国である。大統領は、G8首脳会議などで原発の安全性を議題にすると同時に、国際原子力機関(IAEA)で安全基準のあり方について協議する考えを表明。また、事故や原子炉解体のための知識、ロボットの提供を申し出た。一方、フランスの原子力企業「アレバ」の最高経営責任者(CEO)が海江田万里経済産業相と会談し、協力を約束した。

原発事故の行方は世界の最大の関心事だ。最も手厚い支援を提供している米国は、原子力規制委員会(NRC)の専門家が日本側と協議を重ね、米軍も参加して、日本政府と事故に対応する四つのチームを編成した。米軍は放射能汚染の専門部隊派遣も決めた。英国、ドイツ、ロシア、中国なども機材提供を申し出ている。原発対策は長期化が予想される。米仏をはじめ各国の支援と知恵を集め、解決策を見いだしてほしい。

震災対応では、発生以来、20カ国・地域、3国際機関が被災地などに救助チームや専門家を派遣した。最も強力な支援態勢を敷いた米軍は、2万人、艦船20隻、航空機160機による「トモダチ作戦」を展開、人員・物資輸送に当たっている。

いち早く救助隊を送り込んだのは米国のほか、隣国の韓国、四川大地震を経験した中国、2月に大地震に見舞われたニュージーランドなどだった。ロシアも150人を超える救助チームを派遣した。先月29日にはイスラエルの医療支援チームが宮城県南三陸町の避難所に診療所を開設、今回の震災で初の海外医療団による活動が始まった。

支援の動きは各国国内でも広がっている。モンゴルでは、ある孤児院で孤児たちがチャリティーコンサートを開き、政府から支給された生活保護費1カ月分の全額を合わせ、約20万円の提供を申し出た。生活保護費の受け取りをためらう日本大使に、孤児院長は「孤児たちの強い希望だ」と語り、手渡したという。

多数の物資提供の申し出に対し、受け取りは29カ国・地域・機関にとどまっている。被災者のニーズと提供物資の突き合わせに時間がかかっているためだ。支援を無駄にしないため、作業の迅速化を求める。

世界から寄せられる温かい支援への感謝の心を、復興の力にしたい。

読売新聞 2011年04月01日

日仏首脳会談 原発大国の支援で危機克服を

東日本巨大地震による福島第一原子力発電所事故の対応について、フランスのサルコジ大統領が菅首相と会談し、国際社会が連携して日本を支援していくことを約束した。

5月に予定されている主要8か国首脳会議(G8)で、福島第一原発の事故を議題とすることでも一致した。

国際社会が日本の原発事故処理に注目している。原発大国フランスの協力も得て、最優先課題である原子炉の冷却機能回復に全力を挙げるべきだ。

大統領は今回、中国での国際会議の帰途、日本に立ち寄った。今年のG8と20か国・地域(G20)首脳会議の議長でもあり、大規模な地震、津波や原発事故への対応が、国際社会共通の課題だとアピールする狙いもある。

日本が震災対応に追われるこの時期に、あえて来日した背景には、福島第一原発の事故を依然として沈静化できない日本へのいらだちもあったのではないか。

フランスは、米国に次いで稼働原発が多く、総発電量の約8割を原発でまかなっている。大統領自ら中東やインドなどに自国製原子炉のトップセールスをかけるなど原発市場開拓にも熱心だ。

大統領は、会談後の記者会見で、原発推進に揺らぎはないことを強調し、原発の国際的な安全基準を年内にまとめる意向を明らかにした。福島第一原発の事故を機に、反原発の動きが世界的に高まることを懸念しているからだろう。

事故が深刻化すれば、原子力を柱とするフランスのエネルギー政策への影響も出かねない。

大統領は、「汚染地域で活動できるロボット」を提供したいとの意向も示した。危険な作業に取り組む現場の作業員の被曝(ひばく)問題対策に活用できるのではないか。

フランスからは原子力大手「アレバ」社の幹部や、汚染水処理の専門家チームが来日している。

同盟国である米国との間では、日米合同の連絡調整会議が発足し、米原子力規制委員会(NRC)の専門家もまじえたチームが事故の早期収拾策を検討している。

政府と東京電力は、緊密に連携をとることで、海外の支援を効果的に活用する必要がある。

菅首相が「世界の国々に、この経験を正確に伝えていくことが義務だ」と言う通り、原発事故の情報を正確かつ迅速に発信しなければならない。

世界の英知を結集して、危機を克服する手だてを、一刻も早く見つけてもらいたい。

朝日新聞 2011年03月31日

福島第一原発 長期戦支える人を守れ

津波被害で危うい状態にある福島第一原子力発電所の原子炉を落ち着かせる作業はますます難しく、そして長びく様相を見せている。

強い放射能を帯びた水が建物の地下などに大量にたまって作業の邪魔をする一方で、原子炉や核燃料の貯蔵プールを冷やすには、水を注ぎ続けるしかない。だが、注げばそれだけ汚染された水があふれ出す。

1~4号機の現場で、そんなバランスが必要なきわどい作業を根気よく続けながら、放射性物質が外に出るのを抑え込んでいく。それが目下の課題である。時間がかかることを覚悟しなければならない。

枝野幸男官房長官も「温度がある程度、安定的に下がるまでは相当な時間がかかる」と語った。

長丁場の闘いとなれば、この際、しっかり態勢を立て直すことが求められる。なにより忘れてならないのは、現場で働く人たちのことである。

その過酷な状況の詳しい様子が、今週になって原子力安全・保安院によって明らかにされた。

発電所の敷地内は高濃度の放射性物質が飛び散っているため、作業する人たちは外気の入らない特別の建物に集まり、床で毛布にくるまって雑魚寝している。食事は1日2回、朝は乾パンと野菜ジュース、夜も非常食のご飯と缶詰だ、という。

放射能レベルが高く、がれきも散らばる場所で危険に直面しながらの作業である。現場を離れた時くらいは休息を十分にとれるよう、東京電力と政府は手を打ってほしい。

それは、二次被害を防ぎ、原子炉を早く安定させることにもつながる。限度を超えた疲れは、作業ミスの引き金になりかねない。

今後、汚染水の移しかえなどの作業が増えれば、さらに人力が要る。多くの人に働いてもらうには、被曝(ひばく)線量を極力抑えることと、十分にリフレッシュできる環境を整えることは必須の条件である。

教育や訓練によって作業ができる人を増やすことを、早めに考えておく必要もあるだろう。

放射性物質が大気や海に出るのをできる限り抑えながら、効率的に作業を進めるための方策を編み出すことも、今後の重要な課題だ。それには、内外の知恵を総動員したい。

四つの原子炉施設で同時並行に、不安定状態の制圧をめざす、世界でも例のない難作業である。

国内の技術者や研究者はそれぞれの立場で持てる力を発揮してほしい。関連学会もシンクタンク役を果たすべきだ。米国をはじめ、原子力分野の経験が長い外国から支援もある。力をあわせて立ち向かいたい。

長い闘いは総力の闘いである。

読売新聞 2011年03月31日

福島原発廃炉へ まず冷却機能の回復を急げ

東京電力・福島第一原子力発電所の事故対応が長期化する中、清水正孝社長が一時的に職務を離れることになった。

残る経営陣は、事故の沈静化や計画停電の円滑な運営、今後の補償問題に全力で取り組まなければならない。

清水社長は、原発事故の処理で体調を崩し、今月16日から休みがちだったという。

その後、回復したものの、29日夕に再び体調が悪くなり、そのまま都内の病院に入院した。このため、勝俣恒久会長が当面、経営の指揮をとるという。

重大問題の進行中に経営トップが一時的にせよ、交代するのは好ましいことではあるまい。

経営の一線に戻った勝俣会長の責任は極めて重い。会長は記者会見で、福島第一原発1~4号機について、「廃止せざるを得ない」との見通しを示した。

原子炉などを冷却するため海水を注入した時点で、1~4号機の廃炉は避けられないとの見方が出ていた。それが明確になった。

福島第一の残りの2機、福島第二原発にある4機、柏崎刈羽原発で停止中の3機など、他の原発の運転再開も見通しがつかない。

東電経営陣は、今後の原発の在り方について、真剣に検討しなければならない。

勝俣会長は同じ会見で、最優先課題として福島第一原発1~4号機の冷却機能の回復を挙げた。

ただ、難題が立ちはだかる。高濃度の放射能に汚染された水が施設内で次々見つかったことだ。

東電は、この汚染水をポンプで()んで施設内のタンクにためているが、容量に限度があり、このままだとあふれる恐れがある。

タンクが満杯になった場合に備え、貯水池の掘削や大型タンカーでの貯蔵、汚染水の浄化施設の新設などの案が浮上している。

政府と東電は、具体的な方法を早急に決め、実行に移す必要がある。そのためにも、両者の信頼関係の修復が肝要だ。

事故の情報提供の遅れなどを巡り、政府側には東電に対する不信感が生じている。政府主導で東電内に統合対策本部が設置されたのも、いらだちの表れといえる。

東電側にも、現場の状況を無視するような指示が政府から出された、との不満がある。勝俣会長は政府との意思疎通をより密にし、事故を起こした原発の安定化に総力をあげるべきだ。

読売新聞 2011年03月29日

福島原発事故 全世界が注視する日本の対処

福島第一原子力発電所の事故は、日本だけの問題ではない。その対処の仕方に、世界の原子力平和利用の行方がかかっていると言えよう。

巨大地震と大津波という天災が直接的な原因とはいえ、安全性で世界最高水準と評された日本の原発が無残な姿をさらしている。

原子力は温室効果ガスを出さないクリーンエネルギーとして見直され、世界各地で原発の新規建設が活発化していた。「原子力ルネサンス」と呼ばれるその動きに、今回の事故は冷水を浴びせた。

欧州連合(EU)は域内すべての原発について、耐震性能などの安全点検を行うことを決めた。

原発17基が稼働するドイツは、1980年以前に建設した7基を3か月間の運転停止とした。

メルケル独政権は、前政権の「脱原発」政策を転換し、既存の原発の稼働期間を延長する政策を掲げていたが、その方針を再び転換する可能性も出てきた。27日の地方選挙では、「反原発」の世論を背景に環境政党が躍進した。

欧米諸国では、79年の米スリーマイル島、86年の旧ソ連・チェルノブイリの両原発事故でも原発の安全性へ不安が広がり、新規建設の停滞を余儀なくされた。

だが、エネルギー安全保障や地球温暖化対策の観点からも、原発は安全に管理する限り、電力供給で重要な位置を占め続けよう。

世界では、約30か国で原発が稼働中だ。建設中または計画中の国も含めれば四十数か国に上る。

世界最多の原発を保有する米国では、今回の事故で、新規建設凍結を求める声が議会から出た。しかし、オバマ大統領は、事故から「教訓を学ぶ」とし、原発建設推進の方針堅持を表明している。

米国の次に原発の多いフランスは、新規建設も、他国への原発売り込みも続ける方針だ。韓国も原発推進の姿勢を変えていない。

中国、インドなどの新興国を含む多くの国は、増大する自国のエネルギー需要を原発なしに満たすことができないのが実情だ。

原発の安全性を確立することが国際社会にとって急務である。

福島第一原発からの放射性物質の放出が長期に及べば、深刻な国際問題になりかねない。

日本は情報を各国と共有し、世界中の核専門家の協力を仰いで、迅速に事故を収拾しなければならない。それが、世界の原発推進国の信頼を保つ唯一の道である。

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