統一地方選へ 自治の役割かみしめて

朝日新聞 2011年03月22日

統一地方選へ 自治の役割かみしめて

まだ三十数万人が東日本大震災での避難生活を強いられるなか、4年に1度の統一地方選が始まる。

東京都など12知事選が24日に告示され、4月10日投票に向けて走り出すのを幕開きに、4月24日投票の市区町村長・議員選まで、1カ月間に全国の自治体で千近くの選挙がある。

だが、津波にのみ込まれたり、原発事故で多くの人が家を離れたりしているところでは選挙のやりようがない。そこで、政府は選挙を2カ月から半年、先送りする特例法をつくった。とくに被害の大きい岩手、宮城、福島各県を中心に適用されそうだ。

一部を延期するのは、16年前の阪神大震災で2カ月延ばして以来だ。

今回の被害は、より広範で甚大なので、国会では全国一律の先送り論もあった。未曽有の国難であり、すべての自治体が被災地支援に専念すべきだ。選挙運動で電気やガソリンを使っている場合ではない、といった理由だ。説得力はあったものの、退けられた。

一斉先送りを拒んだ片山善博総務相は国会で「選挙は民主主義の一番の基礎であり、有権者が権力を形づくる最も重要な作業なので優先して考えるべきだ」という趣旨の答弁をした。

まさしく正論であろう。しかし、この時期に舌戦が始まることへの違和感をぬぐえない人も多いのではないか。一刀両断とはいかない。

各地とも、いま選挙をすれば、どうしても危機管理や防災計画が焦点になるだろう。もちろんそれは重要な論点だけれど、地域それぞれの課題を広く深く考える好機のはずの選挙の意義が薄まりかねないのは残念だ。

こうした現状を踏まえた上で、今回の統一地方選にどう臨むべきか。

大震災は、行政が瞬時に崩壊する過酷な現実を見せつけた。最後に頼れるのは地域社会、人々のつながりなのだと、私たちは改めて思い知らされた。

いざという時ほど、住民同士の連携による自治の本領発揮が求められるということだ。住民が判断し、決めて、実行していく。こんな自治の役割を、被災していない多くの地域でもかみしめよう。

一方で、住民の自治の力だけではどうにもならない難題も数多い。具体的な支援策を政治に頼らざるを得ない現実がある。それなのに、被災地から届く声は国と地方の政治がいかにも頼りないと感じさせる。

その最も身近な地域の政治をつくるのが地方選挙だ。自分たちの一票一票で「頼れる地域社会」を実現できるかどうか。これが今回の統一地方選の共通課題になってきた。

私たち有権者とともに、自治の担い手になるのにふさわしい首長はだれか、議員はだれなのか。じっくり見極めるときだ。

毎日新聞 2011年03月25日

統一選始まる 選挙カー抜きで論戦を

統一地方選は24日、12都道県知事選の告示で幕を開けた。東日本大震災で20万人を超す住民が避難しており、岩手県知事選など被災3県の58地方選が延期された。多くの政党の党首が街頭での「第一声」を自粛するなど、異例の状況での選挙となる。

被災地に限らず、論戦をじっくり展開する雰囲気になりにくいのが実態かもしれない。だからといって、地域の将来を決めるリーダー選びがおざなりになってはならない。活発な論戦を期待したい。

都道府県と政令市の首長・議員選は4月10日、その他市区町村の首長・議員選は同24日が投票日だ。

焦点の東京都知事選は4選を目指す現職の石原慎太郎氏に新人候補が挑む。人口1300万人を擁する首都の顔を決める選挙だ。「石原都政」の評価はもちろん、防災対策、首都機能分散の是非など幅広い論点について議論をたたかわせてほしい。

特例法に基づき政府が延期を指定したのは津波で被災したり、原発事故で避難指示が出たり、被災地に隣接し支援に職員が忙殺されている自治体だ。岩手、宮城、福島3県以外で被災し延期を求める自治体もある。追加指定について、総務省は柔軟に対応することが望ましい。

大震災の直後だけに、防災や危機管理のあり方が争点化することが予想される。一方で地域活性化や議会改革などの議論を手控えるようなムードが広がることを危ぶむ。

選挙期間中の拡声機や選挙カーによる連呼自粛の動きも広がっているという。そもそもこうした手段は政策論争に不可欠でなかったはずだ。まだ告示していない選挙はネット活用など工夫のしどころでもある。

民主、自民など政党の足腰が試される局面であることも変わらない。

政権交代後初の統一選となるが、12知事選で民主党が独自に候補を擁立したのは北海道と三重県だけで、共産党などを除く事実上の与野党相乗り構図となったケースも目立つ。東京都知事選は新人候補を都議会民主党が支援するが、主体的に党が候補を擁立する姿勢は乏しかった。

名古屋市議選で躍進した「減税日本」、橋下徹・大阪府知事が代表を務める「大阪維新の会」など地域政党がどこまで支持を得られるかも焦点だ。道府県議選など民主党候補の動向次第では震災に対応を迫られる菅内閣の求心力に影響しよう。

防災は万全か、地域活性化の方向は正しいか、地方議会は誠実に取り組んでいるか……。大震災を経て住民はこれまで以上に地域の抱える課題に強い関心を抱いているはずだ。

候補者は臆せず論戦を展開すべきだ。そして有権者はその主張に耳を傾け、投票所に足を運んでほしい。

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