衆院定数格差 速やかに「2倍未満」に

朝日新聞 2011年03月24日

衆院定数判決 格差正し政治に信頼を

自分たちの代表として、どんな人を国会に送り込むか。そして、国民を守ることを最大の使命とする政府を、いかに確かで頼れる存在にするか。

東日本大震災は、民主主義社会の根幹ともいうべきこの問題を、私たちに改めて突きつけているように思う。

首相を指名し、法を定める役割を担う国会議員が適切に選ばれる。そのことが大切なのは、言うまでもない。

そこで長年問題となってきたのが一票の格差だ。政権交代が起きた先の衆院選でも最大2.30倍あった。これについて最高裁は「法の下の平等を定めた憲法の要求に反する」と判断した。

小選挙区割りを変更する時間がなかったとして「違憲」の手前の「違憲状態」との評価にとどめたものの、国会の事情を過度にくんできた最高裁が厳しく是正を迫ったことを評価したい。

判決は、格差をもたらす要因である「1人別枠方式」について、もはや合理性はないと断じた。中選挙区制からの移行期における過渡的な仕組みにすぎないという位置づけである。

1人別枠とは、小選挙区の300議席をまず都道府県に1議席ずつ割り当て、残りを人口に応じて配分する方式をいう。過疎地に住む人の声を国政に十分反映させるのが目的とされた。

この考えはどこまで説得力を持つだろうか。地元選出議員の数が減ることへの不安は分かる。しかし、カネや利権を持ってくることが地域振興につながる時代ではない。右肩上がりの経済が去り、議員には「地域の代表」ではなく「全国民の代表」として行動することが、従来以上に求められている。

1年半前、私たちは投票によって政権を交代させられることを身をもって知った。そして今、期待と現実との落差の前に、戸惑い悩んでいる。

国民自身が選んだ政権である。その「功」はもちろん「罪」も最終的には有権者一人ひとりが引き受ける覚悟を持つ。それが民主主義だ。

だがそのとき、住む地域によって一票の重みにばらつきがあると、どんなことになるだろう。「自分たちが選んだ」という感覚はそのぶん薄くなる。国民と代表との距離を遠くし、政治への不信を呼び起こしかねない。

震災の災禍はまだ続いている。現政権はもちろん、将来の幾代にもわたる政権、そして国会が再生と復興に取り組むことになるだろう。社会保障と財政のあり方など未解決の重要課題も数多い。この先、厳しく、苦い政治の判断が繰り返し必要になってくる。

国権の最高機関である国会の正統性に疑義がもたれ続けるようでは、そうした困難を乗り越えていくことは容易でない。判決の説くところを理解し、衆参両院のあり方を視野に入れた改革に正面から取り組む。それが国民の代表者の務めである。

毎日新聞 2011年03月24日

衆院定数格差 速やかに「2倍未満」に

国会は今度こそ待ったなしの対応を迫られた。

1票の格差が最大2・30倍となった09年8月の衆院選小選挙区の合憲性が争われた訴訟で、最高裁大法廷が判決を言い渡した。47都道府県に定数1ずつを割り振る「1人別枠方式」について「違憲状態にあった」と判断したのである。

94年の選挙制度改革で、中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に移行した際、「1人別枠方式」が導入された。人口の少ない過疎地が多い県に居住する国民の意思を国政に十分、反映させる狙いだった。

だが、最高裁は「議員は、全国民を代表して国政に関与することが要請されている。地域性の問題のために投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとは言い難い」との認識を示した。

ただし、選挙制度の変更当初は、国政の安定性、連続性の確保や、選挙制度改革実現のため、この方式を維持することにある程度の合理性はあったとした。

だが、選挙制度が変わって10年以上が経過した。もはやその合理性は失われたと結論づけた。

また、最高裁は「選挙区間の人口の最大格差が2倍未満になるよう区割りすることを基本とする」とした法律の区割り基準を合理的とし、「1人別枠方式」を、その基準が守れない主原因と位置づけた。

そして、「1人別枠方式」をできるだけ速やかに廃止し、区割り規定の改正など立法的措置を講ずることが必要だと踏み込んだ。

衆院の「1票の格差」について、最高裁はこれまで、おおむね「3倍未満」を合憲と判断してきた。

だが、今回は高裁段階で「違憲」や「違憲状態」の判決が相次ぎ、格差是正の動きが鈍い国会の対応への批判が強まっていた。

最高裁が衆院選を違憲状態と判断するのは、93年の大法廷判決以来で、現行選挙制度では初めてだ。

衆院小選挙区の定数是正は、02年の「5増5減」以降はない。一方、昨年の国勢調査の結果、試算では1票の格差は最大2・524倍に広がった。現在、衆議院議員選挙区画定審議会が、区割りの見直し作業を進めている。

だが、「1人別枠方式」の廃止は、立法措置が必要だ。国会は司法判断の重さを受け止め、廃止を前提に動き出すべきだ。定数削減問題も含め、選挙制度改革について早急に議論しなければならない。

1票の格差が最大4・86倍だった07年の参院選挙をめぐっても最高裁は09年、「投票価値に大きな不平等がある」と国会に是正を求めた。もはや、政党間の利害をぶつけ合っての定数是正先送りは許されない。

読売新聞 2011年03月24日

衆院1票の格差 「別枠方式」の廃止迫る最高裁

「1票の格差」を是正するための措置を早急に講じる必要がある――。立法府に対する最高裁の強い警告である。

議員1人当たりの有権者数の格差が最大2・30倍だった一昨年の衆院選は、法の下の平等を定めた憲法に違反していたかどうか。最高裁大法廷は、「違憲状態だった」と断じた。

1審の各高裁の判断は割れており、最高裁の判決が注目されていた。1994年に導入された現行の衆院小選挙区比例代表並立制における「1票の格差」について、最高裁が合憲以外の判断を示したのは初めてである。

最高裁が「違憲状態」の格差を生じさせている主要な要因に挙げたのが「1人別枠方式」だ。

この方式は、小選挙区の定数300のうち、まず47都道府県に1議席ずつを配分して、残りを人口比に応じて割り振る仕組みだ。これにより、すべての県に最低2議席は配分されることになる。

人口の少ない県への配慮から導入された方式だが、判決は、現行選挙制度が定着した現状では「合理性は失われた」として、「速やかな廃止」を求めた。

15人の裁判官のうち、12人の多数意見だった。2人は「違憲」と判断し、「合憲」としたのは1人だけだった。

遅々として進まない格差是正に対する司法の厳しい姿勢の表れと言えよう。

衆院議員は参院議員よりも任期が短く、任期途中の解散もある。判決は、こうした衆院の特性にも触れ、「常に的確に国民の意思を反映することが求められる。投票価値の平等についても厳格な要請がある」との考え方を示した。

各政党は、別枠方式を廃止するための立法措置を急がなければならない。

司法から格差是正を促されている事情は、参院も同じだ。

参院では、抜本的な格差是正を目指し、選挙制度そのものを見直す議論が始まっている。

だが、選挙制度は、衆参両院の役割や権能に関する議論を踏まえて、一体で見直すのが筋だ。

衆参とも現在は、選挙区選と比例選の組み合わせで似通った選挙制度を採っている。

たとえば、参院を西岡議長が提案するような、選挙区選を廃止してブロック単位の比例選に改めるなら、衆院は小選挙区制のみ、あるいは中選挙区制に戻すといった議論も可能になろう。

衆院は、選挙制度全体の改革にも積極的に取り組むべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/691/