官邸の危機管理 「複合事態」克服へ司令塔作れ

毎日新聞 2011年03月20日

危機管理と内閣 与野党総力態勢を築け

東日本大震災発生から8日を経て、政府・与党に態勢強化を探る動きが浮上した。菅直人首相は谷垣禎一自民党総裁に副総理兼震災担当相として入閣を要請したが、自民党はこれを拒否した。

原発事故への対処、被災地での救援活動に加え復旧・復興行政に政治が総力を結集する局面だ。通常の「大連立」と異なる危機管理として野党議員が時限的に入閣する方法などについて、与野党は引き続き接点を探るべきである。

大震災以前、菅内閣は政権の存続すら危ぶまれていた。未曽有の災害を経て政治休戦に入り、与野党がおおむね協調をこころがけている点は評価できる。

ただ、現在の国会は衆参両院の「ねじれ」状況を抱える。今回のような事態に際し、国会の構図が迅速な政策決定を妨げることは回避しなければならない。

こうした状況を受け、首相は谷垣氏に入閣を要請した。2大政党による事実上の大連立体制を構築することでねじれ状態を解消し、安定した体制で緊急の事態に対処する狙いからとみられる。岡田克也幹事長は閣僚を増員する法改正について野党に協力を求めていた。

議院内閣制の下で国会議員が政府に参加する場合、政党間の政策協定による連立合意が前提となる。自民党が谷垣氏入閣に難色を示すのもこうした理由からだろう。

だが、国の存亡にかかわる重大局面では強力な政策遂行能力が必要だ。時限的な危機管理としてであれば、柔軟に対処すべきではないか。

非常事態の際、最も重要なのは人材である。民主党は09年から政権を担うが、その運営に熟達しているとは言い難い。与党経験を持つ自民、公明などの議員をより積極活用すべきだ。首相が思いつきでなく真剣に態勢強化を考えているのなら、党首合意に基づき特例として野党議員が入閣する方法も探ってはどうか。

今後は大型補正予算案の編成も課題となる。国家百年の計となる復興プランを与野党一体で策定しなければならない。幅広い合意を踏まえた政策立案のため、震災復興に向けた正式な与野党協議機関の発足を急がねばならない。

一方で首相は19日、民主党の小沢一郎元代表ら代表経験者にも協力を要請した。この期に及んで党内で内輪もめをする愚を決して演じてはならないことは当然だ。

国会では来年度予算と関連法案の処理を急ぐ与党と「子ども手当」などに反対する自民党の対立がなお解けていない。それぞれの主張にこだわるあまり危機管理に支障を来してはならない。与野党が力を合わせる環境を早急に整備すべきである。

読売新聞 2011年03月20日

官邸の危機管理 「複合事態」克服へ司令塔作れ

政府の震災対応が後手後手に回っている。首相官邸の危機管理体制の立て直しが急務だ。

東日本巨大地震の特徴は、被害が広域なことだけではない。原子力発電所の事故、被災者の救助と生活支援、物流、電力不足、円高・株安など、危機が多岐にわたる「複合事態」になっていることだ。

政府は、これらの課題に同時並行で取り組む必要がある。だが、菅首相や枝野官房長官が、全部の課題を抱え込みながら、原発事故対策に追われ、他の課題に手が回らない悪循環に陥っている。

菅首相は、理系出身で原子力問題に詳しいとの自負もあり、原発対策に強い関心を示すが、具体的な成果は出ていない。枝野長官も、頻繁な記者会見への対応に精いっぱいで、震災対策を総合調整する本来の役割を果たせていない。

原発からの放射性物質の大規模拡散を防ぐのは無論、重要だ。一方で、被災者に食料や医薬品を届け、電力不足による経済・市民活動への悪影響を抑えることも、おろそかにすべきではない。

体制を立て直すには、課題ごとに司令塔を作り、指揮系統を明確にしたうえで、首相が統括する体制を確立することが肝要だ。

民主党代表代行の仙谷由人前官房長官を官房副長官に任命し、被災者の生活支援担当にした異例の人事は、遅ればせながら、体制の不備を認めたものと言える。

菅政権は、閣僚を3人増員する案を示すとともに、自民党の谷垣総裁に入閣を要請した。大連立による「救国内閣」を作るのが狙いだろう。国難と言うべき非常時だけに、十分理解できる。

自民党は、閣僚増員には賛成する方向だが、谷垣氏の入閣は「あまりにも唐突」として拒否した。党利党略に走らず、最大限の協力をするよう求めたい。

菅政権は、形ばかりの「政治主導」に固執するのもやめるべきだ。今の危機克服には政治家と官僚が一丸となることが欠かせない。

首相や閣僚は、まず官僚や専門家の意見に冷静に耳を傾け、巨大な官僚組織の能力を最大限引き出すことに心を砕くことが大切だ。官僚が「政治主導」を言い訳に積極的に仕事をしない状況こそ、避けねばならない。

首相が自ら東京電力本店に乗り込んだり、蓮舫行政刷新相に節電啓発担当を兼務させたりといったパフォーマンスはもう不要だ。

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