東日本を襲った巨大地震による災害に、新たな危機が加わった。
被災地にある東京電力の福島第一原子力発電所の1号機の原子炉を覆う建屋で、大きな爆発があった。コンクリートの外壁が吹き飛んだ。原子炉内では原子力燃料が高熱で溶ける炉心溶融の可能性も、伝えられている。
原発の建屋が爆発すること自体が、あってはならないことである。炉心溶融も同様だ。
今回、放射性物質が外部で検出されている。まず住民の健康を守ることを最優先に考えるべきである。
風向きにもよるが、放射性物質に触れることがないよう、そして、不安にかられることがないよう、政府は何より正確な情報を、とどこおりなく伝えなくてはならない。
政府は昨夜、住民に避難してもらう範囲を第一原発について半径10キロから20キロに拡大して避難を呼びかけた。
原発近くで住民の被曝(ひばく)もわかった。できる限りの支援をして、住民を安全な地域に移すことが急がれる。
懸命の対策にあたっている防護隊員や、消防などの皆さんの努力が、少しでも影響を小さくする結果に結びついてほしい。
爆発は午後3時半ごろにあった。
この爆発によって、原子炉を覆う格納容器が無事かどうかが重要だった。容器が破壊されると放射性物質が大量に外部に飛び散るからだ。
枝野幸男官房長官が、夜の会見で格納容器が残っていると明らかにしたのは、爆発から5時間後だった。
原発事故で何がおきたか確定するには時間がかかる。わかった時には、周辺住民の安全を確保する手立てが間に合わないかもしれない。
苦しいことだが、事態が不明なときこそ、最悪を想定して住民の安全を確保することが政府の務めである。
1号機には海水まで注入して冷却するが、福島原発全体の危険な状態にかわりない。今後、不明なことがおきたときは、住民や自治体が最善の行動をとれるように迅速な情報公開が求められる。
炉心溶融が続けば、1979年の米スリーマイル島事故と同様に深刻な事態だ。このときは原子炉が空だき状態になって炉心の燃料が溶けたが、格納容器の中にとどまった。
これより深刻な事故としては、運転中の原子炉が爆発して、大量の放射性物質をまき散らした1986年の旧ソ連のチェルノブイリ事故があった。
福島原発の危機を招いたのは、地震で原子炉が停止したあと、非常時に原子炉を冷やす緊急炉心冷却システムが使えなくなったのが一因だ。
想像もしなかったような大地震が起き、大津波に襲われることは、今回の大震災が示す通りだ。
全国のほかの原子力発電所でも、巨大地震がおきたときに、確実にこの緊急システムが働くことを再点検しておかなければならない。
原発危機だけではない。
地震と津波に襲われた被災地では、想像を絶する被害が明らかになってきた。全容はまだつかめない。
東北地方の太平洋岸の市街地が、ローラーで踏みつぶされたような惨状を見せている。がれきから火の手が上がり、鎮火のすべもなく燃え続ける。
かろうじて残った建造物を見ると、2、3階部分まで水が迫ったことがわかる。湾奥部で10メートルほどにもなった津波は、数キロも入り込んだようだ。
街は壊滅の様相だ。その中で建物の屋上などに逃げのびた人が大勢いる。
被害に立ちすくまず、孤立する人たちを一人でも多く見つけ出し、一刻も早く助けに行かなければならない。
避難場所の備蓄は十分ではない。電気も止まったままだ。高齢化が進む地域でもある。体の弱った人、病院に取り残された人が特に心配だ。
当座をしのぐ水と食料、医薬品、毛布がまず必要だ。そして弱った人から優先的に、安全な地域の避難所や医療機関に搬送する。
各地から自衛隊、警察、消防のヘリコプターや災害派遣医療チームが派遣された。懸命の救援作戦を続けるが、被災地の広がりに追いつかない。菅直人首相はきのう、自衛隊員を5万人以上にふやすことを決めた。
世界各国が、救援隊の派遣を申し出てくれている。感謝にたえない。ありがたく力を貸してもらおう。
私たちはこれまで体験したことのない規模の災害に向き合っている。その覚悟がいま、必要だ。
今後しばらくはマグニチュード6~7級の余震が続くとみられている。長野県北部を震度6強の揺れが襲う地震もあった。巨大地震が、他の地震を誘発した可能性も指摘されている。
津波の危険は去っていない。
警報が出ている間は海岸や河口部には近づかない。海の近くで揺れを感じたら高台へ、3階以上の丈夫な建物へ逃げて身を守ろう。
被災地で壊れた家を見に行く人の例も聞く。思いは分かるが、被害を広げかねない。危険は避けよう。
これから長い非常時が続く。
私たち自身の備えと、警戒と、そして救援とを、同時に進めねばならない試練の時である。
この記事へのコメントはありません。