中国全人代 政治改革は不可避だ

朝日新聞 2011年03月07日

中国全人代 民意ほほ笑む国造りを

中国は軍事費だけでなく経済力も米国に次ぐ位置を占めることになった。世界が気にせざるを得ないこの大国の行方を示す、年に1度の全国人民代表大会(全人代)が開かれている。

第12次5カ年計画を審議する節目の大会でもある。温家宝(ウェン・チアパオ)首相は5日の政府活動報告で、今後5年の間に「経済体制の改革を大いに推し進め、政治体制改革を積極的かつ着実に行う」と述べて、政治改革への意欲を示した。

「権力が極度に集中しながら制約されていない状況を是正する」とも温首相は語り、共産党体制の根本的な問題を指摘した。

しかし、政治改革で具体的な提起がほとんどなかったのは残念だ。

中国では、当局側が開発事業のため違法な土地収用をしたり、住民に立ち退きを強制したりすることが増えている。国民と当局の衝突事件は年に10万件ともいわれる。

高速鉄道網整備にすご腕を振るってきた鉄道相が収賄と伝えられる容疑で最近解任されるなど、幹部の腐敗はますます深刻になっている。幹部の家族が権力に便乗して暴利を得る例もこれまで以上に目立つ。

これらの不正は、貧富の格差拡大とともに、国民の大きな不満だ。しかし党の指導がすべてに優先するという体制が続く限り、権力は公正には監視されまい。

だから、ノーベル平和賞を受けた劉暁波氏らは弾圧されるのを覚悟のうえで、党の独裁に反対する「08憲章」を発表したのだった。各地で起きる衝突でも党への不満が訴えられる。

チュニジアのジャスミン革命にならい、中国語で「茉莉花(モーリーホア)革命」という活動も始まった。1党体制の打破や司法の独立などを求めて、インターネットなどで集会が呼びかけられている。

きのうの日曜日は約40の都市で集会が予定されたが、当局は当然のように厳しく取り締まった。集会どころか、散歩したり、ほほ笑んだりするのも許されなかったところもあったようだ。

全人代で要人が集まっている北京は制服と私服の警察官であふれ、警備車両があちこちに配置された。国防費だけでなく、治安維持費も急増していると実感させる光景だった。

厳しい取り締まりに加えて、経済成長で増える中間層は保守的なため、茉莉花革命は実際には起きない、との見方が中国では一般的だ。

しかし、経済の高度成長がずっと続く保証はない。一人っ子政策のため生産年齢人口の増加が鈍り、2015年ごろに減少に転じると見られる。

そもそもカネとモノだけを大切にするような社会は異常である。様々な民意が重んじられ、表現の自由が保たれるのが豊かな社会だ。世界第2の大国に、ぜひそうなってもらいたい。

毎日新聞 2011年03月06日

中国全人代 政治改革は不可避だ

中国の温家宝首相が5日、全国人民代表大会で「政府活動報告」を行い、今年の施政方針を明らかにした。

中国では来年の共産党大会と再来年の全人代を通じて胡錦濤国家主席や温首相らが引退し、習近平国家副主席らの次世代政権に移行する。中国を世界第2の経済大国に導いた胡温体制にとって、今年の温首相報告はその総括である。

温首相は、高度成長がもたらしたひずみや格差是正の調整期に入ったことを訴えた。

中国の「社会主義市場経済」は共産党政府の高官と一部の資本家が結託した「特殊権益集団」が、市場の富を吸い上げるシステムである。「太子党」と言われる高官の子弟はその核心だ。だから貧富の格差が生まれるのは当然なのだ。格差を調整するには、特殊権益集団の既得権を抑えなくてはならない。だがそれを実行する官僚が既得権益層にいる。言うはやすく実行は難しい。

全人代の直前、中国の経済成長を象徴する事件が起きた。高速鉄道建設をめぐる汚職だ。鉄道相と、「中国高速鉄道の父」と言われた副技師長兼運輸局長が摘発された。

中国大陸を縦貫し、横断する高速鉄道の開通は、中国発展のシンボルとなっている。日本やドイツなどから導入した新幹線車両を中国で独自に「改良」し、時速350キロという世界一の高速で走らせている。その技術を海外に輸出して日本など本家を脅かしている。

だが、恐ろしいことが明らかになってきた。前鉄道相らは工事のリベートで巨額の蓄財をしただけではない。自分の業績を大きく見せるため短期間にむやみに路線を延ばし、技術力のない下請け会社をかき集めて突貫工事を命じた。線路の地盤沈下や、資材横流しによる高架橋の手抜き工事などが起きている。

ドイツ人監督は計画全体の見直しを求めたが拒否され辞職した。ある高速鉄道幹部は「怖いので乗らない」という。前鉄道相は、建設資金のために債券を発行した。鉄道省の負債総額は少なめに見ても1980億ドル(約15兆8400億円)という、信じられないような数字が報じられている。

胡主席は、早くから「調和社会の建設」を目指したが、世界不況とぶつかり景気回復を優先させざるをえなかった。その副作用がいま公害、インフレ、住宅難、土地収用紛争などの形で噴出している。高速鉄道は一例にすぎない。

政策調整を実行するには、特殊権益集団を監視する仕組みが必要だ。政治改革による民主化である。首相報告が絵に描いた餅になればどうなるか。エジプト型デモを最も恐れているのは中国指導部だろう。

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