リビア争乱 民主化勢力への支援を今

朝日新聞 2011年03月02日

リビア争乱 民主化勢力への支援を今

リビアのカダフィ大佐は国民を相手に戦争しているというほかない。

軍の大半も外交団も離反して民主化勢力につき、大佐が押さえているのは首都トリポリの一部に過ぎない。

なのに、大佐の出身部族が指揮する治安部隊と外国人傭兵(ようへい)を使って、民主化を求めるデモ隊に銃撃する。

市民の死傷者は数千人に上るとされる。恐ろしい事態である。

国連安全保障理事会は、大佐の資産凍結や武器禁輸などを盛り込んだ制裁決議を全会一致で採択した。

カダフィ体制との強い関係にあったロシアや中国も賛成に回り、国際社会が団結したことを評価したい。

しかし、大佐はそれに耳を傾けるそぶりを見せず、徹底抗戦を叫ぶ。

追い詰められた権力者の凶行をやめさせ、国民の流血を止めるために、国際社会は何ができるだろうか。一部で外国軍の介入を求める声が出ている。しかし、問題は簡単ではない。

紛争地や強権体制に対する国連や欧米による軍事介入は、1990年代にソマリアやセルビアに対して前例がある。しかしソマリアでは失敗し、セルビアでも多くの民間人が巻き添えになった。

「独裁からの国民の解放」を掲げて米英が行ったイラク戦争がどれほど大きな混乱を生んだかは記憶に新しい。

国際社会による直接の軍事介入は禍根を残すことになりかねない。カダフィ体制との戦いはリビア国民の手にゆだねるしかない。

すでに反体制派が国土の大半を押さえ、東部の第2の都市ベンガジで暫定政権づくりや市民による国民評議会結成の動きが始まった。

国際社会はリビアの再出発を助けるために、医療や食糧をはじめとする緊急の人道支援と民生援助を始めるべきである。

特に民主化の支援は重要だ。

リビアは歴史的に国としてのまとまりがなく、部族が勢力を張ってきた。42年前にカダフィ大佐が率いた軍事クーデターで生まれた現体制の下で、近代国家として始まったはずだった。

しかし、大佐が「人民主権の直接民主主義」としてつくりあげた「ジャマヒリヤ」体制は憲法も、議会も政党もなく、大佐の個人独裁になった。

カダフィ体制は清算しなければならない。しかし、体制が崩壊したために生じる秩序や治安の混乱を修復するために、軍や部族が各地で支配する状況になれば、国は分裂し、本来の民主化の動きとも逆行する。

民主派が押さえた地域に展開し、警察活動と人道、民主化支援をする国連平和維持活動(PKO)を、国際社会は今後検討することになるだろう。

体制崩壊を待つのではなく、今から支援と準備を始める必要がある。

毎日新聞 2011年03月05日

リビア情勢 軍事介入はまだ早い

リビアに対する飛行禁止空域の設定が検討課題になっている。90年代にフセイン政権のイラクやボスニア・ヘルツェゴビナに対して科された懲罰措置が約20年ぶりに浮上してきた。リビア情勢が険悪化の一途をたどっていることの反映だろう。

確かにカダフィ政権のやり方は目に余る。国連安保理は先月、対リビア制裁決議を採択した。武器禁輸やカダフィ大佐一族の国外渡航禁止、海外資産凍結などを決め、無差別的な暴力が「人道に対する罪」に当たる疑いがあるとして国際刑事裁判所(ICC)への付託も盛り込んだ。

しかし、リビア情勢はなかなか改善されない。風前のともしびと思われたカダフィ政権が巻き返している印象もある。リビア上空をカダフィ政権の航空機が飛べないようにする措置が欧米で検討されるようになったのも無理はなかろう。

空軍力を縛らないとカダフィ政権がなりふり構わぬ攻撃を続け、さらに多くの血が流される。あるいは、カダフィ派と反カダフィ派とでリビアが二つの国に分裂しかねない。その間にイスラム過激派がリビアに流入することも懸念材料だ。

しかし、現時点での飛行禁止措置は逆効果になる恐れもある。20年前のイラク空域封鎖は、湾岸戦争によってイラクの対空防衛網がすでに破壊されていた。そのために米軍機などが比較的容易に封鎖空域をパトロールすることができた。

リビアに飛行禁止空域を設定する場合は、巡視する航空機が地上から攻撃されぬよう、あらかじめリビア軍の対空ミサイルなどを無力化すべきだという声もある。具体的には北大西洋条約機構(NATO)による事前の軍事行動が検討課題になってくる。これは高いハードルだ。

そもそも反政府勢力の中にも米欧の介入に反対する声がある。飛行禁止空域を通じて米欧の軍事介入が明瞭になれば、政変が起きたチュニジア、エジプトにも反米感情が高まり、大きな揺り返しが予想されよう。

オバマ大統領は3日、初めてカダフィ氏名指しで退陣を呼び掛けた。それが最良の解決法であるのは自明だが、産油国リビアで同氏が最高権力者の座に固執し、ますます多くの市民が殺され、原油価格が高騰した場合、国際社会はどう対応するか。

軍事介入の可能性を頭から否定することはできない。このままではリビア情勢はきな臭さを増すばかりだろう。しかし、まずは欧米やアラブ・アフリカ諸国などが協力してリビアとのチャンネルを探り、カダフィ氏の退陣を根回しすることが大切だ。40年以上リビアに君臨してきたカダフィ氏も、国民全体の幸せのために身の振り方を考えるべきだ。

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