公取の合併審査 国際性重視し機動的な判断を

毎日新聞 2011年03月04日

企業結合審査 独禁法の原点も大切に

企業結合に対する審査について公正取引委員会が見直しを行うことになった。合併や経営統合に関する審査の際の負担を減らしてほしいという企業側の求めに沿って簡略化を図るという。

経済活動のグローバル化が進む中で国境を超えた企業の淘汰(とうた)が進んでいる。資源分野で特に顕著で、鉄鋼生産に使う鉄鉱石や原料炭では、新興国の需要拡大も加わり、資源メジャーと呼ばれる巨大企業が価格交渉を優位に進めている。

一方、半導体や液晶パネルといったエレクトロニクス分野では、韓国企業の攻勢を受け日本企業は苦戦しており、自動車でも同様の事態が懸念されている。

資源メジャーとの価格交渉能力を高めなければならないし、世界的な市場獲得競争に互角に渡り合っていけるだけの体力を備える必要もある。そんな日本企業を取り巻く状況を背景に多過ぎる企業を集約し、国内競争で疲弊している現状を改善すべきだという考えが広がっている。

バブル崩壊後、日本では長期にわたり経済の低迷が続いた。その間に世界のビジネス環境は大きく変化している。それに対応するには、時間を買うという意味合いも含め日本企業にとって、M&A(企業の合併・買収)が大きな意味を持っている。

企業結合審査について公取委が柔軟に対応し、日本企業の活性化につながることを期待したい。

ただ、鉄鉱石や石炭などの上流部門の権益獲得で出遅れたり、積極的な投資を怠り韓国企業の先行を許してしまったのは、経営者の判断ミスによるところも大きいはずだ。日本企業の競争力の低下を、公取委と大きく関連付けてとらえるような風潮は、問題の核心をはぐらかすことにつながりはしないだろうか。

また、日本企業の競争力強化は必要なこととはいえ、消費者の利益が犠牲になるようでは本末転倒だ。

企業結合に際して、業界を所管する大臣との協議を盛り込んだ産業活力再生法の改正案について、公取委は「ユーザーや消費者が不利益を被らないか、という観点から判断していく点は変わらない」と説明している。

所管大臣との協議は審査の途中で行うものではなく、独禁法に抵触するか否かについては、公取委が独自に判断するというのも、当然のことだろう。

長期化や提出資料が膨大になるなど、企業結合審査について企業側は問題点を指摘している。消費者やユーザーの利益という独禁法の原点が前提となるが、激しく変わる競争環境に日本企業が柔軟に対応できるよう、公取委の積極的な取り組みを期待したい。

読売新聞 2011年03月01日

公取の合併審査 国際性重視し機動的な判断を

日本企業が国際競争力を高めるには「攻め」の再編が避けられない。

公正取引委員会が独占禁止法に基づいて行う企業の合併審査も、グローバル経済の潮流を念頭に置いた大局的な判断が必要だ。

試金石となるのが、来年10月の合併を目指す新日本製鉄と住友金属工業に対する審査である。

粗鋼生産量で世界2位となる合併新会社は、個別の製品によっては国内で圧倒的な占有率を持つ。独禁法に抵触しないか、公取委が審査することになっている。

しかし、巨大なライバルがひしめく国際市場でのシェアは低い。公取委が国内への影響にこだわるあまり、世界に()していける新会社の誕生を妨げるようなことがあれば、角を矯めて牛を殺すことになりかねない。

日本では多くの企業が国内に乱立し、過当競争で体力をすり減らしている。鉄鋼の大型合併は、そうした状況を変えるきっかけとなる。他業界にも大規模な再編を促す効果が期待されよう。公取委は、それを忘れてはならない。

今回の合併審査では、まず、これまで審査に時間がかかり過ぎてきた点を改めてもらいたい。

企業が合併審査を申請する場合、法定審査に先立ち、任意で事前相談制度を活用することが認められている。公取委の感触を得られる利点はあるものの、膨大な資料や説明が求められ、1年以上かかることはざらだ。

米国では昨秋、航空大手2社が合併し、世界最大の航空会社が誕生した。計画発表から合併承認まで4か月あまりで済んでいる。

合併が認められるかどうかの見極めがつかなければ、企業は当初の想定通りに再編計画を進められまい。新日鉄と住友金属は今回、事前相談を経ず法定審査一本に絞る方針だが、公取委は速やかに審査を進めるべきである。

審査の透明性向上も課題だ。担当官によって判断が分かれ、根拠が十分に説明されなかったケースが大半だ。反論の機会もない。こうした不満が産業界には強い。

顧客やライバル企業からの意見聴取がほとんど行われていないという問題点も指摘されている。他業界も注目する審査だけに、公取委の国際的な視野と説明責任が、これまで以上に問われよう。

入札談合などに比べ、合併審査に投入される人員は手薄だ。今後は、業種や国境を超えた再編が加速し、審査も一段と難しくなる。経済や企業法務に通じた人材の育成や配置などが必要である。

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