予算案衆院通過 関連法案を政争の具にするな

朝日新聞 2011年03月02日

予算案通過 修正こそ民意に応える道

政府の新年度予算案が、きのう未明に衆院を通過した。これにより、野党が多数を占める参院で否決されたとしても、憲法の規定で予算は成立する。

しかし、赤字国債の発行を認める法律などは参院で可決するめどが立たないため、採決を先送りした。財源を手当てできるかどうかわからないまま、予算案だけ参院に送ったことになる。

この不正常な事態を解消するのは与野党双方の責任である。予算案の修正を協議し、ぜひ合意してもらいたい。

衆院通過に先立ち、野党側は予算案の組み替えを求める動議を提出した。

自民党の動議は、子ども手当などの目玉政策の撤回や、公務員人件費の削減を財源とし、公共事業に1.4兆円を充てる。予算の総額は92.4兆円から89.3兆円に圧縮するとしている。

政府案との隔たりは大きいが、接点を探ることは可能だろう。優先課題は何かを問い直し、理念は大切にしつつ具体策は柔軟に手直しする。政府・与党は、そんな姿勢で臨んでほしい。

日本が立ち向かわなければならない最大の課題は、少子高齢化である。働く世代が減り、支えられる世代が増えていく。社会保障のほころびはもちろん、経済の停滞も、財政の悪化も、そこに起因するところが小さくない。

であれば、子どもを産みやすい社会をつくり、育ちを支援することが最優先ではないか。民主党は「チルドレンファースト」(子ども第一)という理念まで降ろす必要はない。

自民党案では、子ども手当の代わりに児童手当を復活・拡充するが、子どもへの支援の総額は大きく減る。それを公共事業に振り向けることが、日本の立て直しに役立つとは思えない。

一方で、子ども手当が、子どもを支援する最善の策だとも限るまい。

児童手当のように、豊かな世帯には支給しない仕組みにしてはどうか。手当よりも保育所などのサービス拡充に力を入れるべきだ――。そうした主張には耳を傾けても良いのではないか。

他にも、野党の主張に理のあるものがある。たとえば高速道路無料化は優先課題には当たるまい。それらを撤回し、予算の総額を圧縮してはどうか。

予算案の修正に、政権交代時代の新たな政治の作法として積極的な意義を見いだしたい。与野党が知恵を出し、よりよい案を練り上げる。それは国会が本来の機能を果たすことである。

民主党政権の思うがままにはさせない――。有権者は昨年の参院選でそんな判断を示した。マニフェストの固守より、与野党の話し合いと歩み寄りを求めたと解するべきだろう。

やむなく妥協するのではない。修正こそが民意に応える道なのだと考えるべきではないか。野党の協力を得られないなら、与党が自ら修正するくらいの腹づもりがあっていい。

読売新聞 2011年03月02日

予算案衆院通過 関連法案を政争の具にするな

来年度予算案が衆院を通過した。

参院が否決したり、30日以上採決せず放置したりした場合でも、憲法の規定から衆院の議決が優先するため、年度内の成立が確定した。

しかし、予算執行に必要な関連法案は、成立のめどが立っていない。国民生活に多大な影響が及ぶ事態を避けるため、与野党は互いに歩み寄る必要があろう。

予算関連法案で最も重要なのが赤字国債の発行を可能にする特例公債法案だ。

これが成立しないと、予算案で見込む歳入92・4兆円のうち40兆円余の穴があく。当面の税収や6兆円の建設国債などでやり繰りするのも、夏までが限界だろう。

懸念されるのは市場の反応だ。政府が必要な財源を確保できなくなったとみなされ、国債の信認が一気に失われる恐れがある。

国債が市場で売られ長期金利が上昇すれば、国債の利払い費が増え財政は一層苦しくなる。住宅ローン金利の上昇にもつながる。

このほか、輸入品にかかる税金を割り引く関税定率法改正案が通らなければ、4月以降、牛肉など415品目の関税が上がり、消費者や企業にしわ寄せがいく。税制改正関連法案が不成立なら、法人税の5%減税もできなくなる。

与野党双方とも、予算関連法案が成立しない場合の影響をもっと深刻に受け止めるべきだ。

政府・与党からは、関連法案への反対姿勢を変えない野党を批判する発言が目立っている。不成立の際の責任を野党に押しつける布石を打っているとしたら、不見識だ。政府・与党が今なすべきは、与野党協調の環境作りである。

自民党の予算組み替え案も42・5兆円の国債発行を盛り込んでいる。その範囲に収まるよう、子ども手当などのバラマキ施策を見直せば、自民党も特例公債法案に反対しにくいはずだ。

政府・与党が相応の譲歩を示してなお、自民党が衆院解散を迫るなら、今度は自民党が「政局ありきの反対」と批判される番だ。

予算案の採決では、民主党からの会派離脱を求めている衆院議員16人が本会議を欠席した。

与党議員としての責任放棄であり、統制が取れない民主党を象徴する事態だ。執行部は1人を党員資格停止、残り15人を厳重注意としたが、こんな甘い処分では、さらなる造反を招きかねない。

菅首相は腹をくくって、衆院選政権公約の大胆な修正に一刻も早く踏み切るしかない。

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