朝日新聞 2011年03月05日
予備校生逮捕 若者の失敗、どうみる
京都大などの入試問題が試験中にネットに投稿された問題で、仙台市の男子予備校生が逮捕された。偽計業務妨害容疑である。
カンニングは、一緒に勉強してきた多くの仲間を裏切る行いだ。社会的影響も大きかった。ただ、日本ではカンニング行為そのものを罰する法律もない。まだ19歳。処分は慎重に判断すべきだろう。
予備校生は「携帯を股の間に隠して操作した」と話しているという。捕まってみれば、器用だが幼い手口にも思える。世間の大騒動との落差に、ネット社会の今が浮かびあがるようだ。
入試を離れれば、どこの大学も頭を痛めているのが、学生が出すリポート類のコピペ対策だ。都合よいデータをネットからかき集め、引用元も示さず切り貼り(コピー&ペースト)する。考察部分まで他人のを借用し、悪びれない学生が増えている。
覚えていなくても、考え悩まなくても、検索すれば15秒ほどで見つかる。手軽に、即座に、何でも、答えをネットから拾う風潮が広がっている。
ネットに参加する人の間で情報を交換し、知識を共有する。そんな「集合知」の営みも盛んだ。今回使われたヤフー知恵袋や、ウィキペディアは、その代表例だろう。だが、ネット情報には「正しさ」が必ずしも確立していない。現に予備校生の質問への回答は、正解ばかりではなかった。
子どものときから情報端末を手にする機会は増えている。ネットや携帯を利用する際のルールやモラルから、きちんと身につけさせる必要がある。
ネットにはどれだけ頼ってよいか。自分で考えること、自力でなすべきことはなにか。あふれる情報から何を疑い、何を取捨選択し、自分の考えにどう生かしてゆくか。そうした「情報リテラシー」は、これからの学校教育の大きな柱になる。
ネットは匿名社会だと思われがちだが、不正を働けば痕跡をたどることはできる。予備校生も、わずか数日で特定された。ハンドルネームで覆面をしていても、ネットに参加する者には責任が求められるのだということも、社会で共有してゆきたい。
各大学や文部科学省は不正受験をどう防ぐか、対策の強化を急いでいる。カンニングを見抜けなかった大学が、監督態勢を厳しく再点検すべきなのは言うまでもない。
他方、大学が最初にこの問題をつかんだ段階で、「不心得者よ、名乗り出よ」と呼びかけるような手立てはなかったか。今思うと、ネットの進化についてゆけない大人社会が、過剰に反応した面はないだろうか。
冷静に考えよう。ネットや携帯のなかった昔から、若者はときにとんでもない失敗をしでかすものだから。
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毎日新聞 2011年03月04日
入試投稿逮捕 情報倫理教育の徹底を
大学入試問題のネット質問掲示板投稿事件は、仙台の予備校生(19)が偽計業務妨害容疑で京都府警に逮捕され、捜査は急展開した。
予備校生は問題が投稿された京都大学などを実際に受験しており、このサイトから答えを得るため試験会場から送信していたとみられる。
「1人でやった。合格したかった。すごく反省している」などと供述しているというが、なお不明な点も少なくない。
監督者や他受験生がいる会場で果たしてどのようにしたら可能なのか、共謀者や教唆者はいなかったのかなど、詳細に詰める必要がある。
あきれたカンニングではすまない問題をはらんでいる。同時広範囲に多くの人々に情報をさらすネットを悪用した影響は大きい。今回の事件発覚後、多くの受験生たちはまじめな努力をあざけるような不正だと憤ったが、こうした不信感の広がりは軽視できない。
行為には幼稚さが漂う。掲示板への投稿は不特定多数の人々の目にこれをさらすことになり、発覚するのは時間の問題だ。
また匿名でも、サーバーへの接続記録など機器使用の「足跡」が残り、所有者らは絞られる。
こうした一種の幼稚さと結果の重大性の落差は若者の事件にしばしば見られるところだが、今回の事件でもそれはいえよう。
今回の不正発覚を受けて、各大学では携帯電話の持ち込みチェックに力を入れている。大学受験生たちが携帯電話の一つ一つを調べられている光景はつらいものがある。
国立大学協会の幹部が「受験生を見たら泥棒と思え、というわけにはいかない」と苦渋の表情で語っていたが、それは大学人に共通した思いだろう。
再発防止のために監督体制の強化や携帯持ち込み厳禁など手だてを講じるのは当然としても、自治・自律・真理探究が大学の根本理念であり、その重要な第一歩である入学者選抜に「不信」のベールがかかっては青雲の意気にも影が差そう。
それ以前の段階の学校教育の中で子供たちに電子機器やネットの不正利用、情報の悪用などを強く退ける心をはぐくむことが肝要だ。
「速くて簡単。今の子供たちは便利な公式ですぐ答えを出したがる傾向がある」とは小学校の先生の指摘だ。こうした性向も背景にあるかもしれない。試行錯誤しながら答えに至る過程の楽しさを子供たちにじっくり教えたい。
またどこでも持ち込め、生活全般に便利なツールである携帯電話については、公共のルールやマナー、節度を考える機会ともしたい。
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読売新聞 2011年03月04日
予備校生逮捕 入試不正解明し対策に生かせ
京都大など4大学の入試問題がインターネット掲示板「ヤフー知恵袋」に流出した事件で、警察当局は、19歳の男子予備校生を偽計業務妨害の疑いで逮捕した。
予備校生は調べに対し、「自分一人でやった」「合格したかった」などと話しているという。
試験中、監視員の目を盗み、携帯電話からどうやって試験問題を投稿し、寄せられた回答を見ていたのか。なぜネット利用の不正を思いついたのか。警察当局には、詳しい経緯や動機について解明を進めてもらいたい。
ヤフー知恵袋は、質問を投稿すると短時間に複数の回答が寄せられるサイトで、手軽さが人気を呼んでいる。予備校生も以前から利用していたとみられる。
予備校生は、インターネットや携帯電話の使い方に習熟した世代だ。学力不足を補うためにネットの世界に頼ったのだろうが、まじめに試験と取り組む他の受験生の努力を踏みにじる行為である。
公正であるべき大学入試制度を根幹から揺るがしかねない。
ただ、こうしたカンニング行為自体を罰する法律はない。このため、今回は、人をだますなど不正な行為で業務を妨害した場合に適用される刑法の偽計業務妨害罪で捜査が行われている。
大事なのは、今回の事件を教訓にして、実効性のある再発防止策を講じていくことだ。
これまでも各大学は、試験中は携帯電話の電源を切り、かばんにしまうよう受験生に指示するなどの対応をとってきた。しかし、今回のようなネットを駆使した不正は想定外だったろう。
京大などの事件を受け、大学の中には、試験中に携帯を預かったり、電源を切った携帯を机上に置かせたりするところも出てきた。監視の目が届くよう試験会場を小教室に変更する大学もある。
教室内に妨害電波を出すことで携帯電話を使えなくする通信抑止装置も注目されている。
2004年に大学入試で携帯電話を使った集団カンニング事件が起きた韓国では、その後、試験会場への携帯電話やデジタルカメラの持ち込みが禁止された。不正が発覚した場合、受験資格停止などの制裁も科される。
再発を防ぐには、こうした事例も参考になるのではないか。
情報機器を悪用した入試不正は今後も起きうる。文部科学省は、その前提に立って、幅広い分野の専門家から意見を聞くなど、対策を検討すべきである。
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