パキスタン 南アジアの安定に協力を

朝日新聞 2011年02月24日

パキスタン 南アジアの安定に協力を

パキスタンは、隣国アフガニスタンとともにテロとの戦いで最前線に立つ国だ。核不拡散条約(NPT)に入らずに核武装した国でもある。

世界の安全に大きな影響を及ぼすこの国からザルダリ大統領が来日し、菅直人首相と両国間の貿易・投資活動を強化することなどで合意した。

アフガンのイスラム反政府勢力はパキスタンとの国境地帯を往来し、拠点にしている。2014年をめどに治安権限を現地側に引き渡す米国のアフガン戦略を円滑に実施するためにも、パキスタンの安定は欠かせない。

しかし、現状はそれにほど遠い。08年の金融危機後に苦境が続く経済は、昨年夏の大洪水でさらに打撃を受けた。国内のイスラム過激勢力によるテロが続発し、治安も悪化が続く。

菅首相にザルダリ氏は、テロの背景にある貧困の撲滅に意欲を示した。日本側は、インフラ整備や経済改革を後押しする方針を伝えた。だが、この国には国際社会から受ける巨額の支援の多くが本来の目的に回らず、腐敗を助長してきたとの批判も根強い。支援の実施に厳しい検証が必要だ。

パキスタンの核戦力の問題もある。

米ニューヨーク・タイムズ紙は最近、パキスタンがこの2年間で配備核兵器を60~90発から95~110発にまで増やし、さらに40~100発分の兵器用核物質を生産したとの、米情報機関などの分析を報じた。

近く英国を抜き米、ロシア、中国、仏に次ぐ核大国になるとの見立てさえある。パキスタン側は報道を否定するが、実態は秘密に閉ざされている。

ザルダリ氏は今回、菅首相に原子力協力協定の交渉入りを促した。NPTに未加盟のまま核武装したインドと、日本が進める協定の締結交渉をにらんだ動きだ。協力が進めば、インドはそこで生まれる余力を核兵器開発に振り向けるとの不信感が背景にある。

もちろん、核関連技術・物質の管理に不安が残るパキスタンと協定を結ぶわけにはいかない。ただ、インドと協定の交渉を進めればパキスタンも同様な要求を出すのでは、との懸念が現実化したことを忘れるべきでない。

南アジアでの核軍拡を防ぎ、中国も含めたアジア全体の核軍縮・不拡散外交を進めることが不可欠だ。インドとの交渉では、核実験の停止を協定に盛り込むべきだ。それを足場にアジアで新たな核軍備管理の道を模索したい。

そのためにもインドとパキスタンの関係改善は欠かせない。両国は今月、対話を2年ぶりに再開することで合意した。日本は米国とともに両国関係の改善を強く求めたい。そうした信頼醸成外交の先に、パキスタンの反対が主な原因で停滞する兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉開始への糸口が見えてくる。

読売新聞 2011年02月27日

パキスタン 「反テロ」「反核」で協力深化を

テロとの戦いや核拡散防止の取り組みで、日本は積極的な役割を担わなければならない。パキスタンとの関係強化は、そのために重要である。

2年ぶりに来日したパキスタンのザルダリ大統領が菅首相と会談し、経済や安全保障の協力拡大をうたった共同声明に署名した。

パキスタンは、アフガニスタンと隣り合う要衝の地にあり、アフガンとの国境付近には、国際テロ組織アル・カーイダやイスラム武装勢力タリバンの兵士らが多数潜伏しているとされる。

核拡散防止条約(NPT)に入らず核兵器を開発した、イスラム圏で唯一の核保有国でもある。

パキスタン国内が不安定になれば、たちまち国際社会に核やテロの脅威が拡散しかねない。

日本が、2年前のパキスタン支援国会合で10億ドル(約820億円)の支援を表明したのも、経済的なてこ入れを通じて、パキスタンの安定を図る狙いがあった。

パキスタンは現在、内政、外交とも問題を抱え込んでいる。

国内では、昨年末の連立与党の一部離反騒ぎに続き、今年1月には与党の州知事が暗殺された。政情は依然、落ち着かない。

外交面では、米国人のパキスタン人射殺事件などをめぐって米国と対立している。米国はパキスタン、アフガンとの3か国外相会談を延期した。米パ関係の悪化はイスラム過激派の思うつぼだ。

ザルダリ大統領は、菅首相との共同声明で約束した経済改革とテロ対策の推進を実行し、国内の安定化に努めてもらいたい。日本も側面支援を続ける必要がある。

一方、核問題に関して、菅首相は共同声明で、北朝鮮によるウラン濃縮計画に対する「重大な懸念」を表明した。

パキスタンの核科学者が関与した「核の闇市場」が発覚して、北朝鮮との核協力の一端が明らかになっている。懸念表明は、そのような事情を踏まえたものだ。

ザルダリ大統領は菅首相との会談では、インドと同様の原子力協定の締結交渉を求めた。

確かに、インドもNPTの枠外で核兵器を開発したが、核拡散はしないという信頼を国際社会で得て、原発用の燃料供給などの国際協力を受けるようになった。

パキスタンの場合、最近、核弾頭数を倍増させたとみられ、核兵器の原料となる核物質の生産を禁じるカットオフ条約の交渉開始も阻むなど、むしろ逆の動きを見せている。核拡散防止と核軍縮に自ら取り組むことが先決である。

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