テロとの戦いや核拡散防止の取り組みで、日本は積極的な役割を担わなければならない。パキスタンとの関係強化は、そのために重要である。
2年ぶりに来日したパキスタンのザルダリ大統領が菅首相と会談し、経済や安全保障の協力拡大をうたった共同声明に署名した。
パキスタンは、アフガニスタンと隣り合う要衝の地にあり、アフガンとの国境付近には、国際テロ組織アル・カーイダやイスラム武装勢力タリバンの兵士らが多数潜伏しているとされる。
核拡散防止条約(NPT)に入らず核兵器を開発した、イスラム圏で唯一の核保有国でもある。
パキスタン国内が不安定になれば、たちまち国際社会に核やテロの脅威が拡散しかねない。
日本が、2年前のパキスタン支援国会合で10億ドル(約820億円)の支援を表明したのも、経済的なてこ入れを通じて、パキスタンの安定を図る狙いがあった。
パキスタンは現在、内政、外交とも問題を抱え込んでいる。
国内では、昨年末の連立与党の一部離反騒ぎに続き、今年1月には与党の州知事が暗殺された。政情は依然、落ち着かない。
外交面では、米国人のパキスタン人射殺事件などをめぐって米国と対立している。米国はパキスタン、アフガンとの3か国外相会談を延期した。米パ関係の悪化はイスラム過激派の思うつぼだ。
ザルダリ大統領は、菅首相との共同声明で約束した経済改革とテロ対策の推進を実行し、国内の安定化に努めてもらいたい。日本も側面支援を続ける必要がある。
一方、核問題に関して、菅首相は共同声明で、北朝鮮によるウラン濃縮計画に対する「重大な懸念」を表明した。
パキスタンの核科学者が関与した「核の闇市場」が発覚して、北朝鮮との核協力の一端が明らかになっている。懸念表明は、そのような事情を踏まえたものだ。
ザルダリ大統領は菅首相との会談では、インドと同様の原子力協定の締結交渉を求めた。
確かに、インドもNPTの枠外で核兵器を開発したが、核拡散はしないという信頼を国際社会で得て、原発用の燃料供給などの国際協力を受けるようになった。
パキスタンの場合、最近、核弾頭数を倍増させたとみられ、核兵器の原料となる核物質の生産を禁じるカットオフ条約の交渉開始も阻むなど、むしろ逆の動きを見せている。核拡散防止と核軍縮に自ら取り組むことが先決である。
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