致死的な肺炎を起こす副作用の可能性を製薬会社は警告し、注意喚起を図るべきだった――。
肺がんの治療薬「イレッサ」の副作用で死亡した患者の遺族らが損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は製薬会社「アストラゼネカ」に賠償を命じる判決を言い渡した。
その一方で、イレッサを承認した国の対応については、「著しく不合理とは言えない」として賠償責任を否定した。
副作用死が相次ぐことを予想するのは難しく、対応に著しい誤りはなかったとの判断からだ。
大阪地裁は、1月に示した和解勧告の所見で、国にも被害者の救済責任があるとしていた。
それだけに、原告にとっては、今回の判決に納得できない部分もあるだろう。
世界に先駆けてイレッサが日本で承認された2002年当時、ア社は、副作用が少ないことをホームページなどで強調する一方、間質性肺炎を発症する危険性は公表していなかった。
発売時の添付文書でも、間質性肺炎は「重大な副作用」欄の4番目に記載されているだけで、「致死的」という説明もなかった。
判決は、「注意喚起が図られないまま販売されたイレッサには、製造物責任法上の欠陥があった」と断じている。
イレッサは、医師や患者の間では、副作用の少ない「夢の新薬」との期待が広がっていた。
判決が指摘するように、イレッサは化学療法の知識・経験が乏しい医師も使用する可能性があった。しかも患者が自宅で服用できる飲み薬のため、副作用への警戒が薄いまま広く用いられた。
そうした状況であったのなら、ア社はなおさら、詳しい副作用情報を提供すべきだったろう。
抗がん剤の多くは、副作用を伴う。製薬会社には、新薬の長所ばかりでなく、負の情報である副作用についても、医師や患者に十分に開示する責任がある。そう指摘した判決は、製薬業界への重い警鐘となろう。
判決は国の対応に“お墨付き”を与えたものではない。副作用情報の記載に関する厚生労働省の行政指導については、「必ずしも万全な規制権限を行使したとは言い難い」と批判している。
重い病と闘う患者は最先端の薬の登場を待ち望んでいる。
安全性をおろそかにすることなく、いかに迅速な新薬承認を実現するか。イレッサの教訓を生かさなくてはならない。
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