毎日新聞 2011年02月22日
リビア情勢 「密室」下の弾圧やめよ
激しい民衆運動が中東各地で続いている。北アフリカでも、ペルシャ湾岸でも。特にリビア情勢は重大局面を迎えたようだ。最高指導者カダフィ大佐の次男であり後継者と目されるセイフ・アルイスラム氏が国営テレビで演説し、リビアは「内戦の危機」にあると語った。リビア第2の都市ベンガジは反政府派の支配下に置かれ、首都トリポリでも反政府運動が広がっているという。
セイフ氏の危機感に満ちた演説の真意は不明だが、今後は抗議行動を内戦とみなし、市民であろうと容赦なく攻撃するという含みがあるなら言語道断である。国際人権団体によると、16日からの反政府デモの死者は230人を超えた。政権側は死者を84人としているが、犠牲者が多いことに変わりはない。死者数はその後も増えているだろう。
強権的な取り締まりであるのは明らかだ。そもそもリビアは入国・報道規制が厳しく、何が起きているのか見えにくい。リビア当局は密室のような状況を改め、外国メディアの取材を広く認めるべきだ。
リビアは、先に政変が起きたチュニジアとエジプトに挟まれ、地形的に反政府運動が波及しやすい。しかもエジプトのムバラク前大統領の在任が約30年だったのに対し、カダフィ大佐は69年の実権掌握以来、もう40年以上君臨している。石油資源がある割にリビアの庶民生活は苦しく、30%ともされる失業率はエジプトより悪い。石油収入はもっぱら政権支持派を潤してきたという。
それにカダフィ大佐の人気も衰える一方とあっては、政変飛び火の条件はそろっていたと言うべきだ。80年代には米国から「中東の狂犬」と呼ばれた大佐は、90年代になると対米批判を控え、次第におとなしくなった。米英が88年の米パンナム機爆破事件についてリビアの関与を指摘し、91年の対イラク戦争(湾岸戦争)に続いてリビア攻撃の可能性をちらつかせたからだろう。
米ブッシュ政権が大量破壊兵器を理由にイラク戦争に打って出た03年、リビアは大量破壊兵器計画の廃棄を宣言して米国を喜ばせた。06年には米国がリビアに対する「テロ支援国」指定を解除した。しかし、カダフィ氏の対米姿勢の転換が国民の疑問を呼び、他方ではカダフィ一族への富の集中も顕著になって、人心はさらに離れることになった。
カダフィ大佐は、52年にエジプト革命を起こしたナセル大佐(後に大統領)のアラブ民族主義の信奉者だった。しかし、今の大佐はナセルのような信望を集める人物ではない。「英雄」たらんと強権を振るうのではなく、これ以上民衆の血を流さない方策を考えるべきである。
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読売新聞 2011年02月24日
リビア騒乱 産油国に及んだ独裁打倒の波
また一人、民意を汲み取れない独裁者の命運が尽きようとしている。
最高指導者カダフィ氏が41年に及ぶ独裁を続けてきた北アフリカのリビアで、退陣を求める反体制派が掌握地域を広げている。
軍や警官隊の一部も合流したデモ隊は武装し、内戦の様相も呈し始めた。側近の法相、公安相が離反し、抗議の辞任をする外交官も相次いでいる。政権崩壊は時間の問題とみられる。
カダフィ氏は、「最後の血の一滴が尽きるまで戦う。天安門事件のようにたたきつぶす」と、1989年の中国の民主化運動鎮圧を引き合いに出し、容赦なく弾圧すると宣言した。
デモの群衆に治安部隊や外国人傭兵が無差別発砲し、軍用機での攻撃まで加えている。虐殺以外の何物でもない。強く非難する。
厳しい情報統制のために実情把握は困難だが、死者は800人を超えたとされる。流血の惨事をこれ以上重ねてはならない。
国連安全保障理事会は、デモ隊への攻撃を即時停止するよう求める声明を発表した。アラブ連盟もカダフィ政権の対応を非難し、会議への参加禁止措置をとった。
弾圧が続けば、国際社会は制裁を科す必要もあろう。
カダフィ政権は、豊富な石油収入を使った補助金で日用生活品の価格を低く抑え、国民の歓心を買ったが、他のアラブ諸国同様、貧富の格差や高い若年失業率を改善しようとしなかった。
何より、体制への不満を口にするだけで投獄・処刑される恐怖政治に、国民の我慢も限界を超えたのだろう。チュニジア、エジプトという両隣の国で起きた政変が、蜂起を後押ししたとも言える。
リビアは石油の確認埋蔵量が世界8位の産油国である。進出している欧州の石油企業の一部は、治安悪化を理由に操業を停止した。中東産ドバイ原油の取引価格も、石油生産が落ち込む懸念から、1バレル=100ドルを突破した。
リビアの混乱が長期化すれば、国際経済への悪影響は避けられない。日本も打撃を免れない。
リビアは民主主義を経験していない。クーデターで王制を倒したカダフィ氏は代議制を否定し、伝統的な部族社会を背景にした直接民主主義を掲げたが、実態は政府も国会もない個人支配だった。
独裁が終わっても、その後の国造りは困難を極めるだろう。
独裁体制が倒れたアラブの国々で新たな秩序は樹立できるのか。真の試練はこれからである。
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