相撲界組織改革 八百長根絶が前提だ

朝日新聞 2011年02月20日

角界の改革 八百長の解明と両輪で

八百長問題で屋台骨が大きく揺らぐ日本相撲協会が、組織改革へ向けた提言を受けた。

外部有識者による「ガバナンス(組織統治)の整備に関する独立委員会」が協会に出した。その答申は、これまで角界が「常識」としてきたことを覆すものばかりだ。

現在12人いる理事は力士出身が10人を占めるが、約半数を学識経験者など外部から登用する。部屋数は50から30程度に削減した上で、協会組織の一部とし、運営を師匠に委託する契約を結ぶ。時に億単位で売買される年寄名跡は金銭授受を伴う譲渡を禁じる――。

独立委は昨夏、野球賭博問題を受けて発足した。委員会は、協会が目指す新公益法人への移行に向けて、これだけは満たしておかねば公益認定は難しい、という点に切り込んだ。

求めたのは、不祥事の連鎖を生んできた角界の閉鎖的な構造の変革と、協会の機能強化だ。

協会が伝統芸能とスポーツの要素を兼ね備える「国技」として大相撲を存続させたいなら、7カ月に及ぶ議論の末にまとめられた改革案は、どれも急いで検討すべき課題ばかりだ。

だが、放駒理事長の腰は重い。

「いま起こっていることを片づけてから」と、八百長問題の解明を優先する考えを示した。公益法人への移行を検討する内部委員会の作業は、問題発覚後に凍結したままだ。

土俵の根幹を揺るがす八百長禍に不退転の決意で臨む思いは理解できる。だが、ほかのことは後でいいとは思えない。

答申は現在の協会が「任務を行うのにふさわしい組織かどうか疑問」と断じた。そこまで言われて、聞かぬふりのような先送りでいいのか。

独立委の奥島孝康座長は「八百長問題は協会の体質が生み出したもの。改革を進めれば問題は起きない」と言い、組織強化こそが根本的対策だと位置づけて、早急な対応を求めている。

力士らに直接関わる部屋制度などの問題は、協会員が率先して話し合っていけるはずだ。

年寄名跡の扱いなど「既得権益」を守りたい思いで改革に後ろ向きな親方がまだいるようだが、いつまで内向きの論理にしがみつくのだろうか。

力士暴行死事件などの不祥事が起きるたび、協会は「部屋と師匠の問題」として組織的な対応を怠ってきた。

答申は、厳しく疑問を投げかけている。八百長問題の事後処理に忙殺されるあまり、最も重要な組織改革を後回しにしている。過去の不祥事からいったい何を学んできたのか――と。

このまま先送りが続けば、今でも相撲を楽しみにしてくれているファンが今度こそ離れて行くかも知れない。

改革に水入りはない。

毎日新聞 2011年02月20日

相撲界組織改革 八百長根絶が前提だ

大相撲が野球賭博事件で大揺れしていた昨年7月、日本相撲協会の改革を目指して設置された「ガバナンス(組織の統治)の整備に関する独立委員会」(奥島孝康座長)が17日、協会改革案を答申した。

A4判で50ページ近くに及ぶ答申書につけられたタイトルは「日本相撲協会の公益法人化へ向けての改善策」。2年後の11月に申請期限が迫った新しい公益法人制度への移行をにらみ、認可に不可欠な組織改革を盛り込んだ。

協会のあり方については従来の協会の「常識」にとらわれず、公益法人としてあるべき組織図を描き出した。相撲部屋の師匠と協会理事の兼任を禁じ、理事会、評議員会のメンバーの半数前後を外部の有識者とするなど大幅な組織改革を求めた。現在50ある相撲部屋を30程度に削減することも提案している。また、年寄名跡がしばしば高額な金銭で売り買いされていることについては「公益法人としてふさわしくない」と切り捨て、売買の禁止を強く求めた。

大幅に既得権益の縮小を迫られる相撲部屋の親方衆にとって、簡単には受け入れ難い部分も少なくないと予想される。だが、協会が公益法人格の取得に失敗すると、両国国技館の土地、建物をはじめ協会が保有する財産の放棄を迫られる。

外部の有識者で作る独立委員会が新公益法人への移行という「錦の御旗(みはた)」を掲げ、協会に全面的な組織改革を求めたという印象が強い。このところ相次いだ大相撲を取り巻く不祥事が、協会に対してより厳しい要求を突き付ける背景になったことは間違いないが、読みようによっては「こうすれば大相撲は生き残ることができる」という愛情あふれる処方箋とも受けとれる。

ただし今回の答申の原案が「八百長メール」の発覚前にまとめられたため、八百長相撲問題には言及していない。八百長相撲は大相撲の根幹を揺るがす不正行為だ。八百長相撲に対する厳罰規定を作り、その徹底的な排除と具体的な再発防止策を協会が示さない限り、相撲協会の「公益法人化」は絵空事に終わる。

いうまでもなく大相撲は日本国民共有の文化財であり財産である。常人離れした厳しい稽古(けいこ)で心と肉体を鍛え上げ、土俵上で技を駆使して相手に立ち向かう。その姿が日本人の心を打ち、守るべき日本の伝統として大相撲を愛し、支えてきた。

一握りの力士出身者が協会を切り盛りし、外部の声を遮断している間に八百長相撲が巣くってしまった。大相撲も時代の要請に応える組織に変わらなければ生き残ることはできない。それこそが全国の相撲ファンの期待に応える唯一の道だ。

読売新聞 2011年02月18日

大相撲改革 「八百長は厳罰」の規定を作れ

昨年の野球賭博事件を機に、外部有識者らで組織された独立委員会が日本相撲協会の組織改革案をまとめた。

大相撲の信頼回復には協会組織の抜本改革が必要だ。だが、待ったなしの課題は、改革案が触れなかった八百長問題の実態解明と再発防止の徹底である。

独立委はこれまで、協会が公益法人として存続していくための組織のあり方を検討してきた。

野球賭博事件の際、協会は自己申告した力士を厳重注意にとどめ、幕引きを図ろうとした。問題意識の希薄さと危機管理能力の欠如を露呈した。

独立委が改革の柱の一つに、理事会の大幅な体制見直しを据えたのは、そうした甘い体質の排除を求めたものだろう。

12人の理事のうち、力士出身でない外部理事は現在2人だが、これを半数にまで増やすように要請している。

外部の視点で旧弊を改め、閉鎖体質から脱皮していくことこそ抜本的な改革には欠かせまい。

野球賭博事件を受け、協会は昨年夏に「暴力団等排除宣言」を行った。その際、独立委は宣言の中に、賭博とともに八百長にも罰則を科すとの一文を明記しようとしたが、「八百長はない」とする協会が反発して実現しなかった。

今や、協会の主張は完全に崩れ去ったと言えよう。

独立委の主な任務が組織改革の検討だったとはいえ、目下最大の関心事である八百長問題の対策に言及がなかったことには物足りなさが残る。

八百長には厳罰をもって臨むという強い姿勢を打ち出せと、答申で指摘すべきだった。

「国技」としての信頼を失墜させた八百長は、これまでの“土俵外”の不祥事に比べ、はるかに悪質な行為だ。この解明なしに大相撲の改革は前へ進まない。

プロ野球の野球協約には、八百長を禁じ、八百長行為をした選手らを「永久失格処分」とする規定がある。サッカーのJリーグ規約も「試合の結果に影響を及ぼす恐れのある不正行為に一切関与してはならない」と定めている。

大相撲に必要なのは、こうした明確な規定だ。八百長に関与した力士らは除名にするなどと明記することが、再発防止の第一歩につながるだろう。

八百長の実態調査は長期化の様相を見せている。すべてのウミを出し切らない限り、本場所再開の道は遠のくことを、協会は肝に銘じるべきだ。

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