調査捕鯨中止 悪質な妨害行為は許されない

朝日新聞 2011年02月22日

捕鯨打ち切り 将来像を冷静に考えたい

暴力的な妨害行為は許せない。だが、それへの対応に振り回されるだけではいけない。今後のあり方を考えることも必要だ。

政府は南極海で実施中の調査捕鯨を切り上げると発表した。反捕鯨団体シー・シェパードの妨害が原因だ。

この団体は捕鯨船に異常接近し薬品の瓶を投げつけるなど、危険な妨害を毎年続けている。国際社会が厳しく取り締まるべきである。

ただ、欧米の政府や社会には捕鯨への根強い反対論がある。日本政府は長い間、国際捕鯨委員会(IWC)を舞台に、他の捕鯨国と共に捕鯨の正当性を主張してきたが、論争はなかなか決着しそうにない。

両派の主張は根本から異なる。捕鯨派は「鯨は利用できる資源だ」と主張し、反捕鯨派の考えは「野生動物である鯨の保護」だ。

南極海のミンク鯨など資源として捕れる鯨類がいることは確かだ。科学的には日本政府の主張は正しい。だが、「数がいるからといって、捕って食べなくてもいい」とする価値観は、世界に広がっている。

お互いに受け入れられない主張の応酬を続けるだけでは、解決の展望は開けない。今や世界を一つの価値観で染めることはできないという認識に立って、現実的な妥協の道をさぐることが求められている。

今回の決定を機に日本もこれからの政策について冷静に考えることが大切だ。大きな戦略を描く中で、「南極海捕鯨は本当に必要か」を含めて検討すべきではあるまいか。

日本は「南極海で商業捕鯨を再開したい。調査捕鯨はその準備」といい、反捕鯨国の主張はさまざまだが、結局のところ「すべての商業捕鯨」に反対する姿勢を崩さない。

しかし、日本では鯨肉需要が伸びず、遠洋捕鯨産業は事実上、消えている。この現状を踏まえれば、南極海の商業捕鯨にこだわり続ける根拠は乏しいといえよう。

IWCでこれまでに浮上した有力な妥協案は「200カイリ外での捕鯨は禁止、沿岸捕鯨は容認」だ。沿岸捕鯨は各国の責任で判断すればいいし、南極海など公海での行為は世界の大方の意見が尊重されるべきだという考えに基づいている。

これは解決の方向として妥当な線だろう。反捕鯨国は、鯨を「利用可能な資源」と認めなければならない。同時に日本も「沿岸での商業捕鯨ができるなら、南極海での捕鯨は縮小・中止に向かう」という戦略へかじを切るべきではないか。

私たちは「食べるなと外国にいわれる筋合いはない」と反発しがちだ。しかしシー・シェパードに踊らされず、新しい捕鯨の形を考えたい。

毎日新聞 2011年02月19日

調査捕鯨の中断 根本見直しの契機に

日本が南極海で行ってきた調査捕鯨を今期は中途で打ち切ることが決まった。鹿野道彦農相はその理由として、反捕鯨団体シー・シェパード(SS)による妨害や追尾で、乗組員や調査船の安全確保が難しくなっていることをあげた。

シー・シェパードの「抗議活動」は危険極まりないものだ。調査捕鯨船団(4隻)は昨年末に日本を出港したが、年初にはシー・シェパードに捕捉され妨害行為が始まった。スクリューに絡ませるため進路にロープを投げ入れたり、ビンを投げつけるなど妨害行為は9回に及んだという。言語道断というほかない荒っぽさだ。捕獲頭数は予定をはるかに下回る水準で終わった。

乗組員の安全が危うくなっているとすれば、中断もひとつの判断であろう。問題は次期以降の調査捕鯨をどうするかである。

水産資源の有効活用は当然でありクジラも例外ではないだろう。クジラの生息数や分布がどうなっているか、科学的調査を行うことを非難されるいわれはない。

ただ、現実問題として食料としてのクジラに対する国内需要は急減している。戦後間もなくの食料不足時代にはクジラは貴重なたんぱく源であり、学校給食などにも使われた。団塊世代以上には郷愁を感じさせるクジラ肉だが、近ごろはめったに食卓にものぼらなくなった。このため、クジラ肉の在庫は近年にない水準に積み上がっている。

今回の調査捕鯨の打ち切りは、直接的にはSSの危険な活動が理由になっているが、中断やむなしとした背景には日本人の食生活の変化があると見ることができる。

多くの日本人が「外圧」によって調査捕鯨をやめることを不愉快に思い調査捕鯨の継続を支持している。しかし、現実にはクジラ肉を食べなくなっており、調査継続の意義を掘り崩している。SSよりも日本人の食の変化の方が調査捕鯨にとって難問なのである。

調査捕鯨は今期で6年間にわたる「第2期南極海鯨類捕獲調査」が終了し、第3期の計画の検討が行われる。大きな節目だ。この際は調査捕鯨を凍結することもふくめ、一度根本から見直してみてはどうか。国際捕鯨委員会(IWC)では調査捕鯨の大幅縮小、沿岸捕鯨の拡大などが提案されている。

そして、中長期的には日本の水産物資源の保護の水準を国際的に見劣りしないものに高める必要がある。クジラ問題だけでなく、マグロ問題でも日本に対する風当たりは強まっている。海外からの一方的な言いがかりを許さないように、まず自分の庭先をきれいにしよう。

読売新聞 2011年02月19日

調査捕鯨中止 悪質な妨害行為は許されない

南極海で調査捕鯨を続けていた日本の船団が、反捕鯨団体「シー・シェパード」の執拗(しつよう)な攻撃を受けて、今季の捕鯨を予定より1か月早く打ち切り、帰国することになった。

妨害行為は2005年から本格化しているが、捕鯨中止に追い込まれたのは初めてのことだ。

日本人乗組員の生命が脅かされる状況に至った以上、農林水産省が安全を優先し、捕鯨続行を断念したのは、やむを得まい。

だが、1987年に始まった日本の調査捕鯨は、国際捕鯨取締条約に基づく正当な活動である。

それを暴力的手段で封じようとするシー・シェパードの行為は、決して許されるものではない。

シー・シェパードの妨害行為に対しては、国際捕鯨委員会(IWC)が、全会一致で強く非難する決議を採択している。

昨年7月には、捕鯨船への不法侵入や乗組員への傷害などの罪に問われたシー・シェパードの小型高速船の元船長が、東京地裁で有罪判決を受けた。

しかし、こうした世界的な批判をあざ笑うかのように、妨害活動は年々、激しくなっている。

人工衛星で捕鯨船団の位置を把握し、異常接近したうえで、発煙筒を投げつけ、発火弾を発射する。捕鯨船のスクリューにロープを絡ませ、航行を阻むなどエスカレートする一方だ。

懸念されるのは、捕鯨の中止で、「日本は妨害に屈した」との印象を反捕鯨団体などに与えないかということだ。そうならぬよう調査捕鯨の正当性を国際社会に改めて訴えることが必要である。

妨害船の寄港地である豪州は、反捕鯨国で、シー・シェパードの監視には及び腰だったが、今回は豪州船籍の妨害船が含まれているという。豪政府に厳重な取り締まりを求めるべきだ。

妨害活動が半ば放置されているのは、捕鯨国と反捕鯨国の対立が一向に解消しないためでもある。日本は反捕鯨国との対話を粘り強く積み重ねるしかあるまい。その意味で、昨年のIWC総会は一つの転換点として注目されよう。

議長から、日本の調査捕鯨の捕獲枠を10年間で大幅に削減するかわりに、日本が求める沿岸の商業捕鯨を上限付きで認める案が出されたからだ。合意には至らなかったが、妥協の機運は高まった。

南極海の調査捕鯨は現在、年間約900頭を捕獲する計画となっている。鯨肉消費の低迷などを考えれば、今後の捕鯨政策は、IWC案を軸に見直すべきだろう。

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