GDPマイナス 足踏みからの着実な回復図れ

朝日新聞 2011年02月15日

景気の行方 攻めの機運をそぐなかれ

景気回復が失速する「二番底」の懸念は、杞憂(きゆう)だったようである。

きのう発表された昨年10~12月期の国内総生産(GDP)統計の1次速報は、家電のエコポイントなど政策効果が縮小したため、大方の予想通り前期比マイナスだった。だが鉱工業生産など指標の動きをよく見れば、回復軌道にあることは明らかだ。

復調を支えているのは、まず何より新興国の成長だ。発展する市場向けの新製品開発や投資拡大など民間企業の攻めの姿勢が、外需を着実に取り込み、結果を出し始めている。

米国の景気後退懸念が和らいだことも大きい。「QE2」と呼ばれている連邦準備制度理事会(FRB)による金融の量的緩和と、オバマ政権が共和党との大胆な妥協でブッシュ減税の継続に踏み切ったことが、消費意欲を刺激した。ニューヨーク市場では株価が上昇気流に乗っている。

その結果、円高ドル安の流れが止まり、為替相場が安定した。世界的な株式市場の再評価の動きのなかで、東京市場も株価が息を吹き返した。

2008年秋のリーマン・ショックの直後、日本企業はそれまでの欧米先進国依存を前提にした世界戦略が崩壊して茫然(ぼうぜん)自失の体だった。一昨年から昨年にかけては、新興国を含めた全世界に視野を広げた新しい戦略作りと、経営資源の再配分に向けた立て直しの時期だったといえるだろう。そして今年は、日本企業が腹をくくって全世界に打って出る。そんな自信回復と行動の年になりつつある。

新日鉄と住友金属工業との合併交渉入り、NECによる中国レノボとのパソコン事業合弁など、大がかりな再編の動きがその象徴だ。オリンパスが社長に英国人を登用するなど、経営のグローバル化も本格化している。攻めの動きはさらに広がるだろう。

とはいえ、内外の不安材料は尽きない。世界にだぶつくマネーが食料や資源の相場を押し上げ、新興国を中心にインフレ懸念が募る。欧州では財政危機がユーロを揺さぶり続けている。世界経済に緊張感が高まれば、円高がさらに進む恐れもある。

国内をみれば、国債格下げという世界市場からの「警告」とは裏腹に、財政再建に向けた政治の動きがおぼつかない。新年度予算の行方だけでなく、政争本位の国会自体が国民の間に不安をかきたてている。

日本の経済界の空気は前向きだ。攻めの動きを加速させるには、政治にも前向きな機運が生まれることが何よりだ。民間の足を引っ張らないという見識と努力を示してほしい。

昨年のGDPで中国が日本を抜いたことも確認された。これも日本が過去にとらわれず、前に進むべきだという警鐘として受け止めたい。

読売新聞 2011年02月15日

GDPマイナス 足踏みからの着実な回復図れ

予想よりマイナス成長の幅は小さかったとはいえ、景気の先行きに対する不安はぬぐえない。

昨年10~12月期の実質国内総生産(GDP)が発表され、前期比年率で1・1%減となった。昨年後半に景気回復が足踏みしたことを、数字が裏付けた。

今年に入って、消費や生産は持ち直しつつあるようだ。このため、民間調査機関の多くは、1~3月期は緩やかなプラス成長を回復すると見ている。

だが、懸念材料は少なくない。政府・日銀は、金融緩和を維持するなど成長優先の政策運営を続け、景気をしっかりと回復軌道に乗せることが肝要だ。

10~12月期は、内需が5四半期ぶりにマイナスを記録した。エコカー補助金の打ち切りで自動車販売が急減するなど、消費が一時的に落ち込んだためだ。

ただ、12月の家電エコポイントの縮小を前に、薄型テレビなどに対する駆け込み需要が起き、自動車販売の不振を補った。

外需も、円高や海外経済の減速でマイナスになったが、米国やアジア向けの輸出は底堅かった。

この結果、2010年の1年間のGDPは、実質、名目ともに3年ぶりにプラスに転じた。

2008年秋のリーマン・ショック以降の深刻な不況からの脱出が改めて確認された形である。

今後の景気動向については、予断を許さない。原油や小麦など、世界的な資源や穀物の高騰で、原材料の価格は上昇を続け、企業の収益を圧迫し始めている。失業率も高止まりしたままで、雇用は依然として厳しい。

こうした情勢の中、景気下支えに必要な2011年度予算案と関連法案は、国会審議が難航している。子ども手当などのバラマキ政策を見直したうえで、早期成立を図るべきだ。

今回の発表で、10年の名目GDPは、中国が日本を追い抜いたことが確定した。

日本は1968年に、当時の西ドイツを抜いて米国に次ぐ経済大国となった。その地位を42年間守り続けたが、ついに世界2位の座を明け渡した。

中国経済の急成長は、巨大な市場が生まれることを意味し、日本経済にとってもプラス材料だ。

それにしても、日本の経済規模が約20年前と同水準というのは情けない。やみくもに規模拡大を目指す必要はないが、一定の豊かさを維持するため、成長戦略を着実に進める必要がある。

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